1のその5 ダンジョンに呼ばれる者たち
その後、公爵夫妻の2人を説得させたマリアンヌは、エミリーを引き連れて、森の奥まで連れ出すことにした。
「なあ、どこまで行くんだよ……!」
エミリーは栄二の口調でいつの間にか話していた。
マリアンヌが進めば進む程
霧と緑が一層深くなる。
さらに進むと開けた場所に出た。
「ここがダンジョンです。」
マリアンヌは、石造りのまるで、どこかの古代遺跡のような建物に目を向けた。
「へーっ、これがダンジョンって奴か。」
エミリーは驚きの声を上げた。
「最近まで、地下にありました。でも、何かしらの衝撃で穴が開いたようで、私と王子様はダンジョンに関する文献を読み漁っていました。」
マリアンヌはこうも続けた。
「そうなのか?ダンジョンに関する古文書まであるなんてすげーな。」
エミリーはマリアンヌの話に感心していた。
向こうの世界では、ダンジョンなんてそもそもないし、古代遺跡な物やんて興味すらも湧かなかった。
「古文書にはこう書かれておりました。」
マリアンヌは言葉を溜めながら話した。
「真の竜の力を解放する為にはロゼッタ家の者が必要だからと。」
マリアンヌは古文書を説明した。
「古文書にはロゼッタ家の紋章が付けられた封蝋がついてありました。」
マリアンヌは封蝋の欠片を見せた。
緋色の封蝋がマリアンヌの白い手袋の上に載せた。
「そのような物……古文書の封蝋の欠片か。」
エミリーは、マリアンヌが掌に載せている封蝋を手に取ってまじまじと眺めた。
封蝋自体も、向こうの世界ではあまり使われる事は無いだろう。
エミリーとマリアンヌがダンジョンの事や、封蝋の事を話している間に
高級そうな白馬に乗った王子が従者と共に現れた。
「レオナルド王子様、ご足労ありがとうございます。」
マリアンヌは王子とその従者に対して軽く一礼をした。
「マリアンヌか、心配を掛けたな。」
王子はマリアンヌに声を掛けながら、馬から体を降ろした。
「エミリーも従者もいない中、よくここまで来てくれた。」
エミリーにも声を掛けるが、エミリーはマリアンヌはついて案内してくれた事を話そうとした。
「あのさぁ、実はマリアンヌさんにここまで案内して貰ったんだよね。」
エミリーは思わずわ笑いながら話した。
「確かに、ここまで一人で来るのは公爵令嬢では難しいからな……。当然の事か。」
王子は少し考えながら、返事をした。
ここまでの道程は森も深いし、野生動物も出没する可能性もある。
たまたまマリアンヌが最短ルートを探し当てたから早く着いたのだ。
王子の前だけでも栄二の口調を出さないように取り繕うのは大変だ。
「マリアンヌさんのお陰ですわ……。」
「君らしい言葉だね。」
王子はニッコリ微笑んだ。
でも、しかしたらその言葉の裏には限りなく邪悪な何かが隠れているかもしれないのだ。
(母親が警戒していたな……。)
エミリーもとい栄二は頭の中でそんな事を思いながら、王子と軽くやり取りをした。
「さて、お喋りもここまでにしようか。」
そう言って、王子は先陣を切ってダンジョンの中に従者とダンジョンの中に入っていった。
その後に続いてマリアンヌも中に入って行ったのでエミリーは断れず、着いて行く事にした。
古代遺跡のような入り口から入ると、中は真っ暗で、松明の明かりが必要な位だった。
「マリアンヌ、松明の明かりを付けてくれなか?」
「分かりました、王子様。」
そう言ってマリアンヌは、道具袋の中から、松明と火打石を取り出して、火打石をカチカチと鳴らして、松明に火を付けた。
周りの壁が松明の明かりでぼんやりとオレンジ色に色づく。
「ダンジョンって思ってたより広いんだな、」
エミリーはうっかり栄二の口調で話してしまった。
「あっ、間違ってしまいましたわ!ダンジョンは思った以上の広さでつい乱暴な口調になってしまいましたの。」
栄二は慣れないお嬢様口調で王子とマリアンヌの返事をした。
「……。君は意外と元気なんだね。びっくりしたよ。」
王子はエミリーの口調が男性みたいな言葉遣いのかない荒さに気が付かない振りをした。
(ヤバいな……。王子にエミリーの正体がバレないようにしないと。)
