第六十八話 あなたとなら、どんな未来でも
第六十八話 あなたとなら、どんな未来でも
出撃まで、残された時間は二日。
朝の空気は冷たく、港から吹きつける風には、潮の匂いと鉄の匂いが混じっていた。
さとるは訓練を終えても、しばらくその場から動けなかった。
目の前には、点検を待つ兵器が並んでいる。整備兵たちの声が飛び交い、金属を叩く音が響き、誰もが出撃に向けて忙しく動いていた。
その光景を見つめながら、さとるの胸には、ひとつの問いが何度も浮かんでいた。
――俺は、本当に薫を連れていっていいのだろうか。
薫は、自分と一緒に行く覚悟を決めている。
それは、さとるにも痛いほど伝わっていた。
けれど、覚悟があるからといって、死ぬかもしれない場所へ連れていっていいわけではない。
自分ひとりなら、命令に従うしかないと諦めることもできた。
怖くても、震えていても、出撃の日が来れば海へ向かう。
だが、薫は違う。
彼女には、まだ生きられる未来がある。誰かと出会い、笑い、季節を重ね、いつか年を取っていく未来があるはずだった。
その未来を、自分の手で奪ってしまうのか。
愛しているからこそ、そばにいてほしい。
愛しているからこそ、危険な場所へ連れていきたくない。
相反する気持ちが胸の中でぶつかり合い、さとるは拳を強く握った。
「……どうすればいいんだ」
誰にも届かない声が、唇からこぼれた。
そのとき、背後から剛が近づいてきた。
「さとる」
振り返ると、剛はいつものように軽口を叩かなかった。真剣な顔で、さとるの目を見ていた。
「少し、話がある」
「なんだ?」
「お前と薫のことだ」
その名前を聞いた途端、さとるの表情が変わった。
剛は周囲を確かめ、人目の少ない建物の陰へさとるを連れていった。
「昨日、薫と話したんだ」
「薫と?」
「ああ。あいつの覚悟を、もう一度聞いた」
剛はゆっくりと言葉を選んだ。
「最初は、どうにかして止めるべきだと思っていた。女の身で、しかも身分を偽って、こんな場所まで来たんだ。危険が大きすぎる。お前と一緒にいたいという気持ちはわかる。でも、それだけで命を懸けさせていいのかってな」
さとるは何も言わなかった。
それは、彼自身が何度も考えてきたことだった。
「けどな、あいつは、ただ死にたいから行くんじゃない」
剛の声に、わずかな熱がこもった。
「お前と生きたいんだ。お前のいない場所で、ただ命だけをつないでいくんじゃなくて、お前と一緒に生きる道を探したいんだって。何度もそう言っていた」
「……わかってる」
「本当にわかってるか?」
剛は、さとるから目をそらさなかった。
「お前は薫を守りたいんだろう。だったら、あいつの気持ちを無視して、ひとりで何もかも決めることが、本当に守ることなのかも考えてくれ」
さとるは唇を噛んだ。
剛の言葉は、優しいだけではなかった。
自分が薫を守るという名目で、彼女の気持ちを遠ざけようとしていたことを、見透かされているようだった。
「……それで、話っていうのは、それだけじゃないんだろう?」
さとるが尋ねると、剛は小さくうなずいた。
「訓練用の魚雷のことを調べていたんだ。点検の手伝いをしていたときに、古い練習用のものがあるって聞いてな」
「練習用?」
「ああ。実戦用とは違って、訓練のために使われるものだ。その中には、訓練の内容によって二人で乗ることができるものもあるらしい」
さとるは眉をひそめた。
「二人で……?」
「そうだ。実戦用の回天とは違う。訓練用の魚雷だ」
剛は言葉を続けた。
「もし、その練習用のものに薫と一緒に乗ることができれば、お前たちは同じ場所にいられる。離ればなれにならずに済むかもしれない」
さとるは、すぐには返事をしなかった。
剛が何を考えているのか、少しずつわかってきたからだ。
「まさか……」
「俺が上官に話す」
