表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生神主の日常 〜掃き清めた地が国となるまで〜  作者: 秋澄しえる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/56

第38話「冒険者と居候」

◆◇◆◇◆


「カイルさーん!」


 リーナの弾むような声が広場に響き渡った。


 古い交易路の入り口に、四人の武装した男女が立っていた。

 先頭のカイルは、以前より少し精悍に、頬の線が鋭くなった顔つきで立っている。真新しい革鎧の上に、冬用の分厚い外套を羽織っていた。セラ、ヨルン、ピートも同様だ。

 全員の装備が、明らかに一段階上の質のものに変わっている。以前の使い古した革鎧から、要所に金属の補強が入り、動きやすさと防御力を兼ね備えた上等な防具。それを身に纏う彼らの立ち姿からは、いくつもの死線を潜り抜けてきた確かな自信が滲み出ている。


「リーナ。元気そうだな」


 カイルは村の空気を深く吸い込み、強張っていた肩の力をすっと抜いた。

 結界の中に入った瞬間に、体に纏わりついていた見えない重りが剥がれ落ちる感覚。この男はもう、それをしっかりと肌で理解している。


 ゴルドが広場に出てきて、カイルの前に立った。大きな手を差し出し、力強い握手が交わされる。


「カイル。予告より少し遅かったな」

「すまない。ギルドの手続きに手間取った。…ゴルドじいさん、村が随分と活気づいているな」

「ハルさんとブルーノとマルタのおかげだ。…わしは何もしとらんがな」

「村長が何もしていない村が、こんなに栄えるわけがないだろう」


 ゴルドは鼻を鳴らしてそっぽを向いたが、耳の先がはっきりと赤く染まっていた。


 私が広場に追いついた時、カイルの視線がすぐにこちらを捉えた。


「ハルさん。無事で何よりだ」

「お久しぶりです、カイルさん。お元気そうで」

「ああ。…ハルさん、あんたに渡したいものがある。後で話す時間をくれ」

「分かりました。まずはゆっくり休んでくだ——」


 リーナが私の前に割り込み、広場の奥の丸太を勢いよく指差した。


「カイルさん! 紹介したい人がいるの! グラさーん、こっち来て! カイルさんだよ!」


 丸太に腰掛けていた白い髭の老人が、ゆっくりと立ち上がり、こちらへ歩いてくる。


 分厚い胸板。静かで淀みのない歩様。そして、自然な動作で組まれた両腕。

 到着時の、あの左腕が死んだように垂れ下がっていた姿を知る者なら、その両腕が滑らかに動いていること自体に驚くことだろう。


 カイルの目が、微かに細められた。


 冒険者の観察眼が、瞬時に目の前の男の力量を測っているのが分かった。


 体格、足運びの重心、腰にいた長剣の位置。そして何より、全身から隠しようもなく滲み出ている「途方もない場数」の気配。Aランク相当の実力を持つ冒険者は、この手の同類の気配を嗅ぎ分ける能力に長けている。


「…ハルさん。この方は」

「グラキウスさん。一ヶ月ほど前に村に来られた旅人で、今は居候です」


 カイルの眉がぴくりと動いた。


「居候だと?」

「グラキウスだ。よろしく頼む、カイル殿」


 グラキウスが、分厚い右手を差し出した。

 カイルがその手を握る。

 一瞬だけ、二人の間に無言の力比べのような、張り詰めた緊張が走った。互いの握力、手のひらの皮の厚さ、骨の太さから、相手の底の深さを推し量っている。


「…いい握りだな。冒険者か」

「Aランクだ。パーティとしてはBだがな」

「ほう。Aか。この辺境まで来るAランクは珍しい」

「あんたこそ、ただの居候には見えんが」

「わしは本当にただの居候だよ。洗濯をすればシャツを縮めるし、料理をすれば炭を作る。何の取り柄もない老いぼれだ」


 リーナが横から明るい声を上げた。


「グラさん、一本道で三回迷子になったんだよ」


 カイルが怪訝な顔で眉根を寄せる。セラが手で口元を覆い、小さく吹き出した。

 グラキウスは涼しい顔で、豊かな白い髭を撫でている。自分の失態が、場の張り詰めた空気を一瞬で和ませることを、この老人は完全に熟知して使っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