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竜皇と魔王と獣王の話  作者: YY
獣人と戦争と友達の章
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第六十三話

あけましておめでとうございます、今年初投稿です。

 



 この世界の文明レベルを鑑みれば、かなり上位に入る鉄製の壁。研究所を囲っていた守りの要には、獣の爪痕が深く刻まれていた。


「これは……!?紗雪!どこですか紗雪!?」


 白麟から降り研究所へ駆け出す碧。研究所そのものに異常は少ないが、何かの襲撃を受けたのは一目瞭然だろう。門番らしい男達が巨体の白麟を見付け、涙目で駆け寄ってくる。大の男の涙目だ、ダスィラノに背負われてなかったら逃げていた。


「我らの女神が帰還したぞおおお!!」

「所長に、皆に伝令を出せ!!」

「馬鹿お前が行け!お待ちしてました女神様!!」


 由来の理解出来ない呼び名に体が自然と反り返る。少しでも離れたいと願ったが、腹部に走った痛みで早々に諦めた。名を知れば震えあがるような男が目の前に居て、女神と呼ぶ女を背負っている事に気付かない警備達。物凄く不愉快な呼び名の訳を問い質すより先に、解決すべき問題がある。


「何があった?」

「獣人の襲撃です!」


 現在進行形の情報をリアルタイムで傍受し放題だった自覚系完全犯罪者アキにとっては、久し振りの全く知らない情報だった。驚きが過ぎると人はあらゆる痛みを忘れるらしい、一瞬だけ。

 腹を抑えながらやけくそで指示を投げる。


「白麟の背中で伸びてる奴とこの男は客だ、手出しするな。所長に応接室で報告する内容揃えるように伝令。その内容確認後追加で指示を出す、それまで現状の厳戒態勢を保て、以上!」

「「「女神様の御心のままに!!」」」


 過程不明の忠誠心が彼らの行動を迅速にした。謎の求心力で統率していた豪狼の名残か、一個の軍隊に近い一体感を持っている。その創始者は、やはり研究所の何処にもいなかった。


 見回りのつもりなのか、壁の外へ食べ物を探しに出た白麟。背中から落とされた騎士は、鳩尾を抉った角のダメージが消えず意識が回復しない。ダスィラノはアキを片手で支え、空いた手が重量の鎧騎士を引きずる。それでも傷の心配が無ければ、歩く速度に変化は無かっただろう。

 振動で痛覚が煽られない様に紳士的な速度を保ち、アキの指す方角へ歩いてくれる。


「本当にダスィラノさんは大丈夫?」

「何のこれしき。〝山興し〟討伐任務で二度目の退却を期した時、負傷兵十五人を荷車で引いた労に比べれば!しかも左の腕の肉は殆ど食われていたので、死を覚悟させる敗走であった!」

「山、確かとても巨大な魔物で、いびきが村を吹き飛ばすとか?」

「うむ、しかも魔法薬を乗せた馬車が戦いの余波で大破、この腹のように処置を施せる手段が皆無だったのでな……。現状など訓練にすら準せぬ、安心して体を休めてくれ」

「実に頼もしい、居なくなった仲間と並べたら泣きたくなる。けどあんなんでも仲間。休む暇は無い」


 応接室の扉を開けると、精霊から見聞きした姿そのままで元所長が跪いていた。頬の筋が引きつるのを抑えられず、感涙にむせぶ男を見下ろす。元所長にとってアキは、女神と同等の存在に神格化されていた。優先順位が逆転しそうだが、理性で混乱を押し鎮める。


「おお、おおおおおお!我らが女神よ!御身の御光臨にあやかる名誉を賜り、身の内が歓喜で溢れてしまいましょう。眷属たる白麟様の代行にしては粗暴な野良馬ですが、そんな輩でもお客人と仰せならこのムストラン!粗野な騎士とて万全の出迎えをご用意します!」


 この国で最高戦力の騎士相手に、馬とか粗野とか分かっていて言ってそうだから怖い。丁寧にソファーへアキを下ろし、暴言を綺麗に流す総統様を見習ってほしいものだ。所長の名前ムストランというのか。

