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災害を砕く星の刃 〜絶対防壁の臨界と、月を落とす領域〜

同刻、バビロン正面、中央戦線―――。


そこはすでに、人の立ち入るべき「戦場」ではなくなっていた。


「ハハハハッ! 脆い、脆いぞ! 貴様らの誇る盾とやらも、大自然のことわりの前では枯れ葉のごとき脆弱さよ!」


空中に浮かぶ二つの影。皇帝同盟を束ねる頂点、『風』と『雷』の総帥である。

彼らが指先を振るうだけで、地形を抉る不可視の真空刃が吹き荒れ、数万ボルトの雷鳴が雨霰あめあられと降り注ぐ。それは魔法の次元を超えた、純粋なる「天変地異」であった。


「……ぐ、ぅぅぅッ!!」


その災害のド真ん中で、赤髪の女騎士・カトレイアは、膝を折りそうになりながらも大盾を天に掲げていた。

彼女が展開する絶対防壁『慈母イージス・オブ・アガペー』は、総帥たちの理不尽な暴力をその周囲十数メートルで完全に「静止」させている。しかし、その分厚い不可視の壁には、すでに蜘蛛の巣のような亀裂が無数に走っていた。


「おい、カトレイア! 盾の出力が落ちてるぞ! 後でいくらでも奢ってやるから、気合いで持たせろ!」


レオンハルトが、彼女の背後から重力魔法で岩盤を隆起させ、物理的な防波堤を作りながら叫ぶ。


「軍神殿、貴公の奢りなど信用できん……! だが、私の『盾』の真骨頂は、耐えることだけではないぞ!」


カトレイアの黄金の瞳が、頭上でわらう総帥たちを鋭く射抜いた。


「オーナーから学んだのだ。……受けた負債ダメージは、利息をつけて一括で返すのが、アルカディアの流儀だとな!」


彼女の魔力属性『静止ディレイ』は、運動エネルギーを消滅させるのではない。その場に「とどめ置く」魔法だ。

カトレイアは盾を強く握り直し、結界の表面に蓄積され続けていた総帥たちの『風と雷のエネルギー』を一気に解放する座標を反転させた。


「『事象返済ペイバック遅延相殺・ディレイ』ッ!!」


『ガァァァァァァンッッ!!!』


カトレイアの盾を起点に、今まで彼女が受け止めてきた数千発の雷撃と真空刃が、一筋の巨大な破壊の奔流となって、真っ直ぐに上空の総帥たちへと跳ね返った。


「なっ……我々の魔力を、そのまま撃ち返しただと!?」


「ええい、小賢しい真似を!」


予期せぬ巨大なカウンターに、総帥たちは慌てて空中で防護障壁を展開し、その動きを完全に止めた。


「――今だ、バルカス!!」


レオンハルトの咆哮に応え、防波堤の陰から地響きと共に巨大な鋼鉄の巨神が躍り出た。

ドワーフの天才職人が組み上げた特注防爆魔導重機『アルカディア・ギア零式』に搭乗した、バルカスである。


「おおおおッ! 我が最高傑作の初陣、ドワーフの浪漫ろまんを食らェッ!!」


バルカスは操縦桿を叩き割りそうな勢いで押し込み、右腕の巨大な魔導パイルバンカーを天へと向けた。機体の高純度魔石が限界を超えて赤熱し、凄まじい魔力光が砲身に収束していく。


