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私だけが片想いだと思っていたら、学校一の美形男子がずっと私を好きでした  作者: ちょこまろ


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5/5

最終話 ずっと前から、好きでした

最終話です。


すれ違い、噂、不安、嫉妬。

美月がずっと消そうとしてきた気持ちと、奏太がずっと隠してきた本音が、ようやく重なります。


自分だけが片想いだと思っていた恋の結末を、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。

 公園のベンチに座ったまま、美月はしばらく動けなかった。


 スマホの画面には、駅前のカフェにいる奏太の写真。


 向かいには、宮田さんが座っている。


 写真だけ見れば、二人で会っているように見える。


 実際、そうなのかもしれない。


 奏太くんは、私にちゃんと言うって言った。


 でも、電話一本で行ってしまった。


 私より、そっちを選んだ。


 そう思った瞬間、胸の奥がぎゅっと痛んだ。


 違う。


 まだ何も分からない。


 勝手に決めつけちゃだめ。


 そう思うのに、指先は冷たくなっていく。


 グループLINEには、次々とメッセージが流れていた。


『宮田さん、前から瀬川くん狙ってたよね』


『森下さん、勘違いだったのかな』


『てか瀬川くん優しいから、誘われたら断れなそう』


『森下さん大丈夫?』


 最後の一文が、一番刺さった。


 大丈夫じゃない。


 全然、大丈夫じゃない。


 美月はスマホを閉じた。


 目の奥が熱い。


 泣きたくない。


 こんなことで泣いたら、ますます惨めになる。


 立ち上がって、公園を出た。


 駅とは逆方向へ歩く。


 帰り道が少し遠回りになるけれど、今は駅に行きたくなかった。


 奏太に会いたくなかった。


 会ったら、何を言えばいいか分からない。


 好きだと言う勇気もない。


 怒る資格もない。


 付き合っているわけでもないのに、勝手に傷ついているだけ。


 それが一番苦しかった。


 家に帰ってから、美月は制服のままベッドに座った。


 スマホは机の上に置いた。


 見たくない。


 でも、気になる。


 奏太から連絡が来ているかもしれない。


 来ていなかったら、もっと傷つく。


 来ていたとしても、何と返せばいいか分からない。


 十分。


 二十分。


 三十分。


 耐えきれずにスマホを取る。


 通知が何件も来ていた。


 奈緒から。


 莉子から。


 そして、奏太から。


 美月の心臓が跳ねた。


 奏太からのメッセージは、四件。


『森下、今どこ?』


『公園戻ったけどいなかった』


『電話していい?』


『お願いだから、少しだけ話させて』


 着信履歴もあった。


 美月は画面を見つめた。


 話したい。


 でも怖い。


 もし、誤解だと言われたら。


 もし、宮田さんの相談に乗っていただけだと言われたら。


 それでもきっと、私は笑って「そっか」と言ってしまう。


 嫌だったとは言えない。


 私を選んでほしかったなんて、言えない。


 スマホが震えた。


 奏太からの着信。


 美月は指を伸ばしかけて、止めた。


 出られない。


 着信が切れる。


 すぐにメッセージが届いた。


『家の近くまで行っていい?』


 美月は慌てて返信した。


『来ないで』


 送った瞬間、胸が痛くなった。


 すぐに既読がついた。


『分かった。行かない』


 その返事を見て、なぜか涙がこぼれた。


 来ないでと言ったのは自分なのに。


 来ないと言われたら、こんなに寂しい。


 面倒くさい。


 自分が嫌になる。


 しばらくして、もう一通届いた。


『でも、これだけは言わせて』


 続いた文章を見て、美月は息を止めた。


『俺が好きなのは森下だけ』


 涙が止まった。


 画面の文字が、にじむ。


 好き。


 森下だけ。


 何度読んでも、同じ言葉だった。


 でも、信じたい気持ちと同じくらい、怖さが湧いた。


 どうして。


 じゃあ、どうしてカフェに行ったの。


 どうして私を一人にしたの。


 美月は震える指で打った。


『じゃあ、どうして宮田さんのところに行ったの?』


 送ってから、心臓が苦しくなった。


 こんなこと聞く資格はない。


 でも、もう平気なふりはできなかった。


 奏太からすぐに返事が来た。


『告白されるって分かってたから』


 美月は固まった。


 続けて届く。


『前から呼び出されてた。でも断ってた』


『今日は、森下の前でちゃんと言う前に、中途半端なままにしたくなかった』


『宮田には、好きな人がいるって伝えた』


『その好きな人が森下だってことも言った』


 胸がいっぱいになって、息が苦しい。


 美月はスマホを握りしめた。


 また着信が来た。


 今度は、出た。


「……もしもし」


 自分の声は、ひどく小さかった。


 電話の向こうで、奏太が息を吐く音がした。


「森下?」


「うん」


「出てくれてよかった」


 その声があまりにも安心したようで、美月はまた泣きそうになった。


「ごめん」


 奏太が言った。


「俺が悪かった」


「……どうして謝るの」


「森下を一人にしたから」


 美月は唇を噛んだ。


「私、怒る資格ないよ」


「ある」


「ないよ。付き合ってるわけじゃないし」


「それでも、森下を不安にさせた」


 奏太の声はまっすぐだった。


「ちゃんと言うって言ったのに、先に行った。ごめん」


 美月は何も言えなかった。


 電話越しなのに、奏太の真剣さが伝わってくる。


「宮田さんに告白されたの?」


「うん」


「それで……」


「断った」


 短く、はっきりした返事だった。


「好きな人がいるからって言った」


「……私?」


「森下」


 名前を呼ばれただけで、胸が震えた。


「ずっと、森下が好きだった」


 涙がこぼれた。


 静かに、一粒。


「ずっとって……いつから?」


 奏太は少し黙った。


「一年の冬くらい」


「そんな前から?」


「うん」


「でも、そんなの……分からなかった」


「分からないようにしてたから」


「どうして?」


「怖かった」


 意外な言葉だった。


 美月はスマホを耳に当てたまま、瞬きをする。


 奏太くんが、怖かった?


