余話 とある時代劇の、悪役の物語
そうして。和姫は死の淵から生還した。
父親は感激のあまり抱きしめてくれたし、爺も涙を拭ってくれた。楓も忍びとしての領分を超えて喜びを露わにしてくれて。
あぁ、自分は愛されているんだなと和姫は思った。
あぁ、自分は幸せなんだなと和姫は思った。
髪色は銀になってしまったけれど、和姫にとっては些細なことだった。家族である父から愛され、家族のように大切な爺や楓から愛されていて。和姫は、幸せだったのだから。
ただし、他の人間にとってはそうでもなかったようであり。
「――ば、化け物!」
婚約者との初顔合わせの席で。
和姫の婚約者・池田保教はそう叫んだ。
和姫は悲しかった。
淡い恋心を抱いていた相手から否定されて、とても悲しかった。
だから、髪色を変えようと思った。元の黒髪にしようと思った。
涙を流す和姫を見て父は慰めてくれたし、爺や楓も同情してくれた。
でも、和姫の心の傷は癒やされなくて……。
伊達家に残された文献で、髪色を元に戻す方法を探した。……探しているうちに魔法そのものに興味を抱き、色々な魔法を学ぶようになった。変身魔法だけではなく、探知魔法や攻撃魔法、結界魔法などなど……。武家の姫では知りようもないことを勉強できるのは楽しかった。
そんな学習の日々の中。
見つけたのは魂関連の記述。――死者蘇生の大儀式だった。
代償を支払い、死者をこの世に蘇らせる奇跡の技。
その代償とは、人の命だという。
一人を蘇らせるには、三人を生け贄にしなければならないという。その生け贄には、魂の穢れが少ない方がいいという。
魂の穢れが少ない。
つまりは『子供』だろうと和姫は理解する。
「…………」
嫌な予感がした。
なぜだか胸の鼓動が乱れた。
和姫の直感が、そうであると告げていた。
「…………」
和姫は探知魔法を使った。もしもそうであるなら、大儀式の痕跡があるはずだからと。
――結果は黒。
伊達家の屋敷。その隠し部屋に。大儀式の痕跡は残されていた。魔力がない素人が奇跡の技を行うために準備された祭壇。各種捧げ物。……そして、全てを吸い取られて白骨化した、三人の子供の死体。
父を問い詰めた。
爺を詰問した。
楓に尋ねた。
平民が三人犠牲になった程度なら安いものだ。と父は言った。
可哀想ですが、姫様が蘇られてよかったと爺は寂しげに笑った。
命令で子供を攫った。まさかこんなことになるとは。と、楓は泣き崩れた。
――気持ち悪い。
心底気持ち悪かった。
藩主である自分の娘のためなら、他人の子供三人が犠牲になっても当然と思っている父が。
平民の子供の命より和姫の命の方が重いと考えている爺が。
主君からの命令ならば子供の誘拐すらしなければならない、この社会が。
和姫は、気持ち悪くてしょうがなかった。
なにが武士だろう。
なにが身分制度だろう。
人の命は、一つきり。そこに価値の大小などあるものか。重さの違いなどあるものか。――和姫に、三人もの子供の命を犠牲にする値打ちがあるものか。
武士の何が偉いのか。平和な世の中で、庶民に偉ぶっているだけの存在ではないか。
人の命は平等。
人の命は皆同じ。
それを否定し、武士が偉いと決めつけ、庶民の命を平然と使い潰す――
――こんな社会は滅びればいい。
身分制度など滅びればいい。
武士など滅びればいい。
武士が作った幕府など、滅びればいい。
滅びないのなら――自分が滅ぼせばいい。
こうして。
和姫は、悪役になると決めたのだ。




