伝説の騎士、胃袋から買収完了。
宿場町エストの郊外、冷たい月光が降り注ぐ荒野。
マサムネが静かに刀を抜き、正眼に構える。
対するレオンハルトは、巨大な魔導ランス『カラドボルグ』を水平に保ち、その身体を微動だにさせない。
「……九条マサムネ、と言ったな。
その構え、一筋縄ではいかぬようだ」
「レオン殿。貴殿の槍からも、かつて守り抜いた数多の命の重みを感じる。……いざ」
開戦は、一瞬だった。
レオンハルトのランスが、重力制御による加速を伴い、目にも留まらぬ速さで突き出される。
マサムネはその一撃を、文字通り「紙一重」で躱しながら、ランスの側面を滑らせるように刀を振る。
火花が闇を散らす。
力でねじ伏せんとする槍と、神速の踏み込みで死角を突く刀。
十数合の打ち合いの後、二人は互いの喉元に刃を突きつけた状態で、ピタリと動きを止めた。
「……引き分け、でござるな。これ以上は、どちらかが命を捨てることになる」
マサムネが静かに、だが満足げに告げる。
レオンハルトは槍を引き、深い溜息をついて鼻で笑った。
「……正義を捨てた俺の槍を、正面から受け止める馬鹿がまだいたとはな。
……認めよう、侍。貴様の腕は、王都の腐った騎士どもより余程マシだ」
カガリは、その壮絶な「対談」を特等席で眺めていた。
「素晴らしいものを見せてもらったよ。……さて、レオンハルト。
交渉の続きをしたいところだが、君のような強情な男に、今すぐ『首輪』をつけろと言っても無駄だろう」
カガリは歩み寄り、マサムネの肩を軽く叩いた。
「今日はここまでだ。私の準備に不備があった。……マサムネ、素晴らしい戦いだった。
君への労いも兼ねて、今夜は私が腕を振るおう」
レオンハルトが怪訝そうな顔をする。
「……帰るのか。拍子抜けな男だな」
「無理な取引は損失を生むだけだ。
……ではな、レオンハルト。もし気が向いたら、明日またこの町で会おう」
カガリは、先ほどの酒場の店主に金貨を一枚握らせ、深夜の厨房を借り受けた。
マサムネを労うため、そして自身の思考を整理するため。
カガリにとって「料理」は、最も合理的に結果が出る計算の一つだった。
厚切りのベーコンをじっくりと炙り、特製の発酵調味料を絡めた野菜を添える。
シンプルだが、異世界の貧相な食文化では決して到達できない、香りと旨味の「暴力」が厨房を満たす。
「カガリ殿、やはり貴殿の作る飯は、心の奥底まで沁みまするな……」
マサムネが、静かに、だが心底幸せそうに箸を進める。
その時。
厨房の入り口に、背の高い影が立った。
レオンハルトが、吸い寄せられるように立ち尽くしていた。
「……何の、臭いだ、これは。……俺の知っている『食事』とは、根本的に何かが違う」
「……立ち話もなんだ。一口どうだ? 決闘の後だ、君も腹が減っているだろう」
カガリは無表情に、予備の皿を差し出した。
レオンハルトは躊躇したが、やがて無造作に肉を口に運んだ。
その瞬間、彼の端正な顔が劇的に歪んだ。
「……ッ!? なんだ……この重層的な旨味は。……塩気と甘みのバランス、そしてこの後を引く微かな熱量……。
……おい、黒い男。貴様、これを自分で作ったのか?」
「計算通りに素材を並べれば、誰でもこうなる。……口に合ったか?」
レオンハルトは、最後の一片を惜しむように飲み込み、天を仰いだ。
そして、彼はランスを壁に立てかけ、諦めたように椅子に座った。
「……おい、侍。あんたの隣にいるこの男は、毒蛇の皮を被った最高の料理人か何かか?
……決めた。
一人で泥水を啜るのはもう飽きた。……あんたらに、俺もついていく。
……ただし、俺が『飽きる』か、飯が不味くなるまでだ。いいな?」
マサムネが驚き、それから嬉しそうに笑った。
「ははは、それは頼もしい。レオン殿、道中は退屈させぬと約束いたそう!」
カガリはワインを一口飲み、内心の驚きを微塵も見せずに頷いた。
「……。予定より随分と早い契約成立だが。……いいだろう。
レオンハルト、君の『胃袋』の管理、ギルドアルカディアが正式に請け負おう」
カガリの帳簿に、新たな、そして最も制御不能で強力な「資産」が書き込まれた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます!
槍は武器の中でも結構好きで、モンハンでもランスとかガンランスをよく使ってます。
同志は是非高評価お願いします。
カガリの「料理」という新たなスキルが出てきましたが、とりあえず何でも器用にこなすヤツ、って感じですね。この世界の時代感は中世なので、シンプルに「進んでいる」というのも大きいです。
レオンハルトもどんどん活躍させますので、続きをお楽しみに!
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