真実
「伊達家の屋敷……」
そこで何が行われていようとしているのか、信春には分からない。
だが、忍びの口ぶりから、信春は確信を抱いていた。
攫われた子供は、伊達家の屋敷、その隠し部屋にいるのだと。
和姫が関わった可能性は……ない。と、信春は断言できる。
(ならば、伊達吉村公が?)
何をするつもりなのか。
まさか、大儀式とやらを執り行い、幕府転覆を謀るつもりなのか。
(しかし、父上は言っていたではないか。『伊達吉村にそんな大それたことを考えられる器があるものか』と。『彼奴は良くも悪くも自分の周りしか考えられぬ男』だと。父上がそう見抜いた男が、まさか謀反など……)
いや、考え事はあとだと信春は首を横に振った。井戸を使い、和姫がいるという屋敷へと転移する。
「さて、和姫は姫どこに……むっ」
屋敷の一番奥。最後の部屋へと繋がる襖の前に。和に付いている忍びが正座して座っていた。
名前は確か……楓だったか?
姫と忍者。
そこには明確な身分差があるはずだ。
しかし、二人の間にはそれ以上の絆があると――特に、楓が和のことを大切に思っていることを、信春も察していた。
「楓殿、だったか。奥の部屋に和がいるのか?」
楓は目を閉じていた。
目を閉じたまま、信春の問いに答えた。
「……姫様は今、一人になりたがっております。どうぞ、お引き取りください」
「そう、和が言ったのか?」
「いいえ、いいえ。しかし、主の御心を察するも家臣の勤めなれば」
「家臣、か。わしからは仲のいい姉妹に見えるがのぉ?」
「……拙者に、そのような資格はありませぬ」
「たしかに。身分の上ではあり得ぬだろう。だが、和は其方を『楓お姉さん』と呼んでいるではないか。その想いを否定するのか? 歴代の将軍の中には、家臣と心を通わせて家族のような関係を築いたものもいた。其方たちなら――」
「――拙者には、罪があります。和姫様と今一度会いたいと願い、非道へと手を染めました。拙者には、あの御方から『姉』と呼ばれる資格はないのです」
「今一度……? 非道……?」
和姫が一度死にかけて、銀髪になったという情報は信春も忍びを通じて得ている。その際、何かの非道に手を染めたのだろうか?
「……そうですね。今さら忠臣のふりをして何になりましょうか。――どうぞ、お通りくだされ」
「よいのか?」
「はっ。姫様のこと、よろしくお願いいたします」
信春のために道を空け、深く深く頭を下げる楓。
そんな彼女の脇を通り、襖を開ける直前。信春は楓に声を掛けた。
「やはり、わしには其方のことが『妹を心配する姉』にしか見えぬのぉ」
「……有難きお言葉で御座います」
楓がどのような顔をしているかは分からない。だが、信春はこれ以上楓に構うことはしなかった。
彼が今、救いたいのは和姫なのだ。
◇
部屋の隅。
和姫は膝を立て、膝頭に顔をうずめるような態勢――前世においては『体育座り』と呼ばれるような格好をしていた。
「和姫」
信春が声を掛けても、和姫が顔を上げることはない。
そんな彼女の脇に、信春は腰を下ろした。
「実を言うとな。攫われた子供の行方を忍びに捜させていたのだ。特に怪しいという池田家の屋敷に潜入捜査させたりしてな」
「池田の屋敷では、子供は見つからなかったでしょう?」
「……で、あるな」
「どうして池田が怪しいと思ったのですか?」
「うむ。奴らが大儀式とやらを執り行い、幕府転覆を狙っているのではないかという情報があってな」
「……そうですね。子供を五人も犠牲にすれば、幕府の転覆くらいできるかもしれませんね」
しかし、と和は続ける。
「子供が攫われたのは、幕府を転覆するためではありません」
確信を抱いた物言いに、なぜだか信春は冷や汗が吹き出してしまう。
「では、何が? 一体何が行われようとしているのだ?」
信春の問いに、和は何度か深呼吸をしてから答えた。
「――生け贄を用いた、死者蘇生です」
「死者、蘇生?」
唐突すぎる内容に信春は一瞬理解が追いつかなかった。死者蘇生? 死人を生き返らせる? そのためだけに、五人もの子供を攫ったとでも?
あり得ない。
馬鹿らしすぎる。
そもそも、死者は蘇らない。至極当然の、自然の摂理だ。
「その通りです。死者は蘇りません。至極当然の、自然の摂理。それを歪めようとするならば、地脈をねじ曲げるほどの大規模な術式と――それ相応の犠牲を払わなければなりません」
「犠牲……」
それが、五人の子供だと?
いいや、最初に行方不明になった、三人の子供だとでも?
「それはあの銀髪のお姉さんにしても同じこと。いくら神に等しい力を持っていたとしても。魂をこちらの世界に引っ張って来ることができたとしても。……一度死んだ肉体が、魂を入れたくらいで動くはずがありません。だからたぶん、お姉さんは、この世界で執り行われた術式を利用して私をこの世界に蘇らせたのです」
そうして。
彼女は言った。
世界の事実を告げるように。
すべての罪は自分にあると告白するように。
「私は、三人の子供を生け贄にして生き返ったのです」




