強欲な相談役と、精霊の盗聴者
エストの宿場町。
深夜、レオンハルトが満足げに眠りについた後、カガリは一人、卓上のランプの下で手帳を広げていた。
「……レオンハルトという『一級品』が、この程度の宿場町で埃を被っていた。
……これは、間違いなく市場の歪みだ。それも、おそらく氷山の一角に過ぎない」
カガリの瞳には、かつて数々の企業を飲み込んできた冷徹な投資家の光が宿っている。
「マサムネ。この世界には、彼のように組織から溢れ、価値を死なせている『埋蔵資産』が他にも数多く眠っているはずだ。
彼らを一人ずつ掘り起こし、私の『ファミリー』に加えることができれば……」
「……左様でござるな。拙者も、レオン殿のような御仁が他にもいるのであれば、是非とも手合わせ願いたいものでござる」
マサムネが静かに、だが確かな期待を込めて頷く。
翌朝。
「しかし、私のこの世界への知識と君の噂話だけでは、その情報を網羅するには効率が悪すぎる。
……レオンハルト。君の知る中で、有能な情報屋のような存在はいないか?」
二日酔いの頭を振るレオンハルトが、しばらく頭を悩ますような仕草をした後、カガリの問いに苦い顔で答えた。
「……正直全く気乗りしないが、一人心当たりがある。銀髪の吟遊詩人、エルセだ。
あいつは精霊の声を聴く。……王都の騎士団長だった頃、あいつの歌には何度も肝を冷やした。
誰にも見られていないはずの密談も、精霊の耳を通せばあいつの『持ち歌』に変わっちまうのさ」
「精霊の声……?全くピンと来ないが、つまり、彼女は世界規模の監視ネットワークを持っているということか」
「ああ。だがあまりに真実を喋りすぎるせいで、王宮の連中に疎まれてな。
処刑しようにもその美しさから王都での人気が凄まじすぎて、暴動を恐れた王国は手が下せず、結局、東の果ての教会に『幽閉』という名で隔離された。
……あいつなら、あんたが欲しがっている『埋もれた怪物ども』の居場所も、今のあんたの状況だって、すべて把握しているだろうぜ」
一行は馬車を走らせ、遂に古びた教会へと到着した。
静寂の中、ハープの美しい音色と共に、透き通るような歌声が聞こえてくる。
教会の庭、大樹の下に彼女はいた。
月光を束ねたような銀髪。
伏せられた長い睫毛と、磁器のように白い肌。その姿は、確かに誰もが救いを求めて跪きたくなるような「天使」そのものだった。
だが、近づくにつれ、その美しい鼻歌の合間に、異質な「ツッコミ」が混じっているのが聞こえてくる。
「……(ハープを奏でながら)……えっ? 隣町の司祭様、また寄付金を着服して高級な毛皮を買ったんですか? ……あらあら、精霊さん、それは内緒ですよ。
……え? その毛皮の内側に、愛人の名前を刺繍した? ……バカなんですね、その人。救いようがないです……ふふっ」
マサムネが、思わず自分の耳を疑ったように足を止めた。
「……レオン殿。あれは、その……独り言でござるか?」
「言っただろう。あれが、王都を一世風靡した吟遊詩人『銀髪の聖女』の正体だ」
カガリは、エルセに向かって真っ直ぐに歩み出した。
「……素晴らしい。情報の客観性と網羅性が極めて高い。
……エルセ、君のその『耳』、私の組織で独占契約させてもらいたい」
エルセはゆっくりと顔を上げ、澄んだ瞳でカガリを見つめた。
その瞳には、聖女のような慈愛と、すべてを冷ややかな客観性で切り捨てる知性が同居している。
「あら……。精霊さんたちが朝から騒いでいたんです。『心臓の代わりに算盤を飲み込んだ、真っ黒な男が来る』って。
……初めまして、強欲な相談役さん」
天使のような微笑みを浮かべながら、エルセは平然とカガリの「本質」を抉ってみせた。
「……おまけに、隣にいるのは『正義に絶望して酒に逃げた元王国騎士団長さん』と、『世俗のルールを一つも知らない、歩く時代錯誤の侍さん』ですね。
……ふふっ、なんて面白い、救いようのないパーティなんでしょ」
エルセ・リュミエール、ファンタジー界に一人は出てくる、お手本のような銀髪美少女ですね。ハーフスピリット(半精霊)なので実際の年齢は不祥です。この世界では数少ない精霊の声を「言語」に変換できる人物です
銀髪美少女好きの同志と、この世界の精霊は思ったよりもくだらない話しかしないのか……?と思った方は是非高評価お願いします。
彼女はいかにも難しそうな性格の彼女を、ファミリーの耳(情報屋)として新たなメンバーに加えることができるのか……?
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