「『限界突破パイルバンカー魔導荷電粒子砲・マキシマム』!!」


極太の破壊光線が、空の総帥たちに向かって一直線に放たれる。


「愚かな! その程度の出力で、我々の暴風の壁を貫けるはずが――」


総帥が嘲笑した瞬間。


「――安心しろ、俺が『重く』してやるよ」


バルカスの光線が届く寸前、レオンハルトが愛槍『カラドボルグ』を大地に突き立て、自身の魔力のすべてを空の一点へと叩き込んだ。


「『超重力崩壊グラヴィティ事象地平・コラプス』ッ!!」


総帥たちの周囲の空間が、文字通り「ひしゃげた」。

光すらも歪むほどの極小のブラックホールが上空に形成され、総帥たちを守っていた強固な暴風の壁が、圧倒的な引力によって内側へ強制的にへし折られる。


「な、なんだこの重力はァッ!?」




『ドガァァァァアアン!!!!』


身動きが取れなくなった総帥たちの懐へ、バルカスの放った魔導荷電粒子砲が直撃し、強烈な爆発が上空を赤く染め上げた。


「……やった!?」


アリサがモニターの前で拳を握りしめる。


だが、コンシリエーレ・ルームの巨大スクリーンを見つめるカガリの目は、依然として冷ややかだった。


「……甘いな。あの程度の利息では、彼らの資本は削りきれない」


カガリの言葉通り、爆炎が晴れた空には、傷を負い、すすけながらも健在な総帥たちの姿があった。


「……おのれ、虫ケラどもが。我々の顔に泥を塗った罪、万死に値するぞ。バビロンごと、塵一つ残さず消し去ってくれる!!」


激怒した二人の総帥が両手を掲げると、空の暗雲が異常な速度で渦を巻き始め、バビロンの都市そのものを呑み込むほどの「超特大の雷竜巻」が形成され始めた。


「まずい……! あれが落ちれば、バビロンのインフラごと吹き飛びます!」


エルセが青ざめる。

カトレイアの盾でも、都市全体を覆うほどの天災は防ぎきれない。


だが、その絶望の雷竜巻の上空――さらに高い空から、桜色ピンクの髪をなびかせた一人の少女が、重力に逆らうように急降下してきていた。


「……ごきげんよう、お偉いさん。あんたたちの『遊戯あそび』、私がぶち壊してあげるわ。……カトレイア! あんたのその余り余った魔力、私に少し貸しなさい!」


絶望的な雷鳴が轟く中、少女は叫んだ。

身の丈を優に超える『黒鋼の大剣』を構えたセレーネ・アステリアである。


「フッ、いいだろう。あとは任せた!」


カトレイアが大盾から魔力の奔流を放ち、それをセレーネの大剣が真っ向から吸い上げる。

本来なら受け止めきれないはずの膨大な魔力。しかし、カガリに不当な契約から救われ、完全に鎖を解き放たれたセレーネの器は、それを完璧に制御してのけた。


「……行くわよ」


セレーネが静かに目を閉じ、大剣を横に構え、一振り―――。


その瞬間、大剣から溢れ出した魔力が、通常の数十倍もの範囲に及ぶ巨大な『星空の領域』を中央戦線全域に展開した。

カトレイアの魔力とセレーネの極限まで研ぎ澄まされた剣気が融合し、天災すらも内包する絶対的な空間を作り出す。


「なんだこれは、結界か!? ええい、竜巻の餌食になれ!」


総帥が雷竜巻を一気に地上へと落下させる。

だが、セレーネは恐れることなく、その細い腕で巨大な大剣を担ぎ、領域の端から端まで、大きな弧を描きながら総帥に突進した。




「『星天領域ルナ墜月・フォール』!!」




大剣の一振りが、展開された領域そのものを切り裂いた。

瞬間、音すら置き去りにする静寂―――。

領域内の空間ごと、まるで巨大な質量を持った「月」そのものが空から落ちてくるかのような、斬撃という概念を根底から揺るがすほどの圧倒的な衝撃だった。


『――ッッ!!!?』



衝撃波が、「超特大の雷竜巻」を根本から完全に粉砕し、総帥たちの強固な魔力障壁すらも紙屑のように両断した。


「ば、馬鹿な……!? 我々の最大の術式が、たかが一本の剣で……!?」


魔力の逆流と衝撃波を受け、二人の総帥が血を吐いて空中で膝を折った。


「……チッ。忌々しい新興ギルドどもめ。……だが、我々を退けたとて、貴様らはすでに詰みだ」


総帥は口元の血を拭い、バビロンの西側に広がる海を一瞥して、凄惨にわらった。


「見よ。クレイグの魔導艦隊がすでにバビロンの港を完全に射程に収めている。海からの斉射が始まれば、貴様らの要塞など海の藻屑よ!」


総帥の言葉通り、西の海には『蒼海の三叉槍』の無敵の艦隊がずらりと並び、数千の砲門をバビロンへと向けていた。


アルカディアの幹部たちの間に、一瞬の緊張が走る。


―――しかし。


最上階からその光景をモニターで見下ろしていたカガリは、銀の懐中時計をパチンと閉じ、極めて冷酷な笑みを浮かべた。


「――さて、それはどうかな」


カガリの呟きと同時だった。


バビロンの港を包囲していたはずの無敵の魔導艦隊が、突如として砲門の向きを反転させた。

そして、彼らがその圧倒的な砲火を放った先は、アルカディア軍ではなく――背後に展開していた『皇帝同盟軍の本陣』だった。


『ドゴォォォォォォンッッ!!!』


「な、何ィィィッ!?」


空の総帥たちが、信じられないものを見るように目を見開いた。


コンシリエーレの仕掛けた、冷徹なる「盤面ボードの書き換え」。

皇帝ギルドの崩壊は、すでに内部から始まっていたのである。

ここまでお読みいただき本当にありがとうございました!

(作者)アルカディア・ギア零式…もう原理とか色々端折ってしまってますが…

(バルカス)ファンタジー界でも、ロボットこそが男の浪漫ですぞ!!


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