第二章一話シスター.ヴィヴィアン
ダンジョ
シンシアは怯えているようだった。
「何が怖かったの?」
エミリーも思わず女の子っぽい口調に自然となってしまう。
「あのねぇ、私はどこから来たのか分からないの。」
そうシンシアは話した。シンシアもエミリーと同じで、居場所はないらしい。
「良かった。私もこの世界に居場所がなくて……。」
「良かった。貴方も居場所が分からない人で……。」
エミリーは寂しげに語った。
「そうなんだ。私は気がついたらこの世界にいて、シンシアって名前になっていたの。」
シンシアは顔を俯向かせた。
シンシアがいたのは獣人の国との境目の場所だった。
なぜかボロボロの服を着ていた。
シンシアはただ走るしかなかった。
ただただ走っていて気がついたら街中でシスター・ヴィヴィアンがシンシアを見つけて急いでシンシアの裸足にボロボロの布切れを巻いてくれた。
その布切れからは血が滲んでいた。
「そうだったんだね……。」
エミリーはシンシアのボロボロになっても生きたいという思いに涙が溢れた。
「だから、シスター・ヴィヴィアンさんは命の恩人なのよ。」
シンシアは皆にオートミール粥のようなものを配りながら話した。
配ったオートミール粥のようなものは、シンシアが獣人国の国境から逃げていて孤児院に入った時に初めて食べた食事で、口の中に入れるとぷちぷちっと弾けた。
「ヴィヴィアンさんはとても献身的なのよ。」
そうシンシアは話した。
「それに。」
シンシアは、口の中に粥を頬張りながら、話を続けた。
「私に弓矢の先生を見つけてくれたのもヴィヴィアンさんなの。」
その話を聞いてから、エミリーはスプーンをピタリと止まらせた。
(確か、昔の記憶だけど、すごく射撃が上手い奴がいた事を思い出した。)
エミリーは朧ながら、その顔を思い出そうとすると頭が痛くなった。
エミリーとシンシアがお喋りしていると、外では王子様とシスター・ヴィヴィアンの話が進んでいた。
「ダンジョンの巨石を取り除いてほしいとのご依頼ですね。」
「カルヴァン神父ならば話を通しておいて欲しいのです。」
ヴィヴィアンは羊皮紙を思わせるような物でサラサラとメモをした。
「カルヴァン神父ならば快く受け止めてくれると思います。鉱夫達も天然石がアルピニアン山脈から取れなくて仕事がなくなっていた所です。」
シスター・ヴィヴィアンはメモしながらレオナルド王子に話しかけていた。
「天然石が取れないだと!?やはり地下で何かが動いているのではないか。」
レオナルド王子は、驚きながら話を続けた。
「カルヴァン神父から何も連絡はありませんでした。」
ヴィヴィアンは顔をピクリとも動かさずに王子に返答をした。
「鉱夫達からは何も地下では異変はなかったとの報告ばかりでした。」
「バカな!あれだけのダンジョンが出来ているのに、地下では何も動いていないなんて事はありえないんだぞ!」
王子は絶叫した。
「王子の話と言えど最低限の話か出来ないのです。」
シスター・ヴィヴィアンは顔色も動かさずに王子の話を聞いていた。
そこにマリアンヌが入ってきた。
「ヴィヴィアンの話でも何も可笑しな異変は入ってきてないのね。」
マリアンヌは深く溜息をついた。
いくら地下に異変が起きていても、鉱夫達にはそれが分からないのだろう。
マリアンヌは得体のしれない何かが動き始めに恐怖すらも覚えた。
「地下で何かが蠢いているのか、鉱夫達にも分からないのね。」
マリアンヌは消えてしまったこの国の国石である透明なアルピニア石のペンダントを眺めた。
その時には、エミリーというと。
「はああ……!」
孤児院の子供達と呑気にボール遊びをしていた。
エミリーが思いっきりボールを投げる度にエミリーの投げたボールで草が切れる。
それを見る度に小さい子達は大喜びしているのだった。
「エミリー姉ちゃん、すごい!」
「今度はこちらにも投げてよ!」
小さい子達がきゃっきゃっと騒ぎまくる中、フレイは小さな羽をパタパタさせながら、エミリーの側に来て話しかけた。
(エミリー、ちょっとヤバいの見たっすよ。)
「はあ、何が!」
エミリーはボールを小さな子供達に投げながら話した。
あの後、シンシアと話が盛り上がっている最中に子供達が、ボールを持って来てこれで遊びたいと話して来たのだ。
シンシアは孤児院の中では年上の方だから話を聞かなくてはならないし、エミリーは客なので無闇に断れないので、こうなったのである。
フレイは、王子達の話を盗み聞きしていたらしく、慌ててエミリーの所に来て、話しかけていた。
(ダンジョンが出来てから地下で異変が起きたとか、それをなぜか気づかない鉱夫達とか色々やばいっすよ!)
