一掌その6 転生していた龍雄か
「まだ……、収まらないのか……。」
王子はドラゴンの会話に苦痛すら感じていた。
頭がガンガンして、まともに立てられないのだ。
「おいっ!こっちも同じだってば!」
エミリーは話し続けていると、突如ドラゴンがエミリーに訴えかけてきた。
(貴方がロゼッタ家の子孫ですか……。)
声は王子の時とは違って本来の母性を持った声が優しくエミリーを包んだ。
(あれ……王子様の話と全然違うぞ?全く頭も痛くならないし、恐怖心も起こらない……。不思議だな。)
エミリーは心の中でそう思った。
「エミリー君、何をしているんだ!早く何とかしろ!」
「王子様、無礼な言葉遣いがバレてしまっているぜ!」
エミリーは相変わらず上から目線の王子様に対して、軽口を叩いた。
「ドラゴンがとても怖かったんだぞ!何を考えているんだ。」
王子は自分がコントロール出来ない代物だと分かると、すぐ手放した。
「へえー、随分王子様は気が弱いんだ?ドラゴンは俺にとってはそんなに怖くねーぞ……王子様は何かをやましい事でも考えていたんじゃねーのか?」
エミリーは栄二の時の口調になっていたがおかまいなしに話を続けた。
「エミリー君!口調がとても恐いよ!どこかの山賊か何かかな?」
王子はエミリーの口調にもビビっていた。
エミリーの後ろにいた従者すらも怖がっていた。
「ひいぃ……エミリーさんってとても怖いです。」従者は急いで王子とマリアンヌの後ろに隠れてしまった。
場がピリピリとした緊張感に包まれていた。
何しろ、ダンジョンのドラゴンとエミリーの鬼気迫る口調がかなりピリついている。
「マリアンヌ、何とかしてくれよ〜。」
王子はガックリと膝を落とした。
マリアンヌはエミリーの予想を越えた行動力に驚いていた。
「只の公爵令嬢だと思っていたのですか違ったのですね……。」
「悪かったな……!」
エミリーはぶっきらぼうな返事をしエミリーの口調とドラゴンの脅威でダンジョンはかなりカオスになった。
場の4人が混乱している間に、壁がミシミシと歪みだした。
「ひぇぇ……。」
マリアンヌはその場にしゃがみ込んだ。
王子が喜んで壁から取り外していた宝石は、ダンジョンのドラゴンを小さくて封じて置く為の宝石達だったのだ。
「これもゴブリン達が集めていたのか!」
王子は泣き崩れた。
(そうなのです……、ゴブリン達が私達を怖がって暴れて、自分達の住処を潰されない為に編み出したのが、宝石を使った封印術。)
ドラゴンが壁を突き破って赤褐色の肌が現れた。
「伝承は本当だったのか!」
王子は叫んでいたら、ぐんぐんとドラゴンが膨張していく。
エミリーはその様子を眺めていた。まるで風船が膨らんでいくように成長していく。
ダンジョンの上層部はドラゴンの根城だったのだ。
「古文書もちゃんと読んだのにどうして!!」
マリアンヌはどんどんと大きくなるドラゴン達を閉じ込めていたのはあの宝石達だと気がついた。
「仕方ねーだろ!馬鹿!ゴブリンが侵略していたなんて誰が思いつくんだよ。」
エミリーは二人にイライラしながら!罵った。
「報告書に書いてあったゴブリンのせいだな。ゴブリンが異様に強かったのもドラゴンの影響と。」
王子は自分の背の高さより大きくなっていくドラゴンを見上げていた。
ドラゴンの首にはちゃんと竜玉がついていた。
「あれは、竜玉!我々が探し求めていたものだ!」
王子は叫んでいたら。
(だから貴方には渡さないですよ……。)
また赤褐色の女ドラゴンは王子に圧力を掛けた。その様子に王子はたじろいだ。
「これでは、目的が果たせないではないか!」
王子は頭を掻きむしった。
女竜の後ろがもぞもぞと動き出して、何やら小さいものが出て来た。
それも同じように赤褐色の肌を持つドラゴンだった。
「小竜までいたのか!」
王子は驚いていた。
そのドラゴンの首にもしっかり竜玉がついていた。
「この子なら、宮廷で育ててやろう。どうだ、小竜を我々の所に来ないか?」
すると、小竜の声が、王子の頭に聞こえた。
(嫌っす……!)
