第38話「冒険者と居候」
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「カイルさーん!」
リーナの弾むような声が広場に響き渡った。
古い交易路の入り口に、四人の武装した男女が立っていた。
先頭のカイルは、以前より少し精悍に、頬の線が鋭くなった顔つきで立っている。真新しい革鎧の上に、冬用の分厚い外套を羽織っていた。セラ、ヨルン、ピートも同様だ。
全員の装備が、明らかに一段階上の質のものに変わっている。以前の使い古した革鎧から、要所に金属の補強が入り、動きやすさと防御力を兼ね備えた上等な防具。それを身に纏う彼らの立ち姿からは、いくつもの死線を潜り抜けてきた確かな自信が滲み出ている。
「リーナ。元気そうだな」
カイルは村の空気を深く吸い込み、強張っていた肩の力をすっと抜いた。
結界の中に入った瞬間に、体に纏わりついていた見えない重りが剥がれ落ちる感覚。この男はもう、それをしっかりと肌で理解している。
ゴルドが広場に出てきて、カイルの前に立った。大きな手を差し出し、力強い握手が交わされる。
「カイル。予告より少し遅かったな」
「すまない。ギルドの手続きに手間取った。…ゴルドじいさん、村が随分と活気づいているな」
「ハルさんとブルーノとマルタのおかげだ。…わしは何もしとらんがな」
「村長が何もしていない村が、こんなに栄えるわけがないだろう」
ゴルドは鼻を鳴らしてそっぽを向いたが、耳の先がはっきりと赤く染まっていた。
私が広場に追いついた時、カイルの視線がすぐにこちらを捉えた。
「ハルさん。無事で何よりだ」
「お久しぶりです、カイルさん。お元気そうで」
「ああ。…ハルさん、あんたに渡したいものがある。後で話す時間をくれ」
「分かりました。まずはゆっくり休んでくだ——」
リーナが私の前に割り込み、広場の奥の丸太を勢いよく指差した。
「カイルさん! 紹介したい人がいるの! グラさーん、こっち来て! カイルさんだよ!」
丸太に腰掛けていた白い髭の老人が、ゆっくりと立ち上がり、こちらへ歩いてくる。
分厚い胸板。静かで淀みのない歩様。そして、自然な動作で組まれた両腕。
到着時の、あの左腕が死んだように垂れ下がっていた姿を知る者なら、その両腕が滑らかに動いていること自体に驚くことだろう。
カイルの目が、微かに細められた。
冒険者の観察眼が、瞬時に目の前の男の力量を測っているのが分かった。
体格、足運びの重心、腰に佩いた長剣の位置。そして何より、全身から隠しようもなく滲み出ている「途方もない場数」の気配。Aランク相当の実力を持つ冒険者は、この手の同類の気配を嗅ぎ分ける能力に長けている。
「…ハルさん。この方は」
「グラキウスさん。一ヶ月ほど前に村に来られた旅人で、今は居候です」
カイルの眉がぴくりと動いた。
「居候だと?」
「グラキウスだ。よろしく頼む、カイル殿」
グラキウスが、分厚い右手を差し出した。
カイルがその手を握る。
一瞬だけ、二人の間に無言の力比べのような、張り詰めた緊張が走った。互いの握力、手のひらの皮の厚さ、骨の太さから、相手の底の深さを推し量っている。
「…いい握りだな。冒険者か」
「Aランクだ。パーティとしてはBだがな」
「ほう。Aか。この辺境まで来るAランクは珍しい」
「あんたこそ、ただの居候には見えんが」
「わしは本当にただの居候だよ。洗濯をすればシャツを縮めるし、料理をすれば炭を作る。何の取り柄もない老いぼれだ」
リーナが横から明るい声を上げた。
「グラさん、一本道で三回迷子になったんだよ」
カイルが怪訝な顔で眉根を寄せる。セラが手で口元を覆い、小さく吹き出した。
グラキウスは涼しい顔で、豊かな白い髭を撫でている。自分の失態が、場の張り詰めた空気を一瞬で和ませることを、この老人は完全に熟知して使っている。




