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竜皇と魔王と獣王の話  作者: YY
獣人と戦争と友達の章
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第六十話

更新空けてすみません。

 



 人間は絶望を前にすると、状況を安易に地獄と称する。

 否定はしない。それは平和が常識と重なる度起こる、歓迎すべき異常思考なのだ。


 村が焼けている、火は夜を照らし家屋に飛んで行く。倒れて踏み台にされる者が自分の仲間だと分かり、怒りと安堵が衝突した。未来ある同士が踏み躙られる憤怒、職務を全うし村人が犠牲にならずに済んだ安心。

 現状どちらも場違いだが、感情を殺しても好機は流れてこない。ならば人らしく在りたい、こいつらと同じにはならない。絶対に。


「家屋と畑は入念に潰せ!!村人は見つけ次第連れてこい!!」

「弱ええ弱えええ!!!こんなもんか自称最上種様よおおお!!?」

「おい!あっちの雑魚の塊嬲り殺すぞ!手え貸せ!!」


 連携も何も無い、問題ないのだ。純粋な力は時に、知能を上回る。

 凡そ人らしい知性の無い無秩序な攻勢、その勢いは圧倒的だった。外壁の無い守りにくい陣地とはいえ、可能な限りの防御陣形を取っていた軍隊を、真正面から引き裂いたのだ。

 その力の差は諦めるより先に、呆れて腑抜けてしまった。臨時で防衛戦に加わった己の力の無さに、鍛錬に費やした時間の無意味さに。

 それでも立ち上がり抗おうと決めた理由は、身に着ける鎧の重みが過去の叱咤を再生させたからだ。

 軍学校で唯一の友となった男の言葉、騎士の兜に手を添えた姫の笑顔。


 そして話しを聞けと地面に振るわれた、少女の恐ろしい拳の一撃。


 身震いした騎士をもう終わりだと勘違いした敵に、剣を叩き込む。一部の肉体がこちらと異なるだけで、驚くべき耐久力だ。多少の出血ではやる気を削ぐことも叶わない、他の敵に引きずられて下げられたが。

 下げられた男の穴を埋める敵は、最初の包囲を愛しく思う数に膨れ上がっている。絶望的な状況に、数分前とは打って変わり笑ってしまった。

 あの少女の一撃に匹敵する衝撃が襲ってこないなら、まだやれる。

 狂った理論だが立つ力は確かに、あの失敗談から湧いてきた。本能か野生の残る形相ゆえか、姿勢を低く保ち油断を消した敵は、包囲網を慎重に狭めていく。


「ぎゃああああああ!!!」


 緊張の糸を裂く悲鳴が、頭上で放物線を描く。落としそうになった剣を慌てて握り直し、背後に顔を向けた。煙が彼の道を作り、その姿を披露する。荘厳な記章の馬具を纏った巨躯の馬が、乗り手の意志に従って止まった。



「我が王の地を無断で荒らす下郎が―――!」



 背後からの襲撃を大剣の一振りで凌ぎ、英雄の如き名乗りを上げた。


「我こそは!王より一軍を預かる栄誉を賜った戦士!!貴様らを真の奈落に叩く者、ダスィラノ・ダスカンである!!!王からの信頼が形どった、この墜山剣を恐れる者はとく失せよ!!国の赤化が目に映らぬ狂人は、この場を黄泉と心得るがいい!!!」


 寝台で横になったまま語った人の言葉を思い出す。国を背負い兵を背負い、正しく騎士足ろうとする生き様に見入った。不甲斐無さに嘆き、一度は膝を屈した自身を恥じる。

 迫力に気圧された敵は腰を後ろに引かれ、騎士の一挙一動に対応策を巡らせた。一目散に背を向けない気概は、敵ながら見事。

 ダスィラノ・ダスカン軍総統は一人だけ残る味方の負傷を冷静に見極め、馬上から降り立った。


「我が愛馬に乗るが良い、戦友よ。この場の其方から我は名誉を奪い、凱旋の報を届けよう。悔しがる其方の横顔を、現世で眺望する機会を待つとしよう」


 お前が退いて傷を癒している間に、無事戻る。心強い宣言は、そのまま戦力外通告となって身に刺さった。

 当然の分析結果だ、そして恥ずべき現実だ。

 国に必要な人材と人々の生活を守る力が無い自分に、戦場で存在する価値は無い。ここで忠言を無視する愚行を起こさない事だけが、自分に出来る最大の奉公なのだ。


 軋む奥歯に走る痛みは、後悔と溶けてユーストスの体を重くした。







「さて……!」


 剣を構えない瞬間を狙っての同時攻撃。目を合わせた様子も無い、本当に見目通りの本能で最大と感じる機会が重なったのだ。感心は危険に負け、現実は危機に勝った。一人斬り飛ばした時に、敵の耐久力の高さは分かったのだ。どれだけ力を込めて切れば倒せるか、ダスィラノは全てを打ち払った。

