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不落の盾は、死のスープで煮えている

「……最強の『盾』、ですか」


「……ああ、マサムネとレオンハルトの戦力は非常に頼もしいが、戦争ではファミリーを守る優秀な『盾』も必要不可欠になる」


エルセは、今週の定期便である最高級の蜂蜜菓子を頬張りながら、どこか遠くを見るような瞳で言った。


「それなら、適任が一人います……。聖騎士カトレイア。かつて王国で『不落の聖域』と呼ばれたハーフエルフの女性です。

……でも、彼女に会いに行くなら、胃薬を多めに持っていくことを勧めます」


「胃薬? 防衛能力と消化器官に何の関係があるんだ」


カガリの問いに、レオンハルトが苦い顔で肩を竦めた。


「カガリ、彼女の盾は本物だ。だが……彼女が率いていた兵団がなぜ『解体』されたか、王国では有名な笑い話でな。

彼女の料理を食べた部下たちが、戦闘ではなく食中毒で全滅しかけたのだ」


「なるほど、致命的な『管理コスト』の欠陥か」


カガリは手帳のペンを回し、不敵に微笑んだ。


「面白い。その欠陥を利益ベネフィットに転換できるか、鑑定の価値はある。目的地は?」


エルセが小悪く微笑む。


「王都北方の僻地、通称『亡霊の砦』。

……幽霊よりも恐ろしいスープが煮えている場所です」






「……『不落の聖域』カトレイア、か」


アルカディア・トライアングルの北端、黒鉄連峰のさらに先にそびえる「断罪山脈」を見上げ、カガリは懐中時計の蓋を閉じた。

遂に繊維の扱いにまで精通し始めたバルカスが仕立てた、最高級のコートを身に纏っている。


「エルセの情報によれば、この険路の先に彼女の『亡霊の砦』がある。地理的には、我々の経済圏を北からの脅威から守るための『先行投資』として、これ以上ない拠点だ。

……ただし、維持管理には相当な工夫が必要そうだがな」


「カガリ、あそこへ行くにはこの『霜狼の牙』と呼ばれる難所を抜けるしかない。かつて俺も偵察で一度通ったが、まともな軍隊なら行軍を拒否する場所だ」


レオンハルトが巨大なランスを肩に担ぎ、白い息を吐きながら言った。


「案ずるな、レオンハルト。拙者の刀に、斬れぬ道はござらんよ」


マサムネは静かに、だが鋭い視線を山道の奥へと向けた。





一行が山の中腹、巨大な天然の回廊のようになっている岩場に差し掛かった時だった。

突如、頭上の岩壁が爆発したかのような轟音と共に、巨大な影が降り注いだ。




「――出たな。この山脈の主、『鋼殻の岩竜アイアン・クロウ』だ!」




体長十メートルを超える、全身を鋼鉄のごとき岩石の鱗で覆った竜。その硬度は黒鉄連峰の最硬度鉱石に匹敵する。


それが一頭ではない。三頭。


退路を断つように、完璧な包囲陣を敷いていた。


「カガリ、下がっていろ。ここは俺たちが片付ける」


レオンハルトがカラドボルグを水平に構える。


「ああ。良い機会だ。君たちが二人揃った時の『機能性』、じっくりと鑑定させてもらうよ」


カガリは岩陰に身を寄せ、優雅に葉巻(のような何か)を取り出した。


戦闘の火蓋は、レオンハルトの突進によって切って落とされた。


「おおおおおッ!」


魔力を込めて加速したランスが、重戦車のごとき質量を持って先頭の竜へ突き刺さる。本来、岩竜の鱗は打撃を弾くが、レオンハルトの一撃は「点の破壊」に特化していた。


ガリリッ、と火花が散り、竜の胸部が爆砕する。だが、残りの二頭が左右からレオンハルトの死角を突こうと、巨大な爪を振り上げた。


「――そこ、隙ありでござる」


銀光が走った。


マサムネが地を蹴り、空中で独楽こまのように回転する。


「九条流抜刀術――『螺旋・一文字いちもんじ』」


目にも留まらぬ速さで放たれた三連斬。岩竜の爪が、まるで行儀よく切り分けられた果実のように、空中で切断面を見せて滑り落ちた。


「助かるぜ、マサムネ!」


「礼には及ばんよ。

……レオンハルト、あ奴の喉元を!」


二人の連携は、言葉を介さずとも完成していた。

レオンハルトがランスを地面に突き立て、自らを軸に竜の回し蹴りを受け流す。衝撃で大地が裂けるが、レオンハルトは一歩も引かない。

その「剛」の盾となった背後から、マサムネが「柔」の風となって飛び出す。


「最短の曲線……見えた」


マサムネの刀が、竜の鱗の僅かな継ぎ目に吸い込まれた。

同時、レオンハルトがランスを反転させ、その石突きで竜の腹部を強打。


浮き上がった竜の巨体を、マサムネの刃が深々と、そして一息に両断した。


轟音と共に、二頭目の竜が物言わぬ岩塊へと戻る。


残る一頭が恐怖に震え、咆哮を上げようとしたが、レオンハルトの魔法により重力に反して跳ね上がったランスが、その喉を正確に貫いていた。


「……ふぅ。カガリ、怪我はないか?」


レオンハルトがランスに付いた土を払い、カガリに笑いかける。


「拙者の着物にも、返り血一滴付いてござらん。お待たせした、カガリ殿」


マサムネは静かに納刀し、一礼した。


カガリは葉巻(のような何か)の煙をゆっくりと吐き出し、満足そうに頷いた。


「見事だ。破壊と切断、剛と柔。これほど噛み合ったコンビネーションは、シチリアの最高級の歯車でも再現できない。

二人の時給を上方修正する必要がありそうだ」


カガリは手帳にペンを走らせる。その視線の先には、戦闘の喧騒すら届かない静寂の頂――「亡霊の砦」が、霧の中からその不気味な輪郭を現し始めていた。





「さて、次は『盾』の鑑定だ。レオンハルト、君の言っていた『死のスープ』の毒耐性も、私のポートフォリオに加えておくべきかな?」


「よしてくれ。あれだけは、いかなる名将でも防ぎきれん『不意打ち』なんだ……」


レオンハルトの苦笑いと共に、一行は最強の盾、カトレイアが待つ最後の領域へと足を踏み入れた。

色んな魔物が出てきますが、見た目は自由に想像してくれたら嬉しいです。

マサムネとレオンハルトの連携の相性はグッドですね。マサムネはスピードと殺傷能力に優れた攻撃性能、レオンハルトは突破力と破壊力に優れた攻撃性能を持っているので、抜け目がありません。

ちなみにレオンハルトは重力魔法が使えますが、あまり魔力が強くはないので自身の槍を少し遠隔で動かしたりブーストしたりするくらいのモノです。



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