↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
6/15

第六話 毒竜の薬膳鍋

 第六話 毒竜の薬膳鍋


「毒竜だと?」


 レインは思わず聞き返した。


 討伐隊の隊長カインは険しい顔で頷いた。


「ああ」


 見張り台の方角を見る。


 夜空の向こう。


 山脈の稜線付近で緑色の光が瞬いていた。


「普通のドラゴンじゃない」


 カインが言う。


「吐く息に毒が混じる」


「厄介ですね」


「もっと厄介なのは食料だ」


 討伐隊の表情が暗くなる。


 毒竜が現れてからというもの、周辺の獣達が減った。


 狩猟ができない。


 薬師も死んでいる。


 さらに毒への恐怖で兵士達の食欲まで落ちていた。


 士気が下がり始めている。


 それは戦場では致命的だった。


 レインは少し考えた。


 そして隊長へ尋ねる。


「毒竜の肉は食えますか?」


 全員が固まった。


「は?」


「いや、だから肉です」


「そこを考えるのか」


 呆れた顔になる。


 だがレインは真剣だった。


 料理人だからだ。


「食べられるんですか?」


 カインは少し悩んだ。


「毒袋以外は理論上大丈夫らしい」


「なら決まりです」


 レインは笑った。


 その笑顔を見た兵士達が少し後退る。


 嫌な予感しかしなかった。


 翌日。


 毒竜討伐隊が戻ってきた。


 幸運にも若い個体だった。


 完全な成体ではない。


 それでも大きい。


 十メートルを超えている。


 周囲の兵士達は近付きたがらない。


 だがレインだけは違った。


 肉を調べる。


 脂。


 筋繊維。


 色味。


 臭い。


 そして。


「いい肉だな」


 料理人としての評価を下した。


 討伐隊は理解できない顔をしている。


 レインは肉の一部を切り取った。


 前脚の肉。


 運動量が多く旨味の出る部位だ。


「今日は鍋にしよう」


「鍋?」


 異世界にはまだその概念がなかった。


 レインは食材召喚を発動する。


 ごぼう。


 生姜。


 長ねぎ。


 にんにく。


 干し椎茸。


 全て毒対策や滋養強壮でよく使われる食材ばかりだ。


 もちろん万能ではない。


 だが弱った身体には効果的だった。


「薬膳鍋です」


 レインはレシピを書き出した。


 毒竜の薬膳鍋(6人前)


 毒竜肉 800g


 長ねぎ 200g


 生姜 30g


 にんにく 20g


 ごぼう 150g


 干し椎茸 20g


 水 1500ml


 塩 12g


 黒胡椒 2g


 酒(異世界果実酒)100ml


 下処理


 毒竜肉を3cm角に切る。


 沸騰した湯で3分下茹でする。


 表面のアクを落とす。


 流水で洗う。


 スープ


 水1500mlへ干し椎茸を加える。


 30分浸す。


 その後中火で加熱。


 長ねぎ、生姜、にんにく、ごぼうを投入。


 20分煮込む。


 酒を加える。


 塩と胡椒で調整。


 仕上げ


 毒竜肉を投入。


 弱火で40分。


 沸騰させず煮込む。


 肉が箸でほぐれる柔らかさになったら完成。


 兵士達は呆然としていた。


 こんなに細かい手順で料理する人間を初めて見たからだ。


「そこまで意味あるのか?」


 若い兵士が尋ねる。


「ある」


 レインは断言した。


「料理は理屈だ」


「理屈?」


「旨いには理由がある」


 前世で何度も新人へ言った言葉だった。


 レインは鍋を見守る。


 香りが立つ。


 生姜。


 ねぎ。


 肉。


 椎茸。


 複雑な香りが混ざる。


 兵士達の顔色が変わった。


「なんだこれ」


「いい匂いだ」


「腹減ってきた」


 効果は出ている。


 食欲は生存本能だ。


 それを取り戻せるだけで違う。


 やがて鍋が完成した。


 肉は柔らかくなっている。


 スープは黄金色。


 脂が少しだけ浮く。


 理想的だった。


 隊長カインが最初に食べる。


 熱々の肉を口へ入れる。


 噛む。


 そして目を見開いた。


「旨い」


 静かな声だった。


 だが本物だった。


「ドラゴン肉じゃないみたいだ」


 周囲の兵士達も食べ始める。


 止まらない。


 次々と鍋が減っていく。


 さっきまで疲れていた兵士達が笑顔になっていた。


 レインは少しだけ安心した。


 料理人は料理でしか人を救えない。


 だが。


 それで十分だと思っていた。


 その時だった。


 見張りの兵士が叫ぶ。


「敵襲!」


 全員が立ち上がる。


 山の向こうから黒い影が現れていた。


 一体ではない。


 二体。


 三体。


 五体。


 毒竜だった。


 しかも。


 全て成体。


 隊長カインの顔色が変わる。


「あれはまずい」


 レインも空を見上げる。


 そして気付く。


 先頭の毒竜。


 その額に奇妙な紋章が刻まれていた。


 誰かが操っている。


 ただの魔物災害ではない。


 人為的な事件だった。


 そしてその中心にいる人物こそ、

 後にレイン最大の料理対決相手になる謎の美食家だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。