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私だけが片想いだと思っていたら、学校一の美形男子がずっと私を好きでした  作者: ちょこまろ


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第2話 消したLINEと、届いたメッセージ

奏太から届いた「明日、一緒に帰らない?」というLINE。


嬉しいはずなのに、美月はまだ素直に信じきれません。

誰にでも優しい彼の本心は、少しずつ見えていきます。

 次の日の朝、美月はいつもより三十分も早く目が覚めた。


 起きた瞬間、昨日のメッセージを思い出して、布団の中で固まった。


『明日、一緒に帰らない?』


 夢ではなかった。


 スマホを開くと、ちゃんとそこに残っている。


 何度見ても、瀬川奏太からのメッセージだった。


 美月はその画面を胸に抱えそうになって、慌ててやめた。


 だめ。


 浮かれすぎ。


 ただ一緒に帰ろうって言われただけ。


 それも、もしかしたら昨日駅で避けたように見えたから、気を遣ってくれただけかもしれない。


 奏太くんは優しいから。


 そう思うのに、口元が勝手に緩んでしまう。


 鏡の前で髪を整えながら、美月はいつもの編み込みを作った。


 少し手が震えて、三回やり直した。


 昨日より少し丁寧に髪を整えたのに、鏡の中の私はやっぱりいつもの私だった。


 それでも。


 それでも今日は、奏太くんと一緒に帰る。


 学校に着くと、教室はいつも通りざわついていた。


 奏太はまだ来ていない。


 美月は少しほっとしたような、残念なような気持ちで席に着いた。


 奈緒がすぐに振り返る。


「美月、顔赤くない?」


「赤くない」


「いや、赤い。何かあった?」


「何もない」


「その“何もない”は、絶対何かあったやつ」


 奈緒は勘がいい。


 美月が口を開きかけた、そのときだった。


 教室の入口が少しざわめいた。


 奏太が入ってきた。


 いつも通り友達に声をかけられ、いつも通り笑っている。


 ただ、今日は美月の方を見た。


 一瞬だけ。


 本当に一瞬だけ。


 でも目が合った。


 奏太は少しだけ口元を緩めた。


 美月は慌てて目をそらした。


 無理。


 心臓がもたない。


「何それ」


 奈緒が小声で言った。


「今の、何?」


「何でもない」


「瀬川くん、完全に美月見てたじゃん」


「見てない」


「見てた」


「見てないってば」


「じゃあなんで美月、耳まで赤いの?」


 美月は両手で耳を隠した。


 授業中も、全然集中できなかった。


 黒板の文字が頭に入らない。


 先生の声も遠い。


 放課後、一緒に帰る。


 ただそれだけの約束が、胸の中でどんどん大きくなる。


 昼休み、美月は購買に行く途中で、廊下の角に立ち止まった。


 奏太の声が聞こえたからだ。


「だから、ちゃんと言いなって」


 その声は、莉子だった。


 美月の足が止まる。


 廊下の先、階段の近くで奏太と莉子が話していた。


 昨日と同じ距離。


 近い。


 莉子は腕を組んで、少し呆れたように奏太を見ている。


「瀬川くん、見た目ほど余裕ないよね」


「うるさいな」


「うるさくない。美月ちゃんの前だと、特に」


 美月は息を飲んだ。


 今、莉子は何て言った?


 美月ちゃん?


 私のこと?


「名前出すなよ」


 奏太の声が少し低くなった。


「本人に聞こえたらどうすんだよ」


「聞こえてた方が早いかもよ?」


「一ノ瀬」


「はいはい。怖い顔しない」


 莉子は楽しそうに笑った。


 美月はその場から逃げた。


 購買に行くのも忘れて、女子トイレの個室に入る。


 心臓がうるさい。


 どういうこと?


 莉子は奏太くんの恋の相談に乗ってるの?


 それって、誰のこと?


 私?


 そんなわけない。


 でも、さっき確かに名前が出た。


 美月ちゃんの前だと。


 余裕ない。


 奏太くんが?


 私の前で?


 美月は両手で顔を覆った。


 期待したらだめだ。


 期待して違ったとき、きっと立ち直れない。


 放課後までの時間は、異様に長かった。


 最後の授業が終わるチャイムが鳴った瞬間、教室が一気に騒がしくなる。


 美月はゆっくり教科書を鞄にしまった。


 何をどうすればいいか分からない。


 奏太から誘ってくれたのだから、待っていればいいのか。


 それとも、自分から声をかけるべきなのか。


 迷っていると、机の横に影が落ちた。


「森下」


 顔を上げると、奏太が立っていた。


 周りの女子の視線が、一斉にこちらへ向いた気がした。


「帰れる?」


「あ……うん」


 美月は鞄を持った。


 その瞬間、教室のどこかで小さな声がした。


「え、瀬川くんと森下さん?」


「一緒に帰るの?」


「なんで?」


 聞こえないふりをした。


 けれど、胸が痛い。


 やっぱり不思議に思われるよね。


 学校中の女子が憧れる人と、私なんかが一緒に帰るなんて。


 廊下に出ると、奏太は少しだけ歩く速度を落としてくれた。


 美月はその横を歩く。


 近い。


 肩が触れそうで、触れない距離。


 何を話せばいいんだろう。


 天気?