 相変わらず床に膝を着いているが、何があったのか早く聞かなければならない。


「何があった」

「女神様が研究所を離れた夜、その明け方に我々は襲撃を受けました」

「獣人」

「はい。奴らは所内に後一歩で侵入するまで近付き、風獣の子息を渡せ、と要求してきたのです!」

「風獣?」

「あの犬女がその言葉に跳び出し、子息の不在を訴えました。暫くは渡せ居ないの言い合いが続きました。その話し合いに女神様のお連れが乱入したのです」

「ああ……豪狼か……」

「お察しの通りです。多少何人か昏倒させていましたが、取り押さえられました。そのまま手足を縛り、子息を崖の街まで連れて来なければ命は保証しない、と……」


 考え無しに突っ込んだか、我慢できずに突っ込んだか。どちらにせよまた捕まったらしい。

 腹とは違う種類の痛みで、頭を抱えるアキ。折角戻った記憶の欠片を懐かしむ余裕も無く、脳内で端に積まれていた。時間が出来てから改めて並べ直そう。


「えーと紗雪、女の獣人はどうした?」

「去った獣人の集団を追いました。拠点が判明次第、戻るそうです」


 所長室の入り口で立っていた警備員に頼んで、研究所内に居るだろう碧に伝言を任せた。三人用ソファーに眠り騎士を寝かせ、ダスィラノは難しい顔をする。


「まさか、獣人がここまで進行しているとは……」


 国の守護騎士として思う所は有るだろう、心中は穏やかではない筈だ。世界地図を広げ、獣人の予想進行状況を意見し合う。一度共闘しただけでは説明できない信頼を受け、アキはトゥラークの最新防衛情報を入手した。何故これ程協力的なのだろうか。

 適当な物で兵の配置や規模を地図に広げ終わった所で、獣人国の部族長息子が部屋に入ってきた。大事な部下の危機に逸らず、動揺を顔色に留める精神は流石である。


 奇しくもこの場に両国の重鎮が揃った。

 偶然だが、アキは『勇者』代表みたいな立ち位置に居る。


 情報が出揃えば、このメンバーが考える事は一つ。全戦力による衝突の回避と、戦争の長期化を防ぐ手段だ。戦争をけしかけた犯罪者組織の官職が、助手のように会議を支えた。


「海を染める量の血と、空を闇に覆う憎悪を持ってして!真の神はこうびぃ!?」

「煩い黙れお前の意見は聞いてない、黙って床に座ってろクソ」

「……少し、女性としての感性を持つべきではないかな?」

「騎士の女性像を押し付けないで下さい。コレは人も魔物も食い物にしてきた、最悪のクソ野郎ですよ。そちらさんだって王族を殺そうとした奴は痛めつけられて当然、って思ったんでしょ?」

「ぐ……、まあ、そうなんだが……。反省している。二度とこの目を曇らせないと誓う、だから相手が犯罪者といえど無意味な折檻は―――」

「くひいいいひひひぃ!次は反対の頬を蹴って下さいいい!!」

「……」

「ま、まあまあ。皆さん気を静めませんか?建設的な意見を交換してこそ、我々が集った現状に意味がもたらされる。希望とは動かない者に降っては来ないものです」


 現状優勢で国を攻めている獣人が最も冷静なのは、当然かもしれないが複雑である。気を取り直して戦争に意識を向けた。


「率直な意見を聞きたい。まずトゥラーク、国王は戦争に否定的だと考えていますか?」

「無論だ。国王陛下は真に民を愛し、我ら盾にも慈悲を持って接して下さるお方。戦争を良しとは決してお考えにならないだろう!しかし仕掛けられた諍いに武器を取られないような、臆病者でない事も確かだ。間違いなく、全戦力を以って鎮圧に尽力されるだろう」

「あの、その話し方止めてもらえません?国王様を尊敬してて獣人を前に騎士を主張したいのは分からなくもないですが……、遠回りな話し方で言葉が多いと会議が長引く。この場に騎士然を気にする細かい人は居ません」

