第14話
家に入れない日があった。
鍵は閉まっていた。
母はいなかった。
兄もいなかった。
どうすればいいのか、
よくわからなかった。
とりあえず、
少しだけ歩いた。
家の周りを回って、
また戻って、
それを何回か繰り返した。
ランドセルはそのままだった。
重かった。
でも、
下ろす場所がなかった。
お腹が空いていた。
朝から、
あまり食べていなかった。
でも、
どうすればいいのかは、
わからなかった。
そのとき、
声をかけられた。
「どうしたの」
知らない人だった。
近くの家の人だった。
見たことはあった。
話したことはなかった。
僕は、
少しだけ迷ってから、
何も言わなかった。
言っていいのか、
わからなかった。
その人は、
少しだけ待ってから言った。
「お腹、空いてる?」
僕は、
少しだけ頷いた。
その人は、
「おいで」と言った。
少しだけ迷った。
でも、
ついていった。
家の中に入ると、
少しだけ暖かかった。
食べるものを出してくれた。
久しぶりに、
ちゃんとしたものだった。
僕は、
何も言わずに食べた。
その人は、
少しだけ笑っていた。
優しい顔だった。
そのとき、
少しだけ思った。
――ここは、大丈夫かもしれない。
食べ終わると、
その人は近くに来た。
何かを言われた。
よく覚えていない。
そのあと、
よくわからないことが起きた。
体が動かなかった。
声も出なかった。
何も考えないようにした。
終わるのを待った。
終わったあと、
その人は何も言わなかった。
僕も何も言わなかった。
少しだけ、
胸の奥が静かになっていた。
前と同じだった。
家の中と、
同じだった。
違う場所なのに、
やることは変わらなかった。
外でも、
同じなんだと思った。
それだけだった。
僕は、
そのまま家を出た。
何も言わなかった。
言うことがなかった。
外は少し暗くなっていた。
家に戻ると、
まだ鍵は閉まっていた。
僕は、
そのまま座った。
ランドセルを背負ったまま、
壁にもたれた。
少しだけ、
お腹は満たされていた。
それでいいと思った。




