第61話「熱狂の商談」
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二日目の午後。市の熱気は最高潮に達していた。
ブルーノの工房で作られた竹細工が、文字通り飛ぶように売れた。
特に、あの狂気的なまでに磨き上げられた黒漆塗りの水筒と籠は、六人の商人が互いに牽制し合いながら競り合って値を吊り上げ、最終的にペドロが提示した当初の予想の三倍近いとんでもない値で全て買い取られた。
ブルーノ本人は「人が多い場所は嫌いだ」と工房の奥から一歩も出てこなかったが、ダリオが興奮して結果を報告に行くと、ただ一言「そうか」とだけ短く答えたという。
マルタの辰砂にも、当然のように複数の商人から強い引き合いがあった。だが、マルタはニタニタと笑いながらそれを全て断っていた。
「悪いね、今日は原石を出す気はないんだ。もう少し待ちな。近いうちに、あんたたちが腰を抜かすようなもっと面白いものを出してやるから」
朱の顔料のことだ。まだ私の指導のもとで精製の実験段階だが、マルタの目にはすでに成功の確信と、独占利益の計算が渦巻いている。この老婆の、勝負所を見極める商売の嗅覚は恐ろしく鋭い。
冒険者パーティ『鉄蜂』の面々は、村の外周を交代で厳重に巡回しながら、非番の者が市を物珍しそうに覗きに来ていた。
ヴィクトルが竹細工の編み込み籠を手に取り、裏返し、指先でピンと弾いて音を聞いた。ペドロが品定めをする時と全く同じ仕草だ。元冒険者は、命を預ける道具の良し悪しを手触りと音で判断する習慣が、骨の髄まで染みついている。
「いい仕事だな。この編みの執念とも言える精度は、街の高級職人でもなかなか出せない。…ペドロが目の色を変えて惚れ込むわけだ」
市が終わりに近づいた頃、ペドロが私とゴルドとロザを広場の隅に呼び集め、小さな総括の場を持った。
「良い予行演習だった。商人たちも大満足だ。村の側から見て、問題点は見えたか」
ロザが、借りた白い紙に細かく書き留めていた覚え書きを広げた。
「はい。まず、広場が絶対的に手狭です。商人が十人を超えれば、今の広場では完全にパンクします。隣の牧草地の一角の柵を外し、臨時の市場として拡張する必要があります。次に、宿泊場所が不足しています。集会所と空き家だけでは、商人と護衛の全員を収容しきれません。簡易の宿舎を建てるか、あるいは天幕を張るための平らな区画を用意するか。それから——交易路の道幅です。途中で荷馬車がすれ違えないボトルネックの箇所が三ヶ所ありました。道を広げて整備しなければ、これ以上の数の隊商は物理的に入ってこられません」
ペドロが、深く感心したように満足げに頷いた。
「完璧な分析だ。ロザ殿、あんた本当にこれまで商売や流通の経験はないのか」
「ありませんよ。ただ、昔から物の配置と人の動きの無駄を見るのが、少しだけ得意なだけです」
「それは天賦の才能だよ。大商会の番頭が何年もかけて覚える仕事を、経験なしで初日からやっている」
ゴルドが腕を組んで、ロザの言葉を黙って聞いていた。それから、低く、重い声でペドロに問うた。
「…ペドロ。次の隊商はいつ頃になる」
「春の盛りだな。雪解けが終われば、今度はもう少し人数が増えるかもしれん。今回の商人たちが街に戻れば、確実に村の竹細工の噂が広まる。わしの手を通さずに、直接ここへ乗り込もうとする欲深な商人も出てくるだろう。その前に、道と宿の問題は解決しておきたい」
「分かった。…ハルさん」
「はい」
「道普請をやるそ。村総出でな。交易路の木を伐り、土を均して広げ、古い橋を架け直して、荷馬車が二台余裕ですれ違える太い道にする。それと、ロザの言う通り、余所者を泊めるための新しい宿舎も一棟建てるぞ。ブルーノを工房から引きずり出してでもな。あんたにも手伝ってもらう」
「私が道普請と建築ですか。私は神主なんですが」
「神主でも毎日平気な顔で竹を切っとるだろうが。体力はある。道も宿も作れ」
「…善処します」




