恐怖という名のマネジメント。無能な幹部を「有効活用」する方法。
「……我が騎士団が、管理もできずに石ころを掘り出していると。そう言いたいのか、貴様」
ガルドスの喉から漏れる唸り声は、地響きのように部屋を震わせた。
机を挟んで向き合うカガリの至近距離に、ガルドスの巨大な拳が置かれている。一振りで人間を挽肉に変える「暴力」の化身。
だが、カガリはその拳の横に、平然とした手つきで一枚の図表を滑らせた。
「事実は、君の感情より冷酷だ、団長。この半年で騎士団が鉱山警備に投じた戦力は増大しているが、市場価値のある『一級魔石』の産出量は逆に15%低下している。なぜだか分かるか?」
「……魔物の活性化だ。奴らを退けるためにコストがかかるのは当然だろう」
「いいや違う。現場の騎士たちが『金にならない重労働』を嫌い、魔物の間引きを適当に済ませ、質の良い鉱脈の調査を怠っているからだ。
……つまり、マネジメントの不全。武勲にしか興味のない君が、経営をヴァイザー副団長のような『私欲の専門家』に丸投げした結果だよ」
「な……っ!」
脇で控えていたヴァイザーが飛び上がる。カガリは彼を視界の端にも入れず、ガルドスの瞳だけをじっと見つめた。
「ガルドス団長。君が守るべきは、錆びた採掘権という紙切れか。
それとも、泥を啜りながら士気を失っていく部下たちの未来か。……マフィアの世界なら、無能な幹部にシマを任せたボスの責任は重いぞ」
「貴様……!」
ガルドスが立ち上がった。殺気が部屋に充満し、空気の密度が変わる。
刹那、ガルドスの背後で、ずっと石像のように佇んでいたマサムネが、僅かに鯉口を切った。
「――そこまでだ、団長殿。……拙者の『主』は、少々口は悪いが、嘘は吐かぬ。これ以上動けば、貴殿の兜が二つに割れるぞ」
静かな、だが逃れようのない死の宣告。ガルドスは背後を振り向き、初めてマサムネという「影」の真価を悟った。その肌を撫でるような殺気の質は、並の剣士のそれではない。
「……九条、マサムネか。……あの日、ヴァイザーが放った刺客。死んだと聞いていたが」
「カガリ殿が、拙者の村を買い取ってくれた。ゆえに拙者は、今はこの御仁を守る盾だ」
ガルドスはしばし沈黙した後、力なく椅子に腰を下ろした。
カガリの「正論(数字)」と、マサムネの「武力」。その両面で王手をかけられていることを、この猛牛はついに認めた。
「……五年。五年の間、採掘権を貴様に貸す。……その代わり、騎士団への配当が一度でも滞れば、貴様の首をこの手で捩じ切る。……いいな?」
「不渡りは出さない主義だ、団長。……賢明な判断だよ。これで君たちは、騎士としての『本職』に集中できる」
カガリは契約書を差し出し、ガルドスの無骨な印章を押させた。
採掘権の奪取。それは、カガリがこの大陸に「資源独占」という名の経済的要塞を築くための、最初の一歩であった。
執務室を出る際、カガリは震えるヴァイザーの肩を、親しみ深く、そして蛇のように冷たく叩いた。
「ヴァイザー副団長。……君の不正の証拠は、私が預かっておく。君には、これから鉱山現場の『監督役』として、泥にまみれて働いてもらう。
……もちろん、私の監視下でね」
「ひ……っ、は、はい……」
廊下に出ると、マサムネがふっと息を吐いた。
「……カガリ殿。綱渡りも良いところだ。あやつが契約書を破り捨てて暴れ出せば、拙者も無傷では済まなかった」
「リスクを取らない商売はないよ、マサムネ。……さて、次は現場だ。鉱山に溜まった『膿』を出し切り、九条の里の者たちを適正な賃金で投入する。
……これより、黒鉄連峰の『再開発』を開始するぞ」
カガリの視界の中で、騎士団の赤いグラフが、徐々にアルカディアの青色へと上書きされていく。
暴力の城塞が、資本の歯車へと組み込まれていく足音が、高く響いていた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます!
魔石という話出てますが、現実世界でいうところの金銀銅、ゲームでいうところのマイクラの鉱石みたいなイメージを持って貰えたらOKです。
魔石の純度が高い=レア=良いものが作れる、というのはシンプルな話です。
バルカスの嬉しそうな顔が目に浮かびます、よね……?
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