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第四の皇帝ギルド誕生……?!難攻不落の金庫から実況中継

アルカディア・トライアングル――。


東の『九条の里』、北の『黒鉄連峰』、そして西の『工業地帯』を結ぶその広大な領域は、カガリがこの世界に降り立ってからの四ヶ月間で、大陸東方の経済図を完全に塗り替えていた。


その中央に位置する街には今、黒曜石の堅牢な城壁と、白亜の大理石が美しいコントラストを描く巨大な城塞建築がそびえ立っている。


かつて、雨漏りのする木造の小屋であった弱小ギルド『アルカディア』は跡形もない。


天才建築家デダロス・メイソンが莫大な予算とエゴを注ぎ込み、ドワーフの職人たちが不眠不休の狂気で組み上げたその新本部は、物理的な防衛力だけでなく、見る者を圧倒する「資本の暴力」を体現していた。


現在、この大陸には長きにわたり歴史と権力を独占してきた「三大皇帝ギルド」が存在する。


しかし、資源、物流、技術、そして国営銀行の莫大な資本を背景に、異常な速度で台頭したギルド『アルカディア』を、世間は畏怖と敬意を込めてこう呼んだ。





――『第四の皇帝ギルド』、と。





そんな威容を誇る新本部の、さらに強固な防衛網が敷かれた地下の最深部。


分厚いミスリル合金で補強され、複雑な魔導ロックが幾重にも施された一枚の扉の前に、カガリは立っていた。


「……ミッカ。コンシリエーレだ。開けたまえ」


カガリが冷徹な声を響かせると、重々しい機械音が数度鳴り、やがてシューという排気音と共に、巨大な鋼鉄の扉がゆっくりとスライドした。


中には、壁一面を埋め尽くす分厚い帳簿と、真新しい計算用の魔導具に囲まれた小柄なハーフ・ノームの女性――ミッカが、ホッと息をついて立っていた。手には相変わらず胃薬の瓶が握られている。


「お待ちしておりました、コンサルタント……いえ、カガリさん。どうぞ中へ」


ミッカが促すと同時に、カガリは隙のない足取りで「絶対に破られない経理室」へと足を踏み入れた。


「素晴らしい防壁だ。デダロスとバルカスに作らせた甲斐があった。……で、住み心地はどうかな、我がファミリーの金庫番?」


カガリの問いに、ミッカは胃薬をデスクに置き、満面の笑みを浮かべた。


「最高です! デダロスさんやブロックさんが『新しい大理石を買いたい』とか『最新の重機を試したい』と騒ぎながら扉を叩きにきても、この魔導ロックと鋼鉄の扉の前では赤子同然です!

私はもう、身内の無計画な浪費にも怯えることなく、心穏やかに数字と向き合うことができるんです!」


ミッカは誇らしげに胸を張り、それから机の上に広げられた一冊の分厚い帳簿

――【第一四半期決算報告書】をカガリの前に差し出した。


「カガリさん、これが新本部落成までの三ヶ月間、そしてあなたが来てからの四ヶ月間の総決算です。……控えめに言って、信じられない数字になっています」


カガリは優雅にソファに腰を下ろし、パラパラと帳簿のページをめくった。

彼の網膜に展開されるスキル【ファミリー・レジャー】が、帳簿の数字と連動し、莫大な黒字を青色の光として視界に投影する。


『真紅の天秤』ルシウス頭取から引き出した金貨百万枚の借り換えは、高利貸しの負債を一掃し、さらに追加融資の五十万枚は新本部の建設と物流網の整備に惜しみなく投下された。


黒鉄連峰から産出される高純度の魔石は、九条の里の警備網によって安全かつ迅速に運ばれ、アイアン・メイソンの技術で高付加価値の商品へと加工されて市場を席巻している。


「……なるほど。初期投資イニシャルコストの減価償却を前倒しで計上しても、利益剰余金は想定を15%以上上回っているな。

九条の里の農業部門も、魔物被害ゼロによる完全な黒字化を達成している」


カガリの口角が、微かに上がった。


「ええ! 本当に夢みたいです。かつて銅貨数枚でやり繰りしていた日々が嘘のようです。これで、私たちのギルド……『アルカディア・ファミリー』の基盤は盤石です。

当分は、この安定した利益を守っていくだけで……」


ミッカが安堵の息を吐きながら言った、その時だった。


「――守る、だと?」


カガリの冷たい一言が、経理室の空気を一瞬で凍らせた。


ミッカはビクッと肩を揺らし、恐る恐るカガリの顔を見上げた。


彼のブラウンの瞳には、満足感など微塵もなく、ただ底知れない飢餓感と、冷徹な計算の光だけが宿っていた。


「ミッカ。君は優秀な経理だが、まだ『マフィアの帳簿』を理解していないようだな。……市場における現状維持は、緩やかなデフォルトと同義だ」


カガリは帳簿をパタンと閉じ、立ち上がった。


「この四ヶ月で完成したのは、あくまで第一フェーズ……世界を呑み込むための『胃袋』が出来上がったに過ぎない。

我々には、あの日ルシウスと交わした『王国の腐った経済の血を一滴残らず啜り尽くす』という約束もある。……休んでいる暇など、一秒たりともないぞ」


「ひっ……! つ、つまり、まだまだこの莫大な資金を動かすと……?」


「当然だ。次は、他の皇帝ギルドが牛耳る既存のルールそのものを買収テイクオーバーする」


カガリはスーツの埃を優雅に払い、鋼鉄の扉へと向かった。


「……とはいえ、数字ばかり見ていても組織は動かない。

まずは、莫大な投資によって完成したこの新しい『ハコ』で、幹部ボードメンバーたちが適正に機能しているか、視察としよう」


カガリが魔導ロックを解除すると、重い扉が再び開き、活気に満ちた新本部の喧騒が微かに流れ込んできた。


「ミッカ。次の投資計画の立案に入る。……胃薬の在庫は、常に切らさないようにしておくことだ」


「そ、そんなぁ……!」


絶望的な悲鳴を上げる金庫番を背に、カガリは冷徹な微笑を浮かべながら、暴走する芸術と狂気の結晶――アルカディア新本部の視察へと、歩みを進めた。

ここまでお読みいただき本当にありがとうございます!


いよいよ第2章、「皇帝蹂躙編」スタートです!


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