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巨大要塞の「顔」と、開戦の重役会議(ボードミーティング)

魔導昇降機エレベーターが静かな駆動音を立てて地上一階へと到着する。


分厚い扉が開いた先、新本部の正面エントランスは、地下の狂気的な工房や、闘技場の殺伐とした空気とは完全に切り離された、別世界の温もりに満ちていた。


デダロスが厳選した最高級の無垢材がふんだんに使われ、計算し尽くされた天窓からは、柔らかく美しい太陽光が差し込んでいる。


過酷な任務から帰還した社員(ギルド員)たちが、一歩足を踏み入れた瞬間に「帰ってきた」と安堵の息を漏らすよう設計された、まさしくギルドの「顔」である。


その空間の奥、広々とした受付カウンターの向こう側で、オレンジ色のポニーテールを揺らしている少女がいた。


「はい、黒鉄連峰からの魔石搬入ですね! お疲れ様です、書類はこちらにサインをお願いします。……あ、右腕の怪我、大丈夫ですか?

隔離棟カトレイアさんのところには行かずに、西翼の医療班でちゃんと診てもらってくださいね!」




ギルドマスター、アリサ・アルカディア。




彼女は、大陸全土にその名を轟かせ始めた巨大組織のトップでありながら、今日も当たり前のように「受付嬢」としてカウンターに立っていた。


【鑑定:アリサ(職業:ギルドマスター/受付)】

・経営者適正:G(致命的)

・接客・ホスピタリティ:SS(組織の精神的支柱)

・付加価値:社員の離職率低下、士気回復に多大な貢献


「……相変わらずだな、お嬢さん。ギルドマスター自ら受付業務とは、王都の貴族が聞けば気絶するぞ」


カガリが静かな足音で近づき声をかけると、アリサはパッと顔を輝かせた。


「あ、カガリさん! お帰りなさい。だって私、難しい計算や経営のことは全然わからないし……。

みんなに『お疲れ様』って言うのが、私にできる一番の仕事ですから」


カガリは、アリサの屈託のない笑顔を見て、僅かに口角を上げた。


「それが正しい。トップの仕事は現場をかき回すことではなく、己の最も得意な分野で組織に利益ベネフィットをもたらすことだ。

君がそこに立っているだけで、野郎どもの労働意欲モチベーションは三割増しになる。……完璧な適正配置だ」


「もう、カガリさんはすぐそういう難しい言葉で言うんだから……」


アリサが苦笑いする。


だが、カガリの次の言葉で、彼女の表情は引き締まった。


「アリサ。全幹部に招集をかけろ。一時間後、最上階の『重役会議室ボード・ルーム』だ」


カガリのブラウンの瞳に、冷徹な捕食者の光が宿る。


「……第一フェーズの基盤構築は終わった。これより、我々は既存の『市場ルール』を喰い殺しにいく」


「……は、はいっ!」


アリサの凛とした返事が、エントランスに響き渡った。






一時間後。


新本部の最上階(中央)。

カガリの執務室に隣接する形で設けられた『重役会議室』に、アルカディアの全幹部が集結していた。


分厚い黒曜石と防音の魔術結界で完全に外界から遮断された、情報漏洩率ゼロの密室。

中央に置かれた巨大な円卓には、カガリを筆頭に、アリサ、マサムネ、レオンハルト、バルカス、カトレイア、ミッカ、そしてエルセの姿がある。


カガリは円卓の上座で優雅に脚を組み、全員を見渡した。


「よく集まってくれた。ミッカからの報告にもあった通り、第一四半期の我がファミリーの収益は想定以上の黒字だ。各部門の諸君の働きに感謝する」


カガリの言葉に、幹部たちがそれぞれの反応を見せる。マサムネは静かに頷き、レオンハルトは不敵に笑い、ミッカは胃薬の瓶を撫でていた。


「だが、休んでいる暇はない。我々の『アルカディア・トライアングル』が巨大化すればするほど、既存の権力は我々を脅威と見なし、排除に動く。……座して待つのは三流の経営だ。ゆえに、我々から仕掛ける」


カガリは、円卓の中央に大陸全土の地図を広げた。


そして、その中央に位置する一つの巨大な都市に、冷たい視線を落とす。


「次なる買収ターゲットは、大陸中央の巨大物流・商業都市『バビロン』。

……そして、そこを実効支配する三大皇帝ギルドの一つ、『叡智のクラウン・オブ・ウィズダム』だ」


「『叡智のクラウン・オブ・ウィズダム』……」


レオンハルトが、低い声で唸った。


「カガリ。あそこは厄介だぞ。数百人の魔術師を抱え、魔法による天候操作や空間転送で大陸中の『物流』を独占している。おまけに、都市そのものが巨大な『認識阻害』の結界で覆われている。軍隊を差し向けても、都市にたどり着くことすらできねぇ」


「……ええ。それに、彼らのトップは都市中の魔力をリンクさせて、広域殲滅魔法を撃ってくる化け物です」


エルセがタルトを齧りながら、精霊から得た情報を補足する。


武力ではたどり着けず、魔法の弾幕によって焼却される、難攻不落の魔法都市。

会議室に重い緊張が走る中、カガリは葉巻を指に挟み、冷徹に笑った。


「ならば、軍隊を送らなければいい。……城門が硬いのなら、内部から鍵を開けさせ、内側から『帳簿』を書き換えればいいだけの話だ」


「内部から……?」


マサムネが眉をひそめる。


「ああ。これより、少数精鋭によるバビロンへの潜入工作スパイ・ミッションを開始する。……情報収集と、内部崩壊の足がかりを築くためのな」


カガリの宣言に、幹部たちの目の色が変わった。




第四の皇帝ギルドによる、既存勢力への冷徹な「敵対的買収」の第一手が、今まさに打たれようとしていた。

ここまでお読みいただき本当にありがとうございました!


遂に大型ギルドとの対決編に突入します!


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