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私だけが片想いだと思っていたら、学校一の美形男子がずっと私を好きでした  作者: ちょこまろ


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第4話 嫌われたくない。でも取られたくない

近づいたはずなのに、周りの視線や噂が怖くなる美月。


奏太を信じたい。

でも、他の女子に取られたくない。

嫌われたくないから平気なふりをしていた美月の本音が、ついにこぼれます。

 次の日、美月は早く学校へ向かった。


 空は薄曇りで、朝の風が少し冷たい。


 いつもと同じ道なのに、知らない場所へ向かっているみたいだった。


 ちゃんと話したいことがある。


 奏太のメッセージが、何度も頭の中で繰り返される。


 何を話されるのだろう。


 昨日のこと?


 噂のこと?


 もしかして、やっぱり一緒に帰るのはやめようって言われるのだろうか。


 それなら、最初から期待させないでほしかった。


 そう思って、すぐに自分が嫌になる。


 奏太くんは悪くない。


 勝手に期待して、勝手に不安になっているのは私だ。


 学校に着くと、教室にはまだ数人しかいなかった。


 奏太は窓際に立っていた。


 美月に気づくと、すぐにこちらへ来る。


「森下」


「おはよう」


「おはよう」


 朝の光の中で見る奏太は、やっぱり綺麗だった。


 こんな人が自分に話したいことがあるなんて、現実味がない。


 教室では話しづらいと思ったのか、奏太は廊下の奥を指した。


「少し、いい?」


「うん」


 二人で人気の少ない階段の踊り場へ向かった。


 朝の校舎は静かで、遠くから運動部の声だけが聞こえる。


 奏太は手すりに軽く触れながら、美月の方を向いた。


「昨日、変な噂になってるみたいで、ごめん」


 最初の言葉がそれで、美月の胸はちくりと痛んだ。


「瀬川くんが謝ることじゃないよ」


「でも、森下が嫌な思いしてたら」


「大丈夫」


 嘘だった。


 全然大丈夫ではなかった。


 でも、大丈夫じゃないと言ったら、奏太を困らせてしまう。


「私、気にしてないから」


 奏太の眉が少し動いた。


「本当に?」


「うん」


「昨日の夜、グループLINE見た?」


 美月は息を詰めた。


「……少し」


「やっぱり」


 奏太は小さく息を吐いた。


「ごめん。俺のせいだ」


「違うよ」


「違わない。俺がちゃんと周りに言えばよかった」


「何を?」


 美月が聞くと、奏太は口を閉じた。


 その沈黙が、怖い。


 美月は無理に笑った。


「でも、みんなびっくりするよね。私と瀬川くんが一緒に帰るなんて」


「なんで?」


「だって、瀬川くんは人気あるし」


「それは関係ない」


「あるよ」


 思ったより強い声が出た。


 自分でも驚いた。


 奏太も少し目を見開いた。


 美月は言葉を止められなかった。


「瀬川くんは分からないかもしれないけど、みんな瀬川くんのこと見てる。付き合いたいって思ってる子も多いし、話しかけられただけで喜ぶ子もいるし」


「森下」


「私なんかが隣にいたら、変に思われる」


「私なんかって言わないで」


 奏太の声が、少し低くなった。


 怒っているわけではない。


 でも、いつもの柔らかい声とは違った。


 美月は黙った。


 奏太は一歩近づいた。


「俺は、森下と帰りたかったから誘った」


「でも、優しいから……」


「優しいからじゃない」


「じゃあ、どうして?」


 聞いた瞬間、心臓が痛くなった。


 本当は知りたい。


 でも、聞くのが怖い。


 奏太は美月をじっと見た。


 何かを言おうとして、でも言葉を選んでいるみたいだった。


 そのとき、階段の下から声がした。


「瀬川くん、いた!」


 昨日、駅前で声をかけてきた女子の一人だった。


 宮田さん。


 同じ学年で、明るくて、友達が多い子だった。


 他にも二人いる。


 美月は反射的に一歩下がった。


 女子たちは美月を見ると、一瞬だけ表情を変えた。


 それから奏太に笑いかける。


「今日の放課後、ちょっと時間ある? 相談したいことがあって」


 奏太は静かに答えた。


「ごめん。放課後は予定がある」


「森下さんと?」


 空気が硬くなった。


 美月は下を向いた。


 予定なんて言わなくていい。


 私の名前を出さなくていい。


 余計に噂になる。


 でも奏太は、はっきり言った。


「うん。森下と帰る」


 女子たちは黙った。


 その沈黙が痛い。


 美月の胸が苦しくなる。


「……そっか」


 女子たちは気まずそうに笑って、その場を離れていった。


 足音が遠ざかる。


 美月は拳を握りしめた。


「どうして言うの?」


 声が震えた。


 奏太がこちらを見る。


「どうしてって」


「そうやって言ったら、また噂になる」


「隠したくないから」


「私は怖いよ」


 言ってしまった。


 ずっと隠していた本音が、こぼれた。


「瀬川くんと一緒にいられるのは嬉しい。でも怖い。みんなに見られるのも、何か言われるのも怖い。瀬川くんが他の子に話しかけられてるのを見るのも苦しい」


 奏太は黙って聞いていた。


「嫌われたくないから、平気なふりしてた。重いって思われたくないから、何も聞かないようにしてた。でも本当は……」


 喉が詰まる。


 泣きたくない。


