第11話
小学生になってから、
家にいる時間が少し変わった。
母は、家にいない時間が増えた。
最初は、
少し遅く帰ってくるだけだった。
そのうち、
夜にいない日が増えた。
理由は、
よくわからなかった。
仕事だと言っていた。
でも、
それだけじゃない気がした。
夜になると、
どこかに出かけていた。
ときどき、
僕も連れていかれた。
知らない場所だった。
知らない人たちがいて、
同じような言葉を繰り返していた。
意味はわからなかった。
でも、
間違っていない感じがした。
母は、
その中にいた。
家にいるときより、
少しだけしっかりして見えた。
僕は、
その場に座っていた。
何もせずに、
時間が過ぎるのを待っていた。
家に帰ると、
兄がいた。
前よりも、
よく家にいるようになっていた。
母がいない時間が増えたからかもしれなかった。
兄は、
前よりも怒るようになった。
理由は、
あまりなかった。
目が合っただけで、
声を出しただけで、
何かが気に入らないと、
すぐに手が出た。
僕は、
できるだけ音を立てないようにした。
できるだけ動かないようにした。
でも、
それでもだめなときがあった。
そういうときは、
何も考えないようにした。
終わるのを待った。
ある日、
家に帰ると、
鍵がかかっていた。
母はいなかった。
兄もいなかった。
最初は、
待てばいいと思った。
玄関の前で、
ランドセルを背負ったまま立っていた。
少しだけ時間が過ぎた。
誰も帰ってこなかった。
座る場所もなかった。
だから、
少しだけ歩いた。
家の周りを、
ぐるぐる回った。
ランドセルは、
そのままだった。
重かった。
でも、
下ろす場所がなかった。
どこに置けばいいのか、
わからなかった。
そのうち、
お腹が空いてきた。
朝から、
あまり食べていなかった。
でも、
どうすればいいのか、
わからなかった。
誰かに言うことも、
考えなかった。
言っていいのか、
わからなかった。
日が少しずつ落ちてきた。
空の色が変わっていった。
それを見ていた。
しばらくして、
また家の前に戻った。
鍵は、
まだ閉まっていた。
僕は、
そのまま座った。
ランドセルを背負ったまま、
壁にもたれた。
少しだけ、
眠くなった。
でも、
寝てはいけない気がした。
何かあったら、
起きていないといけない気がした。
だから、
目を閉じて、
開けてを繰り返した。
そのうち、
足音が聞こえた。
顔を上げると、
母が立っていた。
何も言わなかった。
鍵を開けて、
そのまま中に入った。
僕も、
そのあとについて入った。
何も言われなかった。
僕も、
何も言わなかった。
それで、
終わった。




