第二話 ゴブリン肉のハンバーグ
第二話 ゴブリン肉のハンバーグ
「もう一個くれ!」
「俺にも!」
「待て待て押すな!」
冒険者ギルドは大騒ぎになっていた。
理由は一つ。
レインが作った料理だった。
前世で三ツ星レストランの料理長だった彼から見れば何でもないハンバーグ。
しかし異世界の人間達にとっては衝撃だった。
誰もが嫌うゴブリン肉が。
信じられないほど旨かったのである。
「あり得ねぇ……」
大男の冒険者が呟く。
「ゴブリン肉だぞ?」
「そのはずなんだけどな」
レインも苦笑する。
正直なところ。
この肉は元々そこまで悪くない。
問題は調理法だった。
「ちょっと見せてくれ」
冒険者達が持ってきた生のゴブリン肉を受け取る。
レインは指で押した。
臭いを嗅ぐ。
断面を見る。
そして頷いた。
予想通りだった。
「やっぱりな」
「何がだ?」
「血抜きができてない」
全員が首を傾げる。
血抜き。
知らない言葉だった。
レインは肉を持ち上げる。
「動物の肉が臭くなる理由は色々あるけど、一番分かりやすいのは血だ」
「血?」
「血液には臭みの原因になる成分がある」
もちろん現実にはもっと複雑だ。
だが説明としては十分だった。
「討伐した後すぐ処理してるか?」
冒険者達は首を横に振る。
「袋に入れて持って帰るだけだな」
「だろうな」
レインは納得した。
それなら臭くなる。
当然だ。
前世でも猟師が捕った鹿や猪は処理の速さで味が大きく変わる。
ゴブリン肉も同じだった。
「つまり肉が悪いんじゃない」
レインは断言する。
「扱い方が悪いだけだ」
その言葉に周囲がざわついた。
今まで常識だったものを否定されたのだから。
受付嬢のエミリアも近寄ってくる。
栗色の髪をポニーテールにした少女だった。
「本当に食べられるんですか?」
「むしろ可能性の塊だな」
レインは笑った。
食材を見る目は自然と真剣になる。
シェフとしての癖だった。
「今日はちゃんと説明してやる」
ギルドの厨房を借りる。
まな板を置く。
肉を並べる。
周囲には野次馬。
いつの間にかちょっとした料理教室になっていた。
レインはまず肉を細かく刻んだ。
包丁を動かす。
一定のリズム。
心地良い音。
トントントントン。
見物人達が感心する。
「速ぇ……」
「何年やったらそうなるんだ」
レインは聞こえないふりをした。
実際には十年以上だ。
刻んだ肉へ塩を振る。
こねる。
さらに召喚した玉ねぎを加える。
みじん切り。
そして混ぜる。
「なんで野菜を入れるんだ?」
「甘味と香りだな」
レインは答えた。
「玉ねぎを加熱すると甘くなる」
異世界人達は驚いていた。
野菜は焼くだけ。
煮るだけ。
そんな文化だったからだ。
料理に理屈があるという考え自体が珍しい。
フライパンへ油を引く。
ジュウッ。
そこへ丸めた肉を置く。
とたんに香りが広がった。
肉の焼ける匂い。
玉ねぎの甘い香り。
辺りの空気が変わる。
腹の虫が鳴り始める。
冒険者達の目が本気になった。
「やばい」
「腹減った」
「酒が欲しい」
まだ完成していないのに。
レインは笑う。
いい反応だった。
料理人として嬉しい。
ハンバーグをひっくり返す。
焼き目が美しい。
茶色。
香ばしい色。
さらには召喚したにんにくを加える。
異世界には存在しない香味野菜だった。
香りが爆発する。
「な、なんだこれ……」
エミリアが目を丸くする。
レインは満足そうに頷いた。
にんにく。
安くて強い。
料理の世界では最強クラスの食材である。
やがて完成した。
分厚いハンバーグ。
肉汁が溢れる。
レインは切り分けた。
「食え」
全員が我先にと手を伸ばす。
そして。
沈黙。
数秒後。
爆発した。
「うめええええええ!」
「なんだこれ!」
「ゴブリン肉じゃねぇ!」
「毎日食える!」
歓声が響く。
中には泣き出す者までいた。
大げさではない。
彼らにとってゴブリン肉は貧乏人の食料だった。
仕方なく食べるもの。
臭くてまずいもの。
その常識が今崩壊したのだから。
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ゴブリン肉のハンバーグ(レイン風)
材料(2人前)
合挽き肉 300g
玉ねぎ 150g(中サイズ約1個)
にんにく 1片
生姜 10g
塩 4g(肉重量の約1.3%)
黒胡椒 1g
パン粉 20g
牛乳 30ml
卵 1個
サラダ油 大さじ1
ソース
醤油 大さじ1
ウスターソース 大さじ1
赤ワイン 50ml
バター 10g
パン粉がないなら繋ぎは食パンを細かくダイスカットしたものでいい。
それもないなら水分は減らそう。
挽肉に粉チーズを入れるといい隠し味になるゾ!
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エミリアも一口食べて固まる。
「……」
「どうした?」
レインが尋ねる。
エミリアはハンバーグを見た。
そして。
真剣な顔で言った。
「ギルド長を呼んできます」
「へ?」
「今すぐ」
ただならぬ表情だった。
レインは首を傾げる。
まさかこの時。
自分が料理人として異世界で注目され始めることになるとは思っていなかった。
そして。
ギルド長が持ち込む依頼こそ。
レインの人生を大きく変える最初の事件になるのだった。