栄二もといエミリーは、二人にしどろもどろしながら、話す。
そんな事ていたら、思いっきりダンジョンの壁に激突してしまった。
「いったーい!」
エミリーは頭に出来たたんこぶを手で押さえた。
思いっきりぶつけたせいか目眩もする。
エミリーはよろけながら、壁に手をついた。
「なんだよ……!ダンジョンって!」
エミリーが力の限り叫んだら、ダンジョンの全ての壁が破壊されそうな程の何かの唸り声が聞こえた。
「あれは……、ゴブリンかっ!ゴブリンはこのダンジョンに出現すると報告書に沢山の記載があったようだからね……。」
王子は怪物の唸り声を聞いても、余裕な表情をしていた。
怪物の声を聞いたマリアンヌは顔面蒼白になっていた。
「聞いていないわっ!ゴブリンが出るだなんて。」
マリアンヌの発言に王子は、せせら笑いをした。
「大したことないんだね……。君も。」
ドラゴンだけでは無いんですか!聞いていませんよ!ゴブリンだなんて。」
マリアンヌは、激昂していた。
(なんだこりゃ……。化け物が出てくるのは全く知らなかったぞ……。)
エミリーは心の中で、溜め息をついた。
(しっかしー、緑の奴もこんな世界観のどこが気に入っているんだ。)
エミリーもとい栄二は、壁をキョロキョロと見回した。
ダンジョンの壁面には彫刻が施されており、まるで神殿をイメージさせるような雰囲気だ。
(よく見たら、細けえ装飾だなぁ。ん?この壁には変な出っ張りがあるぞ。)
エミリーは思わずその出っ張りを押してしまった。
すると、ダンジョンの隠し扉がガチャリと開いて、エミリーは扉の向こうでぱたりと倒れた。
(あー!やっちまった。これは向こうの世界でやらかしたら指詰めをしないとな。)
エミリーは自分のやらかしに向こうの世界での自分を思い出した。
それを見ていた王子は、思わずエミリーの側に駆け寄った。
「大丈夫かい……エミリー?」
王子はエミリーを軽く抱きしめた。
「申し訳ございません……。」
エミリーはしおらしくしていた。うっかり栄二の時の言葉遣いが出そうになったのを思わず堪えた。
(うっかり、下手こいたとか口にでも出したら、王子とマリアンヌの怪しまれるからな。)
危ない危ないと思っていると、暗くて長い通路が現れていた。
「このダンジョンは、二重構造なのか!素晴らしい発見をしたぞ!エミリー!これは古文書にもギルドの者達の報告書にもなかったぞ!」
王子は真っ暗な細い道を見てとてつもなく興奮していた。
(なんなんだ…。ダンジョンって?)
真っ暗で、明かりも一つもない方から、何かの邪悪な者たちが近づいて来ても可怪しくないとエミリーは思った。
底無しの闇がこちろに近づいている通路に王子は躊躇いも無く入って行く。
「王子様!待って下さい!マリアンヌも付いていきます!」
マリアンヌは王子の後を駆け足でついて行く。
(このまま、置いてきぼりを食らってもなぁ……。)
エミリーは立ち上がり、土埃で汚れたドレスを手で払った。
「ついていかなきゃ、死んじまうからな!」
エミリーの中の栄二が気合を入れてダンジョンの暗闇の奥に向かった。
王子は先につかつかと歩いていた。
「まっ、待って下さい王子様!ここから先は危険だと思います。」
後ろから誰かが王子達を止める声が聞こえた。
エミリーが振り返ると、さっきまで王子に着いていた従者だ。
「なんだよ。何か文句あるのか?」
エミリーとというか栄二は従者に質問をぶつけた。
「ひいぃ……御勘弁して下さい。決して貴方達に意地悪なんかするつもりはございません。ただ、地図に無い道なので危険だと言っているだけです。」
従者は、怯えながらも、慎重に周りを見回した。
「地図に無くても安全な道はあるかもしれねーだろ?」
エミリーは無茶苦茶な返答をした。
確かに従者の言う通りだ。
「でも、引き返す訳には行かねーぜ?従者さんよ?」
エミリーは従者を問い詰めた。
「仕方無いですね。」
ドラゴンやゴブリンが来たら戦略的撤退ですよと言われた。
「おう、分かった!それじゃ向かわせて貰うぜ!」
エミリーと従者は王子とマリアンヌの後を慌てて追い掛けた。
エミリーが王子を追いかけている最中、王子は通路の装飾や、所々散りばめられてある眩いばかりの宝石に見惚れていた。
