表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/78

暴走する設計図(マスターピース)と、一ヶ月目の『決算』

シチリアの冷徹なコンシリエーレが、異世界の掃き溜めのようなギルドで目を覚ましてから、ちょうど一ヶ月が経過していた。


その日、ギルド『アルカディア』のひび割れた長机の上には、一枚の巨大な羊皮紙が広げられていた。


「……これが、俺の全てを注ぎ込んだ、アルカディア新本部の設計図マスターピースだ」


徹夜明けで目の下に濃い隈を作ったデダロスが、狂気すら孕んだ芸術家の笑みを浮かべて図面を叩いた。


「おおおお……!」


「す、すごい……お城みたいです……!」


周囲を取り囲む幹部たち――マサムネ、レオンハルト、バルカス、そしてアリサから、感嘆のどよめきが漏れる。


図面に描かれていたのは、ただのギルドハウスではなかった。

黒鉄連峰から切り出した堅牢な黒曜石をベースに、白亜の大理石で彩られた壮麗な城砦。防衛機能と美観が完璧な比率で融合しており、内部には巨大な居住区、広大な訓練施設、さらには物流を管理する地下の巨大倉庫群までが緻密に設計されていた。


「素晴らしい。外壁の曲面装飾による物理攻撃の分散……。これなら、岩竜の突進すら傷一つなく受け流せるだろう」


レオンハルトが、かつての騎士団長の目つきで感心したように唸る。


「……だが、デダロス。これほどの規模と最高級の資材を使うとなれば、費用は莫大なものになるはずだ。資金は足りるのか?」


「心配は無用だ、レオンハルト」


カガリは優雅にコーヒー(のような茶色の液体)をカップを置き、懐から一枚の証書を取り出した。


「先日、王都の国営金融機関『真紅の天秤』と提携し、既存の負債の借り換えに加え、今後の設備投資枠として金貨五十万枚の即日決済枠クレジットをもぎ取ってきた。

それにアルカディア・トライアングル内であれば、あらゆるコストは通常の半分以下で収まるはずだ。

……予算コストの心配はいらない。デダロス、君の芸術をそのまま現実に建てたまえ」


「ご、五十万枚……!? それだけでも大貴族の大きな屋敷が丸ごと買えちゃうような金額じゃないですか……!」


アリサが白目を剥いて卒倒しかけるが、カガリは意に介さず手帳を開いた。


「この一ヶ月。我々は九条の里という『労働力と食糧』、黒鉄連峰という『資源』、アイアン・メイソンという『技術』、そして国営銀行という『資本』を手に入れた。

……我々はもはや、掃き溜めの弱小ギルドではない。世界に牙を剥く『アルカディア・ファミリー』だ。この新本部は、我々の力を示す最初の象徴シンボルとなる」


カガリの静かな、だが圧倒的な覇気を孕んだ言葉に、幹部たちの背筋が伸びる。


「さて。基本設計はこれで良いとして……デダロス。個別の設備について、幹部ボードメンバーたちの要望をヒアリングしてやってくれ。

彼らが最高のパフォーマンスを発揮するための『適正配置』が必要だ」


「おう、任せな! あんだけの予算タマを積まれたんだ、どんな無茶振りでも図面に引いてやるぜ!」


デダロスが丸眼鏡を光らせ、羽ペンを構える。


「……では、まずは拙者からよろしいか」


マサムネが、静かに挙手をした。


「拙者は多くは望まん。ただ、朝の鍛錬のために、静かな竹林と、刀を振り抜いても壁が斬れない程度の『広い道場』があれば十分でござる。……今のギルドは、少し狭すぎてな」