剛は、はっきりと言った。
「出撃前の点検で、お前の乗る予定のものが動かないと報告する。だから、代わりにこちらの訓練用のものを使わせてほしいと申し出るんだ」
「剛、それは……」
「もちろん、簡単にはいかない。点検の結果もあるし、上官が認めるかどうかもわからない。俺だって、できると決まったわけじゃない」
剛は一度、深く息を吸った。
「でも、俺は薫の覚悟を、どうしても叶えてやりたいんだ」
その言葉には、友を思う気持ちと、もうひとりの友を見捨てたくないという思いが込められていた。
「お前たちは、ずっと戦争に未来を奪われてきた。会うことさえ許されず、好きだと言うことさえ隠さなきゃならなかった。それでも、やっとここまで来たんだ。なのに最後まで、二人が一緒にいることすら許されないなんて……俺には、どうしても納得できない」
さとるの喉が詰まった。
「剛……」
「ただし、ひとつだけ言っておく」
剛の表情が、さらに厳しくなった。
「俺が上官に話している間に、薫と一緒に乗り込め。話がまとまる前に、機会を逃すなという意味じゃない。乗り込む場所も、時間も、上官の許可が出るかどうかも、まだ何も確定していない。俺が話をつけられなければ、この案は使えない」
剛は、決して簡単なことだとは言わなかった。
「それに、仮に二人で乗れたとしても、そこが安全な場所になるわけじゃない。お前も薫も、それをわかっていなきゃならない」
さとるはうつむいた。
同じ場所にいられる。
薫の手を握りながら、海へ向かえる。
そう考えただけで、胸の奥が揺れた。
けれど、その先に待っているのは、助かる保証のない海だった。
「……俺は、薫を道連れにすることになるかもしれない」
ようやく絞り出した言葉だった。
「俺ひとりなら、俺が死ぬだけで済む。でも、薫まで連れていったら……俺は、あいつの命まで奪うことになるかもしれない」
剛は何も言わなかった。
さとるの声が震え始めた。
「俺は薫と生きたいんだ。死ぬために一緒にいたいんじゃない。あいつと朝を迎えて、飯を食べて、くだらないことで笑って……そんな暮らしがしたいんだ」
一度口にすると、抑えていた思いがあふれてきた。
「なのに、俺があいつを連れていくことで、その未来を本当に消してしまったら……俺は、自分を許せない」
剛は、さとるの肩に手を置いた。
「だったら、薫にも全部話せ」
「……」
「お前が何を怖がっているのか。何を望んでいるのか。自分ひとりで決めるな。あいつは、お前が思っているよりずっと強い。でも、強いからって、何もかも背負わせていいわけでもない」
剛は静かに続けた。
「二人で考えろ。俺は、そのための道を探す」
さとるは、長い沈黙のあと、ようやくうなずいた。
「……ありがとう、剛」
「礼なんかいらない。俺だって、お前たちに生きていてほしいんだ」
剛はそう言って、さとるの肩を軽く叩いた。
「薫を呼んでくる。お前から話すんだ」
そう言い残し、剛は建物の陰を離れていった。
さとるは、ひとり残された場所で、海の方角を見つめた。
二人でいられるかもしれない。
その可能性は、希望のように見えた。
けれど、希望が生まれた瞬間、そこにある危険も、いっそうはっきりと見えてしまった。
さとるは、自分が薫を愛していることを疑ったことはない。
ただ、愛しているからこそ、彼女の人生を自分の選択で終わらせてしまうことが、何よりも怖かった。
薫は、剛から話を聞いたとき、しばらく言葉を失った。
訓練用の魚雷。
二人で乗れる可能性。
剛が上官に話をして、さとると一緒にいられる道を探してくれるということ。
それは、薫が望んでいたことに近かった。
しかし、話を聞き終えた薫の顔には、単純な喜びだけではないものが浮かんでいた。
剛は、彼女が黙って考える時間を待った。
やがて薫は、両手を胸の前で握りしめ、剛を見上げた。
