第45話「忘れられた神」
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五日目の朝は、鳥のさえずりが一切聞こえなかった。
夜明け前に起き出し、重い背嚢を担ぎ、三人は無言で歩き始めた。
波動が強い。方角が明確だ。これまでの進路からやや右寄りに、穢れの流れが一つの場所に向かって収束している。もう迷う余地はなかった。
「進路を右に。あちらです」
カイルの鉈が藪を払い、グラキウスが倒木を乗り越え、私が穢れの流れを追って方角を示す。三人の足が速まっていた。五日分の極限の疲労が嘘のように、足が前に出る。源が近い。もう、近い。
木々の密度が急に薄くなった。
立ち枯れた大木が折れた骨のように空を指す中に、不自然にぽっかりと開けた空間が現れた。倒木が円形に散乱し、灰色に変色した地面には草の一本も生えていない。直径は三十歩ほどの、完全に枯れ果てた広場。
その中央に、一つだけ、何かが残っていた。
石だ。
苔むした古い自然石。人の腰ほどの高さ。平たい表面に、かつて何かが刻まれていた痕跡がかすかに残っているが、長い歳月の風化と穢れの強烈な浸食で判読は完全に不可能だった。
石の周囲だけ、紫黒色の瘴気が渦を巻いている。ゆっくりと、脈を打つように。大きく重く呼吸しているかのように。
「…祭壇だ」
カイルが眉をひそめる。
「祭壇?」
「古い祭壇です。誰かがここで、何かを祀っていた。とても長い間」
カイルが柄に手をかけ、周囲を鋭く警戒しながら広場の縁を歩く。グラキウスは剣の柄に手を添えたまま、石の表面に残る文字の痕跡を凝視して動かない。
私は祭壇に向かって、ゆっくりと足を踏み出した。一歩進むごとに、極度に濃縮された瘴気が肌をちりちりと刺す。喉が灼けつくように熱い。目の奥が重く圧迫される。だが、それらの肉体的な苦痛を突き抜けて、五日間追い続けた波動が、堰を切ったように直接魂へ流れ込んできた。
感情の奔流。
忘れられた。捨てられた。名前を呼ぶ者がいなくなった。
かつて、ここには人がいた。季節の巡りごとに供物を持ってきてくれた。初穂の黄金色の麦を捧げ、秋の豊かな木の実を並べ、冬至の凍てつく夜には温かい火を焚いて歌を歌ってくれた。名を呼んでくれた。ここに在る意味があった。
それが途絶えた。少しずつ。
森を訪れる人が減り、供物が途切れ、名を呼ぶ声が遠くなり、やがて完全に消えた。それでも待ち続けた。誰かがまた来てくれると。だが誰も来なかった。何十年も。何百年も。
力が衰え、祈りの欠如が穢れとなって染み込み始めた。止められなかった。繋ぎ止める糧がないのだ。祈りが一滴もない。かつて森を守っていた清浄な力がどす黒い穢れに変質し、それが森に染み出し、無実の獣たちを苦しめていることは分かっている。分かっているのに止められない。自分が朽ちて狂っていくのを、ただ絶望の中で見つめるので精一杯なのだ。
助けてほしい。名前を呼んでほしい。独りは、もう…。
視界が歪んだ。
熱い涙が頬を伝い、顎からこぼれ落ちた。一筋、二筋。止めようがなかった。
カイルが鋭い勢いで駆け寄ってくる。
「ハルさん!」
「…大丈夫です。攻撃されたわけじゃない」
乱暴に袖で涙を拭い、深く、長く息を吸い込んだ。
そして、私ははっきりと理解した。五日間かけて追ってきた答えが、今、完全な形で見えた。
「ここにいるのは…この土地を守っていた古き神です」
カイルの足が止まり、顔が凍りつく。
「人々が祈り、名を呼び、感謝を捧げていた、土地の守り神です。ソル・デウスの教えが広まった時、人々は唯一神以外の信仰を捨て、この祭壇は打ち捨てられた。祈りが途絶え、神は力を失い、悲嘆が穢れに変じた。森を侵し、獣を歪めているあの穢れは…この神の耐え難い苦痛の発露です。攻撃じゃない。ただ、果てしなく苦しんでいるだけだ」
長い、あまりにも長い沈黙が降りた。
無言で石を見下ろすグラキウス。その灰色の目は、どこにも焦点を結んでいない。
「…ソル・デウスの教えが、この神を殺した…と、そういうことか」
声が、かすかに、しかし決定的に震えている。
「殺してはいません。まだ生きている。嘆きながらも、朽ちかけながらも、まだ意識がある。完全には消えていない」
グラキウスがゆっくりと目を閉じた。組んだ両腕の、左手の指先が、はっきりと震えている。
この老人の中で、何かが激しく揺さぶられていることだけは分かった。長い年月をかけて積み上げてきた大義。自らの左腕を呪いに染めてまで信じ抜いてきた絶対の正義が、足元から音を立てて崩れていくような、恐ろしい沈黙だった。
私は何も問わない。この人の痛みは、この人自身のものだ。