「なるほど、空間の広さと静謐さだな! 任せろ、中庭に東方の建築様式を取り入れた特注の精神修養室を作ってやる!」


デダロスが猛烈な勢いで図面に竹林を書き込む。


「では、私の工房もお願いします」


バルカスが進み出た。


「カガリ様の求める『魔導濾過器』をはじめ、精密かつ危険な魔導具を扱いますゆえ……

万が一の暴発に備えて、工房の壁には耐爆用のミスリル鉱を練り込んでいただきたい。……あと、徹夜用の簡易ベッドもあれば有難い」


「よっしゃ! 地下の最深部に、要塞並みの防爆区画を設計してやる!」


「俺は、美味い酒が飲める広い酒場ラウンジが欲しいな。……カウンターに美女もいれば最高なんだが……

あとは団の戦闘訓練にも使える広い闘技場のような場所があれば、言うことはない」


レオンハルトが豪快に笑いながら肩をすくめる。


「……私の部屋は、静かで日当たりの良い最上階にお願いします」


いつの間にかロールケーキを完食していたエルセが、美しい微笑みを浮かべて口を開いた。


「それから、精霊さんたちの声がよく響くように、音響効果アコースティックを完璧にした図書室も。……ああ、忘れないでくださいね。

そこには、二十四時間体制で湿度と温度が管理される『お菓子専用の魔導保管庫』を併設することを」


「お、お菓子専用の金庫……? ま、まぁいい、予算は有り余ってるからな!」


デダロスが額の汗を拭いながら、次々と飛び出す規格外の要望を図面に落とし込んでいく。


「あ、あの……私も、一つだけよろしいでしょうか……」


おずおずと控えめに手を挙げたのは、アイアン・メイソンから出向してきているハーフ・ノームの経理担当、ミッカだった。

彼女は相変わらず、分厚い帳簿と胃薬の瓶を抱きしめている。


「ミッカ、君もファミリーの重要な金庫番だ。遠慮はいらない、言いたまえ」


カガリが促すと、ミッカはデダロスをジロリと睨みつけ、切実な声で訴えた。


「私専用の『経理室』をお願いします。……それも、デダロスさんやブロックさんが『追加の資材を買いたい!』と勝手に押し入ってこられないように、分厚い鋼鉄の扉と、暗証番号式の魔導ロックがついた、絶対に破られない防衛空間を……!

もう、勝手に金庫の現金を持ち出されるのは真っ平ごめんです!」


「おいおいミッカ、俺を信用してないのか?」


「全っっっく信用してません!!」


デダロスがたじろぐ中、カガリはフッと鼻で笑った。


「……採用だ。ミッカの経理室は、ギルドの最奥に最高レベルの防壁を敷いて構築しろ。

金庫番がトップの暴走を物理的に遮断できる構造は、組織のガバナンスとして極めて健全だ」


「あの、デダロスさん……!」


アリサが、ミッカに続いて手を挙げた。


「受付は、できるだけ明るくて、みんなが帰ってきた時に『ほっ』とできるような温かい雰囲気がいいです……!

それと、みんなの寝室は、ふかふかのベッドを入れてあげてください。……これだけは、ギルドマスターとしての絶対の命令です!」


「……へっ。了解だ、マスター。入り口には最高の木材を使って、太陽の光が一番綺麗に入る角度で設計してやるよ」


デダロスの職人としての顔が、少しだけ優しく綻んだ。


「――最後は私だな!」


バンッ!と、一際大きな音を立てて机を叩いたのは、カトレイアであった。


「私は我がファミリーの盾として、部下たちの健康管理を第一に考える! ゆえに、週に一度の『毒物耐性獲得プログラム(※劇物散布)』を行うための、広くて清潔な医療室……いや、専用の『調理室』を要求する!」


カトレイアが誇らしげに胸を張る。

その瞬間、広間の空気が完全に凍りついた。


「「「デダロスッ!! そこは扉を五重の魔導封印にして、排気口は絶対に居住区と分ける(でござる)(んだ)!!」」」


マサムネ、レオンハルト、そしてバルカスが、血相を変えてデダロスに詰め寄った。


「ヒッ!? な、なんだ!? お前ら、いきなり殺気立って……!」


「……デダロス。追加予算を回す。彼女の部屋と医療室の周辺には、バルカスの防爆材以上の『対化学兵器用』の隔離壁を設けろ。

……これは、ファミリーの存続に関わる最重要事項だ」


カガリでさえも、シチリアのマフィア抗争を生き抜いた時以上に深刻な表情で、静かにデダロスへ念を押した。


「わ、わかった! わかったからハンマーを下ろしてくれドワーフ!!」


喧騒と悲鳴、そして笑い声が交錯するギルドの広間。


カガリは、優雅にコーヒー(のような茶色の液体)のカップを傾けながら、その騒がしい『ファミリー』の姿を静かに眺めていた。


(……一ヶ月、か。……悪くない投資ポートフォリオだ)


視界の端に浮かぶ【ファミリー・レジャー】の数値は、かつての絶望的な赤字から完全に脱却し、底知れない黒字のポテンシャルを放って輝いている。





強欲で冷徹なコンシリエーレの指揮の下、大陸の経済を根本から覆す巨大な三角形「アルカディア・トライアングル」その中心となる「本部」の建設が、今、高らかに幕を開けた。


挿絵(By みてみん)

ここまでお読みいただき本当にありがとうございました!

第一章、完結となります!

ここまでがカガリが異世界に来てからちょうど一か月なので、タイトルの一つ目の伏線回収…ということになりますでしょうか。

第二章も引き続き投稿頻度を変えずにどんどん進めますので、引き続きお楽しみください!


少しでも「面白い」「続きが読みたい」と思っていただけましたら、画面下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にし、リアクションや感想を書いて応援していただけると、毎日の執筆の最大の励みになります!

合わせて【ブックマークに追加】もぜひよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