「……本当に、そんなことができるのでしょうか」
声に出しかけて、薫ははっとした。
今の自分は、声を出してはいけない立場だった。
周囲に人がいないことを確かめてから、薫は小さく口を動かし、声を潜めた。
「本当に、さとると一緒にいられるのでしょうか」
剛は、すぐにはうなずかなかった。
「まだわからない。俺が上官に話をする。だが、許可が出るとは限らない。それに、二人で乗れたとしても、無事に戻れる保証はない」
薫は、まっすぐに剛を見つめた。
「それでも……私は、さとると一緒にいたいです」
その瞳には、恐怖がなかったわけではない。
死ぬことが怖くない人間など、いない。
薫だって、本当は怖かった。
暗い海も、砲声も、命が失われる瞬間も、想像するだけで体が震えた。
けれど、その恐怖の奥には、もっと深い痛みがあった。
さとるのいない未来を生きていくこと。
彼の帰りを待ち続け、二度とその声を聞けないまま、いつか彼のいない年月に慣れてしまうこと。
彼の顔を思い出すたびに、隣にいない現実を受け入れなければならないこと。
薫にとって、それは想像するだけで息が詰まる未来だった。
「私は、さとるとなら、どんな人生も覚悟できます」
薫は、言葉をひとつずつ確かめるように話した。
「苦しいことがあっても、つらいことがあっても、二人で生きていけるなら、私はそれを受け止めたいんです。幸せなことだけじゃなくて、苦しいことも、一緒に背負いたい」
剛は黙って聞いていた。
「もちろん、死にたいわけじゃありません。私は生きたいです。さとると生きて、いつか戦争が終わったら、普通の暮らしをしたい。朝起きて、食事をして、仕事をして、夜になったら今日あったことを話す。そんな毎日を、さとると過ごしたいんです」
薫の目に涙が浮かんだ。
「でも……もし、その願いが叶わないのなら。もし、さとるが帰ってこない未来しか残されていないのなら……私は、その未来が一番苦しい」
言葉が途切れた。
薫は涙をこらえようとしたが、頬を伝う一滴までは止められなかった。
「さとるのいない未来が、私にとって一番苦しい未来だからです」
剛は目を伏せた。
その言葉を、軽々しく受け止めることはできなかった。
薫は、命を惜しくないと言っているのではない。
未来などいらないと言っているのでもない。
彼女は、未来を望んでいた。
ただ、その未来の中に、さとるがいてほしいのだ。
その願いを、戦争がどこまでも追い詰めている。
「……わかった」
剛は、ようやく答えた。
「お前の覚悟は、さとるに伝える。だが、さとるが何を考えているのかも、ちゃんと聞いてくれ。あいつは、お前を失うことを恐れている。お前と一緒にいたくないから迷っているんじゃない。お前を愛しているから、迷っているんだ」
薫は、涙をぬぐい、小さくうなずいた。
「わかっています」
そして、かすかに微笑んだ。
「だからこそ、私は自分の気持ちを伝えたいんです。さとるに、私の人生を勝手に諦めてほしくないから」
剛は、その言葉を胸に刻むように聞いた。
「よし。俺が上官に話す。許可が出るかどうかはわからない。それでも、できることはやってみる」
薫は深く頭を下げた。
その姿を見て、剛は思った。
この二人は、ただ一緒に死ぬことを望んでいるのではない。
二人で生きる道を、最後まで諦めたくないのだ。
だからこそ、剛はその願いを叶えたいと思った。
***
夕方、さとると薫は、人目を避けて短い時間だけ向き合うことができた。
剛が周囲を見張り、二人に話す時間をつくってくれたのだった。
薫の姿を見た瞬間、さとるは彼女の手を取りそうになり、ぎりぎりで思いとどまった。
ここでは、まだ誰に見られるかわからない。
けれど、目が合っただけで、言いたいことがあふれてくる。
「……剛から、聞いた?」
さとるが小声で尋ねると、薫はうなずいた。