 ここで泣いたら、もっと面倒な子になる。


 でも止まらなかった。


「本当は、瀬川くんが他の子といるの、嫌だった」


 言った瞬間、世界が止まった。


 もう戻れない。


 美月はすぐに後悔した。


「ごめん」


 逃げるように言った。


「今の忘れて」


「忘れない」


 奏太が言った。


 美月は顔を上げられなかった。


「忘れてよ。変なこと言った」


「変じゃない」


「変だよ。付き合ってるわけでもないのに、こんなこと言うなんて」


「森下」


「ごめん。本当にごめん」


 これ以上ここにいたら、泣いてしまう。


 美月は奏太の横をすり抜けて、階段を上がろうとした。


 そのとき、手首をつかまれた。


 強くはない。


 でも、確かに引き止められた。


「逃げないで」


 奏太の声が近かった。


「俺も、今日ちゃんと言うつもりだった」


 美月は動けなかった。


 心臓が耳の奥で鳴っている。


「でも、朝のこんな場所で言うのは嫌だから」


「え……」


「放課後、少しだけ待ってて」


 奏太の指が、美月の手首からそっと離れる。


「今日、ちゃんと言う」


 その言葉の意味を、考えるのが怖かった。


 でも、考えずにはいられなかった。


 その日の授業は、何も覚えていない。


 ノートには文字が並んでいるのに、自分で書いた気がしなかった。


 昼休み、奈緒が心配そうに聞いてきた。


「美月、大丈夫?」


「うん」


「絶対大丈夫じゃない顔してる」


「ちょっと、寝不足」


「瀬川くんと何かあった?」


 美月は曖昧に笑った。


 奈緒はそれ以上聞かなかった。


 代わりに、購買で買った小さなチョコを机に置いた。


「放課後まで持ちこたえな」


「なんで放課後って分かるの」


「美月の顔に書いてある」


 美月はチョコを握りしめた。


 放課後。


 ちゃんと言う。


 それは、良い意味かもしれない。


 でも、悪い意味かもしれない。


 重いと思った。


 困った。


 やっぱり距離を置こう。


 そう言われる可能性だってある。


 それなのに、期待してしまう。


 奏太の「逃げないで」という声が、何度も胸の中で響いていた。


 放課後、教室がざわつく中で、美月はゆっくり荷物をまとめた。


 奏太は友達に何か言われていたが、短く返してこちらへ来た。


「行こう」


「うん」


 今日は、周りの視線が昨日より痛かった。


 でも奏太は迷わなかった。


 美月の歩幅に合わせて、廊下を歩く。


 昇降口を出る。


 校門を過ぎる。


 駅とは反対方向へ、奏太が歩き出した。


「あれ、駅……」


「少し寄り道していい?」


「うん」


 二人は学校近くの小さな公園へ向かった。


 放課後の公園には、小学生が数人いるだけで、高校生の姿はほとんどない。


 ベンチの前で、奏太が立ち止まった。


 美月も少し離れて立つ。


 沈黙が落ちた。


 風が吹いて、木の葉がかすかに揺れる。


 奏太は深呼吸した。


「森下」


「うん」


「朝の続き、言っていい?」


 美月は頷いた。


 奏太は少し緊張した顔で、美月を見た。


 その顔が、あまりにも真剣で。


 美月は、もう逃げられないと思った。


 奏太が口を開く。


「俺――」


 その瞬間、奏太のスマホが鳴った。


 画面を見た奏太の表情が、少しだけ曇る。


 美月は嫌な予感がした。


「出ていいよ」


「いや」


「大事な連絡かもしれないし」


 奏太は迷った末に電話に出た。


「……もしもし」


 短い沈黙。


 電話の向こうの声は聞こえない。


 でも、奏太の顔が少しずつ険しくなるのは分かった。


「今は無理」


 また沈黙。


「だから、俺は――」


 奏太は言いかけて、美月を見た。


 そして、視線を逸らした。


「……分かった。少しだけ行く」


 通話が切れた。


 美月は胸が冷えていくのを感じた。


 奏太は苦しそうに言った。


「ごめん。ちょっと行かないといけない」


「うん」


「でも、話は絶対するから」


「大丈夫」


 また、大丈夫じゃないのに大丈夫と言った。


 奏太は何か言いたそうだった。


 けれど、急いでいるのか、鞄を持ち直した。


「本当にごめん。あとで連絡する」


「うん」


 奏太が走って公園を出ていく。


 美月は一人、ベンチの前に残された。


 大丈夫。


 用事ができただけ。


 そう思おうとした。


 でも、奏太が電話で言った「少しだけ行く」という言葉が、頭から離れなかった。


 誰のところへ?


 何のために?


 その答えは、すぐに届いた。


 クラスの女子グループに、一枚の写真が送られてきた。


 駅前のカフェ。


 窓際の席。


 奏太が、宮田さんと向かい合って座っている写真だった。


 添えられた文章は、短かった。


『やっぱり瀬川くん、森下さんと付き合ってるわけじゃないんじゃん』


 美月はスマホを握ったまま、息ができなかった。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


美月はようやく、自分の不安や嫉妬を奏太に伝えかけました。

けれど、奏太が「ちゃんと言う」と決めた直後、思わぬ出来事で二人はすれ違ってしまいます。


次話はいよいよ最終話です。

美月と奏太が、ずっと言えなかった本当の気持ちを伝え合います。

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