第64話「握りしめた拳」
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ゴルドに事実を伝えた。
村の広場。状況を聞き終えた村長の反応は、火を見るよりも明らかなものだった。
「わしらも戦う。この村はわしらの村だ。守るのはわしらの仕事だ!」
「ゴルドさん。お気持ちは分かりますが…」
「気持ちの問題じゃない! 事実の問題だ! ハルさんとグラキウスの二人だけで三十人を相手にするなど、無茶にも程がある!」
「無茶ではありません。グラキウスさんと私なら、三十人程度は対処できます。それより、村人の皆さんには、家の中に入って絶対に出ないでいただきたい。特に子供たちとリーナを」
ゴルドが、丸太の椅子から立ち上がり、両手の拳を握りしめた。
長年、辺境の厳しい自然の中で斧を振るい続けてきた、太く筋張った腕。その指の関節が白く血の気を失い、わなわなと震えている。「自分の村を、よそ者の二人に任せて隠れていなければならない」という事実が、彼の長としての矜持を激しく切り裂いているのだ。
「…わしは村長だ。村の危機に家の中で震えているような男では、村の長は務まらん」
絞り出すようなゴルドの声に、グラキウスが一歩前に出た。
一切の感情を排した、冷酷なまでの戦士の目が、ゴルドを真っ直ぐに射抜く。
「ゴルド。あんたの悔しさは、痛いほど分かる。だが、今回は引いてくれ」
グラキウスの声には、怒りも焦りもなかった。ただ、純然たる『戦場の事実』だけが響いていた。
「盗賊との戦いは、あんたが思っている以上に速い。暗闇の中で、一瞬の判断の遅れが死に直結する。命のやり取りに慣れていない素人が混ざれば、わしは味方を守るために剣の軌道を曲げなければならなくなる。あんたや村の若い者を気にしながら戦うことが、わしにとっての『最大の弱点』になるんだ」
ゴルドは、グラキウスの目を見て、そこに一切の誇張や謙遜がないことを悟ったの。自分が加勢することが、逆に彼らを窮地に陥れるという絶対的な真理。
ゴルドはしばらく無言のまま、奥歯を噛み締め、グラキウスの目を見つめ返していた。
やがて——ひどくゆっくりとした動作で、握りしめていた拳を開いた。
「…分かった。だが、わしは広場にいる。家の中には入らん。何かあれば、村人を逃がすための指揮を執る。それくらいは許せ」
「十分です。それが村長の仕事です」
ロザにも伝えた。
彼女は盗賊の数を聞いて一瞬だけ顔から血の気を引かせたが、瞬時に息を吸い込み、冷徹な実務の顔へと切り替わった。
「子供たちと女性は、一番頑丈な集会所に集めます。窓には板を打ち付け、入り口を重い家具で塞いで、中から固く鍵をかけます。男衆も広場から絶対に外には出ない。それでいいですね」
「ええ。何の音が聞こえても、絶対に扉を開けないでください」
「分かりました。…ハルさん」
ロザが、普段の甲高い声を少しだけ落として私を見た。
「ご無事で…」
「大丈夫ですよ。いつもの境内の掃除の延長みたいなものですから」
「…冗談ですか?」
「半分くらいは」
ロザが微かに口角を上げ、すぐに向き直って村の女性たちへの指示出しに走っていった。