小竜にしてはかなり砕けた口調だ。
王子には思わずよろけてしまった。
そこをエミリーが後頭部にハイキックをかました。
それと同時に王子はよろめいて地面に倒れ込んだ。
「王子さんよ、いい加減目を覚ますんだな!」
エミリーはハイキックをかましながら王子にこう言った。
マリアンヌは王子とエミリーの戦闘を見ていて、エミリーにはとても敵わないと感じた。
エミリーの頭の中に響いて来る声があった。それは明らかに女ドラゴンの声ではなくて、小竜の声だった。
(兄貴ー!お久しぶりっすね。)
小竜はニコニコしながらエミリーに呼びかける。
「お前……小竜じゃないのか?」
エミリーは困惑した。小竜の声だが話している言葉は竜雄の言葉だ。
「お前、なんでこの世界に?」
(俺にも分からないっす……。気がついたらこのドラゴンになっていたっすよ。ちなみに王子達に話していたのは俺の親のレッドドラゴンっす。)
「竜雄がここにいるということはさ、他の仲間もいるって事か!」
エミリーもとい栄二は舎弟の竜雄を見つけて喜んでいた。
この異世界で初めて会った向こうの世界から来た舎弟だ。
「ドラゴン君は君の仲間なのですか?」
従者は、横から話をして来た。
「そうだ!前世からの仲間なんだ。」
「前世から……それは奇妙な事ですね。」
従者は、うんうんと頷いていた。
話している最中に、マリアンヌからの動きがあった。
マリアンヌは、その竜雄である小竜を両手でグワシッと抱え込んだ。
「この子はエミリーさんの物だけにしておけません!」
エミリーも負けじと引っ張った。
「何すんだよ!マリアンヌ!」
「王子様の為です!この小竜は私達の物……!」
マリアンヌは小竜もとい竜雄の手をグイグイ引っ張って来るので、エミリーも負けじと引っ張った。
すると、小竜の竜雄は痛そうな顔をしていた。
(痛いっす……!兄貴ー!止めて下さい〜!)
二人に小竜は思念で伝えた。
その、言葉を聞いてエミリーもとい栄二は引っ張っている手を緩めた。
エミリーが緩めた衝撃でマリアンヌと小竜は同時に倒れてしまった。
「いきなり手を緩めるなんて、どういう事ですか!」
マリアンヌは激怒していた。
「大事な舎弟の事をいじめられるかつーの!竜雄帰るぞ!!」
そうエミリーが言うと、竜雄は小さな黒い羽をパタパタさせながら、マリアンヌの膝の上から離れた。
その間に、ダンジョンの壁に段々大きな亀裂が入り、ダンジョン自体の天井を破壊してしまった。
「ダンジョンは逆三角形型だったのか!」
王子は驚いていた。古文書だけでは全体像は分からない。その上、ドラゴンの住処があり、そしてゴブリンが巣食っていたのだ。無理もない事だ。
「……?ところでさ、その古文書って何年位前のなんだ?」
エミリーもとい栄二は王子の困りっぷりに頭にクエスチョンマークが浮かんだ。
「どれ位って?500年位前の物だ」
栄二もといエミリーは軽く突っ込みを入れた。
「500年なんて向こうの世界では住む場所も地形も変わっているわ!」
エミリーは向こうの世界の事を少しだけ話をしてしまった。
「向こうの世界って君はここに元からの住人ではないのかい?」
王子の質問に、エミリーもとい栄二は答えられなかった。
(こいつ等に説明しても、そんな世界あるはずないと否定されるのがオチだからな……。)
栄二は、緑から借りて読んだアリスの不思議な扉のアリスが居てくれれば助かるかもと思っていた。
この訳の分からない世界の主人公なら自分のこんな状態を見て、助けに来るだろうと思ったでいた。
しかし、自分は本の方では断罪される扱いとは緑から借りた本を流し読みしただけではこの世界もここに住んでいる住人の考え方もいまいち掴めていない。
「ちゃんと読んでおけば良かったぜ……。」
栄二は思わず本音が漏れてしまった。
前世の仲間と久しぶりに再会でエミリーもとい栄二の心を軽く緩ませた。
(兄貴……本当に俺ら以外の転生者もいるんでしょうか……。)
竜雄は不安そうな目で宙を見上げた。
「確かに心配になるよな……。」
栄二は竜雄の発言に思わず共感した。
転生したのが二人だけだとしたらこの世界は地獄とすら思えて来た。
「少女漫画じみた世界が地獄よ……。」
栄二は、壊れたダンジョンから現れた晴天を見上げながらそう呟いた。
「空の色も、土の色も同じなのに、向こうの世界とは勝手が違うなんて……。」