「俺、女子に話しかけられることは多かったけど、自分から本気で好きになったのは森下が初めてで」


 奏太の声が少し照れているように聞こえた。


「何を言えばいいか分からなかった。変に意識して、森下の前だと会話が続かなくなった」


「私、つまらないんだと思ってた」


「違う」


 即答だった。


「好きすぎて、何言っても変に聞こえる気がしてた」


 美月は泣きながら、少し笑ってしまった。


「瀬川くんでも、そんなことあるんだ」


「あるよ。森下のことになると、ずっとある」


 胸が温かくなっていく。


 ずっと冷えていた場所に、少しずつ光が差すみたいだった。


「髪型、褒めてくれたのも?」


「あれは、本当に似合ってたから」


「でも、それからずっと同じ髪型にしてたの、気づいてた?」


「気づいてた」


「変だと思った?」


「嬉しかった」


 美月はまた泣いた。


 恥ずかしくて、嬉しくて、苦しくて、どうしていいか分からない。


「俺、森下がその髪型で来るたび、もしかして少しは俺の言葉覚えててくれてるのかなって、勝手に期待してた」


「覚えてるよ」


 美月は小さく言った。


「ずっと、覚えてた」


 電話の向こうで、奏太が黙った。


 その沈黙が、今は怖くなかった。


「森下」


「うん」


「今から会いたいって言ったら、困る?」


 美月は窓の外を見た。


 まだ夕方の光が残っている。


 家の近くの小さな公園なら、すぐに行ける。


 さっきは来ないでと言った。


 でも今は。


「困らない」


 そう答えると、奏太の声が少し明るくなった。


「じゃあ、駅前じゃなくて、森下の家の近くの公園で待ってる。場所、前に奈緒たちと話してたところで合ってる?」


「うん」


「ゆっくりでいいから」


 電話が切れたあと、美月は急いで顔を洗った。


 目が少し赤い。


 でも、もういい。


 完璧な顔で会うより、ちゃんと会いたかった。


 外に出ると、夕方の風が頬に触れた。


 公園へ向かう道を歩く。


 足が震える。


 でも逃げたいとは思わなかった。


 公園の入口に、奏太はいた。


 制服のまま、少し息を切らしている。


 走って来たのだとすぐに分かった。


 美月を見ると、奏太はほっとしたように表情を緩めた。


「森下」


 その声を聞いた瞬間、美月の胸がいっぱいになった。


 奏太は近づいてきて、でも触れずに少し手前で止まった。


「来てくれてありがとう」


「うん」


「泣かせてごめん」


 美月は首を振った。


「私も、勝手に誤解してごめん」


「誤解させたのは俺だから」


「でも、ちゃんと聞かずに逃げた」


「逃げてもいいよ」


 奏太は静かに言った。


「でも、できれば追いかけさせて」


 その言葉に、胸がきゅっと鳴った。


「ずるい」


「何が?」


「そんなこと言われたら、また好きになる」


 言ってしまった。


 美月は自分の口を押さえた。


 奏太が目を見開く。


 その顔を見て、美月はもう逃げられないと思った。


 いや、逃げたくなかった。


 ずっと言いたかった言葉。


 何度もLINEに打って、何度も消した言葉。


 朝の挨拶よりも、宿題の話よりも、ずっと胸の奥にあった言葉。


 美月は震える息を吸った。


「私、瀬川くんが好き」


 奏太の表情が、少しずつ変わった。


 驚きから、信じられないような顔へ。


 そして、泣きそうなくらい優しい顔へ。


「ずっと前から、好きでした」


 最後まで言えた。


 言ってしまった。


 怖い。


 でも、後悔はなかった。


 奏太は一歩近づいた。


「俺も」


 低く、真剣な声だった。


「森下が好きです」


 美月の目から、また涙がこぼれた。


「俺の方が、たぶんずっと前から好きだった」


「そんなの分かんないよ」


「分かる。俺、かなり重かったから」


 奏太が少しだけ笑う。


 美月も泣きながら笑った。


「重くないよ」


「本当に?」


「うん」


「じゃあ、もう少し言っていい?」


 美月は頷いた。


 奏太は真っ直ぐに美月を見た。


「森下は、自分では普通だって思ってるかもしれないけど、俺には全然普通じゃなかった」


 美月は息を止めた。


 普通じゃない。


 そんなふうに言われたことは、一度もなかった。


「誰かの悪口で盛り上がらないところとか」


 奏太は、ひとつひとつ確かめるように言った。


「落ちてたプリントを、誰にも言わずに拾って戻すところとか」


 美月の胸の奥が、じんわり熱くなる。


「笑う前に、少しだけ目を伏せるところとか」