 授業?


 宿題?


 考えれば考えるほど、何も出てこない。


「あのさ」


 先に口を開いたのは奏太だった。


「昨日、ごめん」


「え?」


「駅で。俺、一ノ瀬といて、森下に声かけられなかった」


「謝ることじゃないよ」


 美月は慌てて首を振った。


「私こそ、隠れるみたいにして……変だったよね」


「変じゃない」


 奏太は即答した。


「ただ、見えたから」


「見えた?」


「森下が、こっち見てたの」


 美月は固まった。


 恥ずかしい。


 見ていたことまでばれていた。


「ご、ごめん。別に、のぞいてたわけじゃなくて」


「分かってる」


 奏太は少しだけ笑った。


「俺は、森下がいたなら声かければよかったって思っただけ」


 その言い方が優しくて、美月は何も返せなかった。


 昇降口で靴を履き替える。


 校門を出る。


 夕方の風が、少しだけ冷たかった。


 駅までの道は、昨日より短く感じる。


 でも沈黙が怖い。


 美月は勇気を出して言った。


「一ノ瀬さんと……仲いいんだね」


 言った瞬間、後悔した。


 何を聞いてるの。


 嫉妬丸出しじゃない。


 奏太は少し驚いた顔をした。


「一ノ瀬?」


「昨日も一緒に帰ってたし、今日も話してたから」


「ああ」


 奏太は少し気まずそうに視線を逸らした。


「相談してただけ」


「相談?」


「うん」


「何の?」


 聞きたい。


 でも聞くのが怖い。


 奏太はしばらく黙った。


 駅前の信号が赤になる。


 二人で立ち止まる。


 車が通り過ぎる音だけが聞こえた。


「森下のこと」


 小さな声だった。


 それでも、美月にははっきり聞こえた。


「私?」


「うん」


 信号が青に変わった。


 けれど、美月はすぐに歩き出せなかった。


 奏太も立ち止まったままだった。


「一ノ瀬に、相談してた」


「どうして……私のことを?」


 声が震えた。


 奏太は美月を見た。


 いつも女子に囲まれているときとは違う顔だった。


 少し緊張していて、少し困っていて、それでも目を逸らさない。


「森下と、もっと普通に話したかったから」


 胸の奥が熱くなる。


「普通に?」


「うん。俺、森下の前だと変になるから」


「変?」


「何話せばいいか分からなくなる」


 美月は信じられない気持ちで奏太を見た。


 学校一の美形男子。


 誰にでも自然に笑える人。


 女子から話しかけられても、普通に返せる人。


 そんな奏太が、私の前で?


「それって……」


 言いかけたとき、後ろから声がした。


「瀬川くん!」


 振り返ると、同じ学年の女子が三人立っていた。


 そのうちの一人が、少し頬を赤くして奏太を見ている。


「今、帰り? よかったら一緒に駅まで行かない?」


 美月の胸が、すっと冷えた。


 やっぱり。


 奏太くんは、こういう人だ。


 どこにいても声をかけられる。


 誰かが隣に立ちたがる。


 私がたまたま今日そこにいるだけ。


 奏太はその女子たちを見て、それから美月を見た。


「ごめん」


 穏やかだけど、はっきりした声だった。


「今日は森下と帰るから」


 空気が止まった。


 女子たちの視線が、美月に刺さる。


 美月は息ができなかった。


 奏太は何も迷わず、美月に言った。


「行こ」


 その言葉に背中を押されて、美月は歩き出した。


 駅の改札を抜け、ホームに立っても、まだ胸が苦しい。


 奏太は少し黙っていた。


 やがて、電車の到着を告げるアナウンスが流れたとき、彼が言った。


「森下」


「うん」


「明日も、一緒に帰っていい?」


 美月は顔を上げた。


 奏太の耳が、ほんの少し赤かった。


 見間違いじゃない。


 たぶん、本当に赤い。


 美月は胸がいっぱいになって、返事がすぐに出てこなかった。


 そのとき、ホームの向こう側から莉子の声が聞こえた。


「美月ちゃん!」


 莉子が手を振りながら近づいてきた。


 美月はびくっと肩を揺らした。


 莉子は奏太の隣ではなく、美月の前に立つ。


 そして、まっすぐに聞いた。


「ねえ、美月ちゃん」


 夕方のホームのざわめきの中で、莉子の声だけが妙にはっきり聞こえた。


「瀬川くんのこと、好きなの?」


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


美月は、奏太が自分のことを気にしてくれていると知りながらも、周りの視線や噂に不安を感じ始めます。


次話では、莉子の一言をきっかけに、奏太が美月を誘った本当の理由が明らかになっていきます。

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