「訓練用の魚雷のことも、剛が上官に話してくれることも、聞きました」
「薫……」
さとるは彼女の目を見た。
「俺は、まだ決められない」
薫は、何も言わずに続きを待った。
「お前と一緒にいられるなら、俺は嬉しい。お前をひとりにしなくて済むなら、どんなにいいかと思う。でも……もし、お前を連れていったせいで、お前まで死なせてしまったら」
さとるの声がかすれた。
「俺は、何のためにお前を愛してきたんだろう。守りたいと思ってきたのに、最後には自分の手で、お前の命を奪うことになるかもしれない」
薫は、ゆっくりと首を横に振った。
「さとる。私は、あなたに命を奪ってほしいなんて思っていません」
「……わかってる」
「私は、あなたと生きたいんです」
薫は一歩だけ、さとるに近づいた。
「あなたが私を守りたいと思ってくれていることも、私を失うのが怖いことも、わかっています。私だって同じです。あなたがいなくなるのが怖い。もう二度と会えなくなることが怖い」
彼女の瞳が揺れた。
「でも、だからといって、私の気持ちまであなたが決めてしまわないでください」
さとるは息を止めた。
「私の人生は、私のものです。あなたを愛していることも、あなたと一緒にいたいと思っていることも、私が選んだことです」
薫は、震える手を握りしめた。
「私は、さとるとなら、どんな人生も覚悟できます。苦しいことがあっても、何も持っていなくても、明日がどうなるかわからなくても……あなたと一緒に生きるためなら、私はその一日一日を大切にしたい」
「薫……」
「後悔はありません」
その言葉は、強かった。
けれど、薫の目には涙が浮かんでいた。
「いいえ……本当は、後悔したくないんです。あなたと一緒にいられるかもしれない道があるのに、何もしないまま別れることになったら、私はきっと後悔します」
さとるの唇が震えた。
薫は続けた。
「さとるのいない未来が、私には一番苦しい未来だから」
その瞬間、さとるは顔を伏せた。
何度も、自分に言い聞かせてきた。
薫だけは生きてほしい。
薫だけは、戦争の外へ逃れてほしい。
自分がいなくなっても、彼女には未来があるのだから、その未来を生きてほしい。
それは、間違いなく愛情だった。
けれど、その愛情の中に、自分が決めてしまおうとする身勝手さがなかったとは言い切れない。
彼女が何を望むのか。
何を恐れ、何を選びたいのか。
その答えを聞く前に、彼女の未来を決めようとしていたのではないか。
「……俺は、お前に生きてほしい」
さとるは、ようやく顔を上げた。
「俺がいなくても、お前には生きていてほしい。笑っていてほしい。いつか、俺のことを思い出しても、涙だけじゃなくて、幸せだった時間も思い出せるようになってほしい」
薫の目から、また涙がこぼれた。
「でも、俺は……俺だって、お前と生きたいんだ」
さとるの声は、もう隠しようがないほど震えていた。
「本当は、死にたくない。お前と別れたくない。戦争が終わったら、一緒に暮らしたい。お前と年を取って、くだらないことで笑っていたい」
彼は、薫の手をそっと握った。
「俺は、帰りたいんだ。お前のところへ帰りたい」
薫は、声を押し殺して泣いた。
さとるもまた、涙をこらえることができなかった。
二人が望んでいるのは、死ぬことではなかった。
生きることだった。
ただ、二人の前には、命を懸けなければならない命令があり、その先にある未来を誰も保証してはくれなかった。
「だから……」
さとるは、薫の手を握ったまま言った。
「一緒に行くかどうか、今すぐ答えを出すことはできない。お前の気持ちを聞いたからといって、危険がなくなるわけじゃない。俺は、それでもまだ怖い」
「はい」
「お前を失うのも怖い。お前を連れていくのも怖い。どっちを選んでも、お前を傷つけることになるんじゃないかと思う」
