第12話
夜になると、
母に呼ばれることがあった。
「行くよ」とだけ言われた。
どこに行くのかは、
聞かなかった。
聞いても、
同じ答えしか返ってこない気がした。
外は暗かった。
手を引かれて歩いた。
道は知っているはずなのに、
夜になると少し違って見えた。
着いた場所には、
人が集まっていた。
知らない人たちだった。
でも、
みんな同じ顔をしていた。
静かで、
少しだけ真面目な顔だった。
中に入ると、
同じような言葉が聞こえてきた。
何度も繰り返されていた。
意味はわからなかった。
でも、
間違っていない感じがした。
母も、
その中にいた。
口を動かして、
同じ言葉を言っていた。
家にいるときより、
少しだけはっきりして見えた。
迷っていない顔だった。
僕は、
端の方に座っていた。
何も言わずに、
そのまま時間が過ぎるのを待った。
ときどき、
誰かがこっちを見た。
でも、
何も言わなかった。
僕も、
何も言わなかった。
長い時間だった。
どれくらいかは、
よくわからなかった。
終わると、
みんな静かに立ち上がった。
母も立ち上がって、
そのまま外に出た。
帰り道で、
母は少しだけ話した。
「これは正しいことだから」
「ちゃんとしていれば、大丈夫だから」
前にも聞いたことのある言葉だった。
僕は、
頷いた。
意味はよくわからなかった。
でも、
間違っていない気がした。
家に帰ると、
また静かだった。
兄がいる日もあったし、
いない日もあった。
どちらでも、
あまり変わらなかった。
僕は、
そのまま寝た。
何も考えないようにして、
目を閉じた。
少しだけ、
昼よりも静かだった。