「はあ?そんなの王子達に任せておきゃ、いいじゃん。」
エミリーは今度はシンシアにボールを投げながら話していた。
「地下に何が起きているのかなんて俺らは何も知らないじゃん!」
エミリーは栄二に戻りながら話していた。
(だって、この国の名産品が全て消え失せてしまう位の地殻変動みたいだそうっす。)
フレイもとい竜雄は小さな羽をエミリーのボールをぶん投げる風に負けまいとさらに羽ばたかせる。
(もしかしたら、あのダンジョンの秘密を探れば俺ら元の世界に帰れるかもしれないっすよ!)
フレイは頭にテレパシーを飛ばしながら、エミリーにそう伝えた。
「大体!ダンジョンの1階や2階には何も無かったというか、お前が封じられていたんじゃんか。」
エミリーもとい栄二はフレイにプリプリ怒っていた。
「あのダンジョンの地下なんてあるのかよ!」
エミリーは文句を垂れながらボールを投げていた。
(あるっすよ!)
フレイはテレパシーで返事をした。
「マジかよ……。」
エミリーは投げようとしていたボールを思わず落としてしまった。
(それも地下180階層まで!)
フレイはドヤ顔で語った。
「そんなにダンジョンは階層が深いのかあ!」
エミリーががっかりして、ボールを止めていると。
シンシアが
「どうしたの?エミリーちゃん。」
駆け寄って話しかけて来た。
「この竜とダンジョンの話をしていたんだよ!」
エミリーは右手で左肩を指差しながら話した。
「まあ!可愛いドラゴンちゃん。名前は何ていうの?」
シンシアがフレイの頭を撫でると頭の中にフレイの声が響いた。
(俺の名前はフレイ。レッドドラゴンのフレイっす。よろしくっす。)
フレイはシンシアにニコニコしながら話しかけた。
「まあ!このドラゴンさん、お話するのね!」
シンシアは目を丸くした。
シンシアはドラゴンも見たことがなかったし、ましてや子供達にも話しかけられた事も無いのだ。
「驚かせてしまってごめん。これはフレイっていって話せるドラゴンなのよ。」
エミリーもとい栄二は、苦笑いをしながらシンシアに話を続けた。
「喋るドラゴンさん!いるの〜!」
「僕達も見たい見たい!」
ボール遊びをしていた子達がシンシアの話を聞いていてわっと集まってきた。
するとフレイは急に大人しくなって、キュウと鳴いた。
「あれー?ドラゴンさん急に黙ったよ?」
「僕達には話をしてくれないの?」
子供達はフレイの話が聞こえない事に困惑していた。
その事に気がついたらエミリーはますます困惑した。
(フレイの話がこの異世界人には通用しないってマジかよ……。)
エミリーは心の中で驚愕した。
エミリーは、ずっとフレイはこの世界の住人だから話が通じると思っていたのだ。
それが、なぜかシンシアは、話が通じて、他の孤児院の子供には通じなかった。
「お前、ダンジョンの影響受けてねぇか?」
フレイは知らん顔した。
その頃、シスター・ヴィヴィアンは、カルヴァン神父と話をしていた。
「王子様にあのような事を言われました。アルピニアン石の復活が出来なくなっている事には、ダンジョンが突如として出現した事が影響しているのではないかと。」
シスター・ヴィヴィアンは眉一つ動かさず、カルヴァン神父に報告した。
「ははっ!まさか。アルピニアン石とダンジョンの出現の関連性だと!?バカバカしい。」 神父は机にだんと分厚い神学書を置いた。
「王子様は一刻も早くダンジョンとアルピニアン石との関連性を報告してほしいからしいです。」
ヴィヴィアンは淡々とした口調で話した。
「私達は管理しているというだけのしがない聖職者だ。
何も出来まい。」
カルヴァン神父は王子の発言に苛立ちを隠せない様子だった。
「それと、王子様が話していた事なのですが。」
ヴィヴィアンは、読んでいた聖書をぱちんと閉じて話を続けた。
「あのダンジョンの第3階層に落ちている巨石をどかして欲しいという話がありました。」