「僕も構いません、気を楽になさって下さい」

「いや碧君、君も大分難しいから。いちいち大袈裟だから」

「う、すみません……。しかし長年の積み重ねもご理解下さい」

「……分かった。トゥラークは地図の通り、現在〝チェラ〟を最終防衛線とした布陣を敷いている。俺はその指揮官として、首都から向かっていた」

「その道中で村を襲う獣人の報告を聞いて、戦っている兵士の加勢に行ったと」


 地図上ではチェラを守るように兵士が立ちはだかり、獣人が占拠した〝崖の街(テッラ・ヒッラ)〟と相対している。元々街に兵が居たのだろう。何と言っても、王子が統治しているのだ。

 研究所の大体の位置を丸している場所は、そんな街の後方。首都に大分近い、ダスィラノの懸念は当然だ。獣人の戦闘力はその身で味わって間もなく、自らの国防衛力も熟知している。


「……此処で僕は殺される筈でした」

「死体でも見せられれば、獣人が止まる理由は無くなるね。更に勢いは増す」

「しかし獣人が此処に来たという事は、組織の情報が流れたのではないか?組織内に戦争を許さない者が居るのやもしれん」

「……推測だけど。この研究所の研究は区切りがついていて、獣人に情報を流す事で手を汚さず関係者を始末してもらうつもりだった、とか?」

「そうか!もし死体になった僕を見付けていれば、この国が獣人に反友好的だと判断され、戦争は絶対に止められなくなる!組織の後始末に闘争意欲を煽る策、一爪二獣の手です!」

「獣人が暴れる程、国王は和平交渉より武力制圧を選ぶだろう……。感情ではなく、国の代表として正しい選択をする。ただやられる訳にはいかない……!」


 一爪二獣とは一石二鳥と同じ意味だろうか。一爪二獣の策を知らない内に阻止していたアキは、過去の自分を褒めた。研究所占拠はアキ一人の戦果では―――



「そういえば矢背は?」



「うぅ……」

「ユーストス!大丈夫か!?俺が分かるか!?」


 最悪の状況までには落ちていないと分かった所で、話し合いが中断。アキはもう一人のツレも研究所に居ないと気付き、ダスィラノは部下が目を覚ましたと喜んだ。


「……うっぐ…………総、統……」

「やっと目を覚ましたな、ユーストス。俺の顔を憶えているとは、頭は大丈夫そうだな」

「おれ……自分は、一体……?」

「そのままで話そう、此処に至るまでの経緯とこれからの行動。そして我々の拭いきれない罪も―――」


 研究所の外の精霊と話す。範囲は徐々に広がり、『風』は今アキが伸ばせる限界まで達した。特徴の有る魔力だ、感知条件を削ってもかなりの広範囲まで『風』は届く。精霊の助けを借りた最大範囲、それこそ崖の街一歩手前まで見渡しても、矢背は見付からなかった。

 白麟はアキと一緒だった、在り得ない喪失だ。数日目を離したとはいえ、たったそれだけの時間で『風』精霊の感知範囲から脱出できる訳がない。

 特殊な魔法でも開発していたのだろうか、それでも無断で消える理由が思い当たらなかった。


「世界から……消えた……?」


 片や獣人に喧嘩売って返り討ちにされ捕虜、片や理由も原因も分からない行方不明。

 本当に、腹の傷より頭が痛くなった。


「女神よ、実は一つお連れ様の事でご報告が」

「どっち?何を?」

「魔法士の方です。あの方は妙な魔力を感じると告げられ、私にその場所の鍵を要求されました」

「……まさか、地下?例の元が分からない魔物の素材が保管されているっていう?」

「はい、あそこの鍵は所長の私が厳重に管理し、研究者と言えど使わせはしませんでしたから。しかしその後魔法士の姿を見た者はぎびぃ!?」

「何で監視の一人も付けない馬鹿!お前が付いてけよそこは!」

「あああ!女神様の踵で踏み躙られる肩甲骨ぅ……ぃぃ」


 ユーストスと話すダスィラノと、戦争の行末に思考を巡らせる碧。時間は有りそうなので、アキは一旦私情を優先した。


「ちょっと出てくる。直ぐ戻るけど、何かあったら放送機使って。おい、お前は付いて来い」

「喜んでえええ!!」

「えっと……分かりました、そちらもお気をつけて」


 碧の含み有る気遣いに目で応えながら、変態をお供にアキは手掛かりを探しに行った。

 それが千里の道とも知らず。




閲覧有難う御座いました。

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