薫は、静かにうなずいた。
「怖くていいんです」
彼女は、涙をぬぐいながら微笑んだ。
「私も怖いです。だけど、怖いからといって、あなたを愛することまで諦めたくありません」
その言葉を聞き、さとるは彼女の手を両手で包んだ。
「……ありがとう」
「ありがとうなんて、言わないでください」
薫は首を横に振った。
「私は、あなたと一緒に生きたい。それだけなんです」
二人はしばらく、何も言わずに手を握り合っていた。
やがて、離れなければならない時間が来た。
薫は最後に、さとるの顔を見つめた。
「明日も、会えますか」
さとるは、すぐには答えられなかった。
出撃の準備は進んでいる。
明日になれば、点検が行われ、上官の判断が下されるかもしれない。
自分たちの願いが、どこまで許されるのかもわからない。
それでも、さとるは薫の目を見た。
「……会おう」
必ず帰るとは言えなかった。
未来を約束することもできなかった。
それでも、明日、もう一度会うことだけは、願いとして口にすることができた。
「明日、また話そう」
薫は、涙を浮かべたまま、しっかりとうなずいた。
二人は手を離した。
離れた指先には、まだ互いのぬくもりが残っていた。
***
夜。
剛は、上官に話をするため、必要な準備を始めていた。
訓練用の魚雷を使うことが認められるのか。
出撃前の点検で何が判明するのか。
さとるの乗る予定のものに問題があった場合、代わりの装備を使うことが許されるのか。
何ひとつ、確かなことはなかった。
剛は、机の上に置かれた書類を見つめながら、唇を噛んだ。
無茶な願いだということはわかっている。
許されない可能性の方が高いかもしれない。
それでも、最初から諦めることだけはしたくなかった。
さとるには、生きてほしい。
薫にも、生きてほしい。
二人が望んでいる未来を、戦争だからという理由だけで、何もせずに手放したくなかった。
剛は、静かに拳を握った。
「……俺にできることは、全部やる」
その声は、小さな部屋の中に消えていった。
一方、さとるは横になっても眠れずにいた。
目を閉じれば、薫の顔が浮かぶ。
「後悔はありません」と言った彼女の声。
「さとるのいない未来が一番苦しい」と涙を流した、その表情。
そして、自分自身が口にした言葉。
――俺は、帰りたいんだ。お前のところへ帰りたい。
その願いは、今まで胸の奥に押し込めていたものだった。
兵士として、命令に従わなければならない。
出撃することが決まった以上、恐怖を口にしてはいけない。
そう思い込もうとしてきた。
けれど、薫の前では、怖いと言うことができた。
生きたいと願うことができた。
その気持ちを口にしたからといって、命令が消えるわけではない。
明日になれば、現実はまた二人の前に立ちはだかる。
それでも、さとるは初めて、自分の願いを隠さずにいようと思った。
薫を道連れにしてしまうかもしれないという恐怖も。
薫と一緒に生きたいという願いも。
どちらも、自分の本当の気持ちだった。
だからこそ、明日、剛が上官に話をする結果を待つだけではなく、薫ともう一度、二人の未来について考えたいと思った。
一緒に行くことが、二人にとって本当に生きる道になるのか。
別々に残ることが、本当に薫を守ることになるのか。
答えは、まだ出ていなかった。
ただ、ひとつだけ確かなことがあった。
二人とも、死を望んでいるのではない。
二人で生きる未来を、最後まで諦めたくないのだ。
出撃まで、残された時間は二日。
明日、剛は上官に話をする。
そして、その返事によって、さとると薫の運命は大きく変わるかもしれなかった。
暗い海の向こうには、何も見えない。
それでも、さとるは胸の中で、もう一度だけ願った。
――薫と、生きたい。
その願いだけは、最後まで手放したくなかった。