「それをどかせという命令か?」
カルヴァン神父は眉をひそめた。
「王子様は我々には邪魔だな。」
カルヴァン神父は、呆れていた。
「鉱夫達に、あの石をどかせとは、金と権力の権化だ。
しかも、ダンジョンともなればいつ魔物に襲われるのか分からないからなあ。一応向かわせるが、魔物が現れたすぐに鉱夫共は撤収だ。分かったな?」
カルヴァン神父は、ヴィヴィアンに、きつく言い放った。
「分かりました……カルヴァン神父。」
すると、蝋燭の火がじじっと消えた。
そして、次の日カルヴァン神父は鉱夫達にお触れを出した。
「3日以内にあのダンジョン内の巨石を壊すことだと!」
民衆はざわついていた。
鉱夫達では、あまりにも大きく、あまりにも重たく、少しでも動かそうとすれば、こちらに向かって来ると言う噂の巨石だ。
それにまた、ゴブリンが反撃に出るかも分からない。
そのお触れは街中で見たアニーはテレサの所に早く駆け込んだ。
「奥様、あのお触れは一体……。」
アニーの青ざめた顔をみて、
テレサは扇で顔を隠しながら軽く鼻をふんと鳴らした。
「王子め……カルヴァン神父の力を使い始めたな。」
「どうやらそのようでございますね。」
アニーはテレサの顔をまじまじと見ていた。
「鉱夫達を使うと言っても、あの中にはまだ魔物たちがうじゃうじゃいますよ。それに始めの階層ですら
もまともに突破出来ていない状態で。」
テレサはアニーの説明に軽く王子を怒った。
「街中ではその話でもちきりですよ。」
アニーはテレサに話し掛けた。
「それは、皆がダンジョンの中身を知りたいからですわ。犠牲者を出してもいいから見たいのでしょうけど。」
テレサはアホらしいと言わんばかりに民衆の心理を切り捨てた。
「エミリー様は一回ダンジョンの中に王子に誘われて入ってしまいました。」
アニーは深く溜め息をつきながら話した。
「あの王子は、欲しい物があると何が何でも、誰を使っても構わないのですわ。」
テレサは扇を閉じて、どこかに出かける準備を始めた。
「私の夫にはこう伝えといておくれ。私は今から王宮に向かうと。」
「ですが奥様……。」
アニーの制止も聞かず、テレサは振り払った。
「あのダンジョンは本来はロゼッタ家の管轄です。王家には手出し出来ぬようにちょっと動くだけですわ。」
テレサはアニーの発言にこう伝えていた。
「貴方達だって、これ以上被害者は増やしたくないでしょ。」
テレサはアニーの制止する言葉に怒っていた。
「ですが、奥様もしこの件で、こちらにまで権力が向いてきたら私達は地位を剥奪される可能性もあり得るかも知れませんよ。」
アニーは王子の暴走程ロゼッタ家の地位を心配していた。
テレサは扇を閉じて、どこかに向かう準備をしていた。
「奥様、何を考えていらっしゃるのですか?」
外ではもう馬車が止まっていた。
「まさか……!宮廷に向かなどと。」
「その、まさかですわ。」
「テレサ様、待ってました。」
御者が深々と頭を下げた。
「よし、宮廷に、参れ。」
「はい、かしこまりました。」
テレサは高級な馬車に乗り込むと、宮廷へと馬車を走らせた。
「奥様ったら、あのダンジョンの事になると必死になって動きますから。周りの者があのダンジョンには何が良くない物でもあるとしか思えないのですが。」
アニーはテレサの行動に対して愚痴をこぼしながら、クラウス公爵の家の中に戻っていった。
そして、ダンジョンには次々と鉱夫達が集まりだしていた。
「このダンジョンの地下深くまで降りて、巨石を取り除けばいいのだろう?」
鉱夫達はつるはしを肩に掲げながら、ダンジョンの奥の方まで向かった。
その奥で何かの魔物の目がギラリと光っていた。
その事に鉱夫達は言ったが気づかず、どんどんと奥に向かっていく鉱夫達。
そのキラリと暗闇で光った目はニヤリと笑みを浮かべていた。




