第89話「止まらない村」
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その七日間は、息が詰まるほど長く、そして重かった。
教会の通告した『強制執行』の期限が、巨大な刃となって村の頭上にぶら下がっている。だが、村の日常の営みは決して止まらなかった。いや、止めるわけにはいかなかった。
村のいたるところで、ブルーノの弟子たちが顔を強張らせながらも黙々と柱を立て、壁を編み、屋根を葺き続けている。
カーム村から逃れてくる八十人を迎えるための住居は、まだ半分しか完成していない。教会が来ようが、村が焼かれようが、彼らが到着する前に雨風を凌ぐ屋根を作らなければならないという使命感が、職人たちの手を動かし続けていた。
マルタの家の縁側では、異端審問の恐怖などどこ吹く風と、辰砂から朱を精製する作業が続けられていた。マルタとソフィアの二人が、赤い粉末を水に溶き、不純物を沈殿させ、慎重に上澄みを掬い取っていく。十五年ぶりに並んだ母娘の連携は、日を追うごとに洗練さを増している。「教会? あたしの仕事は変わらないよ」。鼻で笑い飛ばすマルタの皺深い横顔には、辺境で生き抜いてきた老婆の、岩のような肝の太さと意地が刻み込まれていた。
ロザは、増築を続ける建設現場の指揮と迎賓館の管理を、血を吐くような気迫で同時にこなしていた。教会の異端審問の話は、すでに村中に行き渡っている。移住してきたばかりの者たちの間には、隠しきれない動揺と恐怖が広がっていた。だが、ロザは「手を動かしなさい。不安な時ほど、手を動かして何かを作ることが一番の薬よ」と、毅然とした声で村人たちを導き、恐怖に押し潰されるのを防いでいた。
ゴルドは、広場の隅で深く腕を組み、ただ無言で鳥居を見つめている時間が増えた。
何を考えているのか、私は聞かなかった。聞く必要もなかった。
あの不器用で誠実な村長が、この村と村人たち、そしてあの黒漆の門を守り抜くために、自分に一体何ができるのかを、血の滲むような思いで考え続けているのだということだけは、その丸まった広い背中が痛いほどに物語っていた。
カイルたち四人は、村の外縁部を昼夜交代で厳重に巡回していた。特に、教会の一行が来るであろう南の街道には、常に誰かの鋭い監視の目が向けられている。
そして私は、ピートとの早朝の弓の稽古を、一日も欠かすことなく続けていた。
世界がどれほど暗い影に覆われようと、約束は守る。それが私の神主としての日常だからだ。
初日には足元の泥に矢を突き刺していたピートだったが、四日目には的を捉え、六日目の夕暮れには、三十メートル先の的の中央近くに矢を集めるまでに上達していた。彼の弓術の天賦の才には、本当に舌を巻く。
「ハルさん。俺の矢がこんなに当たるようになっても…あの教会の連中には、効きませんよね」
稽古の終わり。夕日を背に受けながら、ピートがふと、落ちた声でこぼした。
「効きませんね。彼らが纏っているのは鉄の鎧ではなく、宗教と大貴族の権威です。弓矢の物理的な力では、どうにもならない相手です」
「じゃあ、何が効くんですか。俺たち、どうすればいいんですか」
「…分かりません。でも、逃げるつもりはありません」
ピートが、弓を強く握りしめ、黙って深く頷いた。この若い弓使いの目に、怯えの濁りは欠片もなかった。
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七日目の朝が来た。
私は社殿の前に立ち、いつもと全く同じ所作で、サッ、サッ、と竹箒を動かしていた。
静まり返った冷たい朝の空気に、竹の穂先が土を擦る音だけが規則正しく響く。見上げれば、簡素な板壁に並んだ六枚の御札が、昇り始めた朝日に照らされて静かに輝いている。
天の五柱と、地の一柱。この六柱の調和が生み出す神域が、今日も変わらず、見えない力で村を優しく包み込んでいた。
箒を置き、社殿に向かって深く二礼、二拍手、一礼。
柏手の澄んだ音が、春の空高くへと吸い込まれていく。
「…六柱の大神様。今日、教会の者たちが参ります。どうか、この村と人々を、お守りください」
祈りを終え、ゆっくりと目を開けた時。
広場の方から、カイルが地を蹴って全速力で走ってくるのが見えた。
「来たぞ!」




