第59話「初市の賑わい」
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ロザの采配が本領を発揮した。
彼女は村の空間を巨大なチェス盤のように見立て、駒を動かすように的確な指示を飛ばし始めた。
七台の荷馬車を東の空き地に淀みなく誘導し、馬を解いて繋ぎ場に間隔を空けて並べさせる。商人たちの重い荷下ろしを手伝うために、ダリオたち若い衆を素早く配置する。ヴィクトルたち冒険者八人の宿泊場所は、集会所の最も奥の広い板間へ。馬のための大量の飲み水は、三つの大桶に満たして広場の隅へ等間隔に設置。
「荷馬車はあちら、竹製の仕切り線の内側に一列に並べてください。馬の頭は全部同じ方向に向けて。飼い葉桶はそちらの柵の内側に用意してあります」
「宿泊の商人さんは、集会所の手前の板間にお布団を敷きます。冒険者の方々は奥の部屋を使ってください。夜は冷え込みませんが、もし毛布が足りなければいつでも声をかけてくださいね」
「厠は工房の裏手に二つあります。男性用と女性用に分けてありますから、間違えないように」
ロザの甲高いがよく通る声が、広場のあちこちに飛ぶ。
その指示は極めて的確で、一切の淀みがなかった。どこで人が詰まりそうになるか、どこに物を置けば効率が良いか。村の物理的な構造を熟知している彼女の頭の中には、荷馬車の動線、人の流れ、水と食料の配分が完璧な立体図として描かれているのだろう。少しでも混乱しかけた箇所があれば、すかさず駆け寄って人の流れを整えてしまう。
マルタが腕を組み、その見事な立ち回りを遠くから満足そうに眺めていた。
「大したもんだね、あの子は。あたしが仕込んだ甲斐があったというものさ」
「マルタさんが教えたんですか」
「昔、辰砂の管理を手伝わせる時に、仕事の段取りと物の配置の基本を徹底的に叩き込んだのさ。元の素材が良かったから、乾いた砂が水を吸うようにすぐに覚えたよ」
マルタの厳しい指導を受けたロザが、今、二十年分の鬱憤を晴らすようにその能力を全開にしている。辺境の村に受け継がれた実務の系譜が、この未知の混乱を見事に水際で防いでいた。
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広場に、ついに市が立った。
六人の商人たちがそれぞれの荷馬車から色とりどりの品物を下ろし、ロザが指定した木台の上に次々と並べていく。
街で織られた色鮮やかな布地、光沢のある金属の鍋やナイフ、細かな細工が施された陶器、南方の国から運ばれてきたという赤や黄色の香辛料、砂糖漬けにされた干し果物、滑らかな手触りの革製品、そして分厚い皮表紙の書物。
ルーテ村の村人たちが一度も見たことのないような多種多様な品物が、静かだった広場を圧倒的な色彩と匂いで埋め尽くした。
村人たちの反応は、世代によって明確に二つに分かれていた。
ゴルドは、鳥居の脇に立って広場の喧騒を眺めながら、懐かしそうに目を細めていた。
「…二十年前は、こんな光景が毎月のようにあったんだ。古い交易路が生きていた頃は、商人が頻繁に立ち寄って、この広場に荷を広げていた。マルタ、お前も覚えているだろう」
「よく覚えているよ。あたしはまだ若かったけどね。あの頃は、村に活気があった。親父が掘り出した辰砂を売って、街から綺麗な反物や貴重な塩をたくさん買い込んでいたもんさ」
二人の老人にとって、これは「再会」だった。二十年間、深い森の底に沈められていた日常が、新しい血を伴って再び蘇ってきたのだ。
だが、ダリオや村の若者たちにとっては、これは全てが初めての、衝撃的な体験だった。
ダリオが、陶器の小瓶に詰められた黒い粒を珍しそうに手に取り、顔を近づけて深く匂いを嗅いだ瞬間、顔をくしゃくしゃにして盛大にくしゃみをした。
「ぶえっくしょい! っっ、何だこれ、鼻の奥が爆発したぞ!」
「それは胡椒だよ、兄ちゃん。肉料理に少しだけ振りかけると、味がピリッと締まって最高にうまくなるんだ」
小太りの商人が、腹を揺らして笑いながら説明している。ダリオは胡椒という概念自体を、今日、人生で初めて知ったらしい。
リーナが、革製品の並ぶ台に両手を突いて張り付き、手のひらサイズの小さな革の手帳をうっとりとした顔で撫でている。
「ハルさん、これ何? 白い紙が、柔らかい革の中に行儀よく入ってるの。すごく触り心地がいい」
「それは手帳ですね。旅人や商人が、大事な記録をつけるのに使うものですよ」
「欲しい! これにハルさんに教わった文字を書く練習したい!」
「この間ペドロさんが持ってきてくれた、蝋板があるでしょう。紙の手帳に書いたら、蝋板みたいにこすって消すことはできないですよ」
「消せないのがいいの。一番上手に書けたやつだけを、ずっと残しておきたいから」
少女の反論に、妙に真っ当な筋が通っていた。私は苦笑して、懐の硬貨の枚数を少しだけ計算した。