「そんなところ……見てたの?」


「見てた」


 奏太は少し照れたように笑った。


「ずっと見てた」


 美月はまた泣きそうになった。


 普通だと思っていた。


 誰にも気づかれないと思っていた。


 特別可愛くもない。

 目立つわけでもない。

 教室の端にいるだけの自分。


 でも、奏太は見てくれていた。


「私、ずっと……瀬川くんには、もっと可愛い子が似合うと思ってた」


「俺は、美月がいい」


 初めて、名前で呼ばれた。


 胸がきゅっと鳴った。


「森下じゃなくて、美月って呼んでもいい?」


 美月は涙を拭きながら頷いた。


「うん」


「美月」


 名前を呼ばれただけで、こんなに嬉しいなんて知らなかった。


「じゃあ……奏太くん」


 名前を呼ぶと、奏太が少し照れたように笑った。


「やばい」


「何が?」


「嬉しい」


 そんなふうに素直に言われたら、どうしたらいいのか分からない。


 奏太は少し真面目な顔に戻った。


「付き合ってください」


 美月の呼吸が止まった。


 その言葉を、自分が言われる日が来るなんて思っていなかった。


 しかも、奏太から。


 学校中の女子が憧れる、あの瀬川奏太から。


 でも今、目の前にいる奏太は、遠い王子様みたいな人ではなかった。


 美月の返事を待って、少し不安そうにしている男の子だった。


 美月は両手を握りしめた。


「はい」


 声が震えた。


「よろしくお願いします」


 奏太は一瞬、息を止めたように見えた。


 それから、心から嬉しそうに笑った。


 その笑顔を見た瞬間、美月はまた好きになった。


 公園の時計が、夕方六時を少し過ぎていた。


 遠くで小学生たちが帰っていく声がする。


 空は淡いオレンジ色に染まっていた。


 奏太は少し迷うように手を動かした。


「手、つないでもいい?」


 美月の心臓が大きく跳ねる。


「うん」


 差し出された手に、そっと自分の手を重ねる。


 奏太の手は温かかった。


 指が絡む。


 それだけで、胸がいっぱいになる。


 次の日、学校へ行くのは少し怖かった。


 噂はきっと広がっている。


 いろいろ言われるかもしれない。


 でも、昨日までと違うのは、奏太が隣にいることだった。


 朝、教室の入口で奏太と目が合った。


 奏太はいつものように言った。


「美月、おはよう」


 教室中が一瞬静かになった。


 美月は恥ずかしくて、でも嬉しくて、ちゃんと返した。


「おはよう、奏太くん」


 ざわめきが広がる。


 奈緒が机に突っ伏して笑っている。


 莉子が廊下から親指を立てている。


 宮田さんは少し気まずそうにしていたけれど、美月と目が合うと、小さく頭を下げた。


 そして、口だけで「ごめん」と動かした。


 美月も小さく頷いた。


 傷つくことが全部なくなるわけではない。


 きっとこれからも、不安になる日はある。


 奏太が誰かに話しかけられれば、少しだけ胸がざわつくかもしれない。


 でも、もう一人で勝手に消さなくていい。


 LINEも。


 気持ちも。


 放課後、奏太は美月の席まで来た。


「帰ろう」


 周りの視線は、まだ少し痛い。


 でも奏太は迷わず、美月だけを見ていた。


 美月は鞄を持って立ち上がった。


「うん」


 校門を出て、駅までの道を歩く。


 昨日までと同じ道。


 でも、全然違う道。


 奏太が隣で言った。


「明日も一緒に帰ろう」


 美月は笑った。


「明日こそ、じゃないんだね」


「うん」


 奏太は少しだけ美月の手に触れた。


「明日じゃなくて、今日から」


 美月はその手を、今度は自分から握った。


 ずっと前から好きだった。


 ずっと言えなかった。


 でも、夢で終わらせなくてよかった。


 夕方の駅へ向かう道で、二人の影が並んで伸びていた。


― 完 ―

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。


美月はずっと、自分だけが片想いしていると思っていました。

けれど奏太もまた、ずっと前から美月を見ていて、同じように不安になりながら想いを抱えていました。


遠い存在だと思っていた相手が、実は自分を選んでくれていた。

そんな甘くて少し切ない両片想いの物語でした。


少しでも楽しんでいただけましたら、評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。

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