第13話
兄は、
前よりもよく家にいた。
母がいない時間が増えたからかもしれなかった。
理由はわからなかった。
でも、
前よりも長くいるようになった。
兄は、
前よりも怒るようになった。
きっかけは、
よくわからなかった。
前は、
少し考えれば避けられることもあった。
目を合わせないようにするとか、
音を立てないようにするとか、
近くに行かないようにするとか。
そうすれば、
何も起きないこともあった。
でも、
それが通じなくなった。
何もしていなくても、
呼ばれることがあった。
「おい」と言われて、
振り向くと、
もう遅かった。
理由は、
なかった。
あっても、
わからなかった。
僕は、
できるだけ早く動くようにした。
言われる前に動くようにした。
それでも、
間に合わないことがあった。
そういうときは、
何も考えないようにした。
終わるのを待った。
時間は、
長いときもあったし、
短いときもあった。
どれくらいかは、
よくわからなかった。
ただ、
終わったあとは、
少しだけ静かになった。
前と同じだった。
でも、
少しだけ違っていた。
理由がなかった。
だから、
避け方もなかった。
どうすればいいのか、
わからなかった。
ある日、
何も言われていないのに、
近くに呼ばれた。
動かなかった。
呼ばれていない気がした。
でも、
もう一度呼ばれた。
仕方なく近づいた。
そのあと、
いつもと同じことが起きた。
終わったあと、
兄は何も言わなかった。
僕も何も言わなかった。
でも、
前みたいに考えなかった。
どうしてこうなるのか、
考えなかった。
考えても、
意味がない気がした。
ただ、
一つだけ思った。
――どこにいても、同じなんだ。
家の中でも、
外でも、
夜でも。
何も変わらなかった。
だから、
できるだけ、
何も起きないようにした。
でも、
それでも起きることはあった。
それでいいと思った。
そういうものなんだと思った。