「これは、すごいな……古代からの宝石だけあってとても粒が大きく、色も最高級だ。」
王子は罪悪感も無く、壁からどんどん宝石を引っこ抜いていく。
「王子様、そろそろドラゴンの居場所を探しませんか?」
マリアンヌは話しかけた。マリアンヌの持っている松明は、壁に付いている宝石をまた一層輝かせた。
「ゴブリン達と戦って死んだ奴らは無駄死にだったな。」
宝石や装飾の素晴らしさを見るに、もっとすごい仕掛けがあるに違い無いと王子はマリアンヌに、話しながら興奮していた。
するとその壁の向こうから、どしんどしんと壁を壊そうとしている大きな物体の音が響いてくる。
「この音がドラゴンか!」
王子はほくそ笑んだ。自分の狙い定めた獲物はドラゴンだからだ。
「ここのドラゴンは只のドラゴンではない……。権力が永遠に続くようなドラゴンでまさに最強だからな。!」
「この動きはゴブリンと違うのですね……、王子様。」
マリアンヌは、壁というか空間全体を揺らすような振動に、震えが止まらなかった。
「ははっ!マリアンヌそう怯えなさるな。我々が世界を牛耳れるときが来たぞ!」
王子は、宝石を一つ一つ天に翳しながら、その透明度を確認していた。
「ですが、王子様あんなでかいドラゴン宮廷のどこに飼うんですか!ドラゴン置ける場所なんて、ありませんよ!」
それは当たり前てある。何しろ城一つ分のサイズなのだから。
宮廷で育てたら……さらに膨れ上がるだろうし、餌も国の予算で賄うと、国民からの暴動は免れない。
どこの世界でもそうだ。
「それもそうだな。ここで永遠の儀式を行なってしまえば、どうってことないさ。」
王子はもうとっくに、作戦があるかのように言葉を続けた。
「そして、また閉じ込めるのさ。力付くでまた封印すればいい……。」
この王子はドラゴンすらも捨て駒の出来る程の冷酷さを持っているのだ。
すると、王子の頭の中に何かの声が響いてきた。
(貴方様みたいなのに、私達の力は待たせられません……。)
優しさと温かさと母性を持ったような声が王子の頭の中にさらに響いて来る。
「煩い(うるさい)ドラゴンってのは只の獣なんだから、人間の僕達の言いなりになっていればいいんだっ!」
王子はその声に発狂して、叫び声をあげる。
「(いけませんっ!私達の住処にゴブリンだけで無く、人間たちまでも侵略してくるなんてっ!)」
王子の頭の中には悲痛なドラゴンの声がグワングワンと響いてきて…あまりの大きさに、王子は頭が酷く痛くなり、立っていられなくなった。
「マリアンヌっ!何とかしろ!この声の居所を見つけて仕留めるのだ!」
王子はマリアンヌに、ドラゴンを討ち取る命令をした。
「出来ませんっ!相手は化け物ですよ!どうやって戦うのですか?それも私はか弱い女です。」
マリアンヌは、女扱いしない王子に激怒した。
「(貴方はマリアンヌと言うのですね……?)」
マリアンヌの頭の中にもその王子を発狂させている声が響いて来た。
「貴方が王子を発狂させている声の主なのですか!」
マリアンヌはその声の主に問いかけた。
(発狂……?何のことですか?私は只静かにして貰いたいだけ……。ここの住処を荒らして欲しく無いだけなのです。)
マリアンヌはその声の主とやり取りをして正体を探る事にした。
(私はここに住んでるドラゴンじゃ。)
「ここに住んでいるドラゴンですって!?」
マリアンヌは狼狽した。そこまで強い化け物なぞマリアンヌは人生で一度も出会ったことがない。
「早くあのドラゴンの傲慢な話をやめさせるんだ!」
王子はマリアンヌに何度も命令をした。その間も、ダンジョンの空間全体が振動していて、まるでダンジョン自体が話しているようにも、共鳴しているようにも見える。
二人がドラゴンとの会話に怯えている間にエミリーと王子の従者が走って追いかけて来た。
「おい!テメーら何やっているんだよ!」
「それはこちらの台詞だ!!」
王子はエミリーの口調が男のような口調は気にする所ではなかった。
なぜならドラゴンの叫びがとても怖くてそれ所の話しではないのだ。
「おい!王子様よー!」
エミリーが話し掛けている間も、王子はドラゴンの話し声に発狂していた。