栄二は女竜が元に戻って止まっていた。
「……。そういえばここの女竜はもしかして竜雄の母ちゃんなのか!」
エミリーは今更ながら気がついた。
(そうです……確か名前はフレイアと言うんです。)
竜雄はエミリーの頭の中で呼びかけた。
「あまりにドタバタし過ぎて聞いてなかったからな……。ここの世界での名前はなんだ!」
栄二は竜雄に聞いた。
(俺の名前はフレイっす。)
竜雄は、エミリーの頭の中で返事をした。
「これからもよろしくなっ!フレイ!」
(よろしくっす!エミリーさん。)
竜雄は栄二がここの世界での名前を言う前に王子達が騒いでいる中でエミリーという名前だと知ったので、竜雄もといフレイはこう答えた。
「バーカ。俺にも
名前を言わせろって……!俺のこの世界での名前はエミリーだぞって。」
エミリーは昔の舎弟の別世界で会えて喜んだ。
その頃、聖ペトラ教会では、シンシアが、遠くを見ていた。
「なんで……私はとてつもない孤独を感じるの……。」
シンシアは落ち込んでいた。
すると横から修道女の服を着た人が現れた。
「シスター・ヴィヴィアン!」
シンシアは、涙を堪えて目でシスターを見た。
「シンシアさんはいつも泣いていらっしゃるのね。」
ヴィヴィアンは冷静な声で話しかける。
「私がどこから来たのか、そして同じような仲間はいるのかと考えてしまいます。」
シンシアはその事を思う度に泣きたくなるのだ。
「どこかに仲間がいる事を信じたいです。」
シンシアはそう答えた。
ダンジョンではその話が教会でされている事を知らずに、王子がエミリーの話に、高らかに宣言しようとしていた。
「君達が別世界から来たのなら、僕たちが探してしんぜよう!」
王子にとっては朝飯前というように、エミリーとフレイに話した。
「はあっ!お前に分かるのか?向こうの世界の人間の事が?」
「分からないが、向こうの世界にも興味があるんでね。首を突っ込みたいだけさ。」
王子は、エミリー達の話を聞いて、好奇心が湧いたようだ。
王子はマリアンヌに協力を呼び掛けた
「マリアンヌ?君はどうする?」
「王子様がそう、おっしゃるのなら手伝いますわ。」
「そうだな.人手は多い方が良い。」
王子はマリアンヌの決断の早さに仕事が出来る人だと感じた。
「王国の事ならば.分かるかもしれません。」
マリアンヌは、パトリック公国の王家の権力をこういう時に使うのだと確信した。
「でも、国内ならともかく、獣人や、エルフに転生していた場合は交渉が必要ですわね。」
マリアンヌは、周りの国々の事を思い出した。
この世界は人間だけでは無い。人間以上のエルフや獣人までもいるのだ。
「エルフ?獣人?なんだそりゃ?」
エミリーは聞いたことの無い名前に、首を傾げた。
「この世界にいる亜人と言うか、妖精だったり、色々な国が存在しますのよ。」
マリアンヌの説明に、エミリーというか栄二は感心していた。
ヤクザの世界では聞いたこともないし、ましてや日本ではないからだ。
「獣人は犬や猫型.それに肉食獣から草食獣までの姿をしています。」マリアンヌの獣人族の説明は、エミリーに取ってはとても興味深かった。
何しろ、家にいる野良猫や野良犬が二足歩行で話しているのを想像していた。
「エルフはどんな一族なんだ?」
エミリーは身を乗り出して聞いた。
「エルフはとても長命な一族で、特に魔法に秀でています。」
マリアンヌはエルフの事も説明していた。
マリアンヌは、外国の亜人達にも詳しい。
「マリアンヌ!コボルトやノーム族の事も忘れないでくれ。」
王子は、他の種族も説明したくなったようだ。
「あらあら、王子様、急かせないでください。エミリーに私達王室直属の学校に通って貰います。」
マリアンヌは、自分の説明よりも、学習した方が早いと感じていた。
学校で学んだほうのがマリアンヌには説明しきれないこの世界の事も分かるだろう。
「分かった。その学校とやらに行くぜ。」
エミリーもとい栄二は、この世界で仲間を見つける為に学ぶことにした。
「待っていろよ。みんな必ず助け出すからな。」
エミリーは仲間との出会いを楽しみにしていた。
何年か前まで悪役令嬢のコミカライズを読む側でした
それが書く側になると資料や、他作品の研究やらで1年か掛かりました。
ファンタジーは好きなので楽しく書きました。