 格の違う剣士を前に、敵である獣人の目の色が変わる。平静を保った者は撤退を視野に入れ、血が上った頭で自殺行為を選択肢に加える者もいた。


「……悠我(ゆうが)を呼べ」

「ふざけんな!?俺達だけでやれる!!」

「まだ目標にまで達していない現段階で、勝敗の分からない賭けに無駄な負傷者を出すのか!?特攻を必要とする場面は此処じゃない!」


 揉めて話しが長引くのは、こちらの望むところ。単体で無謀な時間稼ぎ要員だと思われれば、目立つ登場で名乗った甲斐もある。姫の命令で首都を出ていた部下を助けられた事は、本当に運が良かった。


 その男を捉えた瞬間、ダスィラノはこの村に来た理由を懐に仕舞う。最強の象徴が甲高く鳴き叫び、戦友との全力の語らいでも抜かれなかった二本目が、殺気の満潮に呼応して放たれた。

 闇夜すら首を垂れる存在が、ダスィラノの狂気をどうしようもなく駆り立てたのだ。




「―――やあっと、俺様の出番だなあ。おうおう!相棒が啼き喚いて仕方ねえ!」




 鍛えられた敵はダスィラノと比較しても、巨体と称せる体格の持ち主達。そいつは存在の力も、視覚的迫力もこちらを失笑する格の違いだった。

 おおよそ簡素な防具の意味が無い、隆々とした厚い肉。鉄鋼すらその筋の弾力を前にしては、木の枝と変わらないだろう。人間の肉体限界を超えた年月を酷使し続ける地獄を歩き、辿り着ける可能性があるかもしれない極地の具現。目前の肉体は、戦士の到達点の一柱。

 短く刈った黒に混じる白髪が、ただ一つ深い年数を思わせる。削られたような皮膚の硬さは、皺を押し上げる天然の鎧だった。

 拳を覆う籠手は細かい傷こそ無数に在るが、致命傷を寄せ付けない主の技に見合った頑固さを持ち合わせている。この手を守り支え矛と成る事こそ存在理由だと、鈍い光沢が叫んでいた。

 仰ぎ見いっそ尊敬の眼差しすら浮かぶダスィラノを、手中の物言わぬ相棒達が吠えて引き戻す。

 あれは敵だと、己の頬を張りたい主を戦場に急かした。

 力の抜け掛けた膝を持ち上げ、地面を揺らす程踏むしめた。


「…………いざ、尋常に……!」


 我が家に帰った表情を崩さない敵は、落ち着かない拳を開き閉ざして笑った。ダスィラノを見ながら、敵意をそよ風に乗せる侮り。余裕を持って、ダスィラノの必死を見下ろした。


「勝負!!」


 大剣二振りによる強撃。二つ名が着いた後も長い時を生きた魔物が、遥か上空まで打ち上げられる威力だ。ヤンキーベア強命種の討伐、久し振りの書類以外の仕事に舞い上がった結果だった。己の最強を裏付ける記憶を懐かしみ、振るったダスィラノの渾身が甲高い音を立てて止まる。


 ガキイイイイイイィィィ――――――!!!


 仮にも己の今出せる全力が受け止められ、拮抗と硬直が同時にダスィラノの次を奪う。

 刀身の根元に籠手を当て勢いを殺し、剣風が眼球を舐めて終わる。見極めの技量と、実践しようとする胆の据わり具合は脱帽。


「がぁはははああああああ!!!」


 大剣を弾き盾としての役目がなされ、矛として迫る敵の凶器がダスィラノの自信に穴を穿つ。無手として息着く暇も与えない、壁となり襲う拳の連撃。砲弾と見紛う一撃が無拍子に繰り出される現状に、大剣が並走出来る訳もない。案山子でも殴ってる気分なのか、軽い殺意は全力と言うには程遠く、遊びと呼ぶには重く響いた。

 それでも生き残っている要因は二振りの相棒、墜山剣と降天剣(こうてんけん)。その性能を熟知したダスィラノとの、言葉無用の思い出の濃さに帰結する。鍛えられてダスィラノに渡った瞬間から、二振りは最高の結果を作り出していた。


 相棒達(ぶき)に不満は無く失態も無い。状況の不利はまごう事無き、主であるダスィラノ・ダスカンの未熟に他ならないのだ。


 肩の鎧が剥がされ軽くなっていき、敗北の音色が忍び寄る。


「惜しい、惜しいなあ……。もう一歩こちらに近ければ、良き語らいとなっただろうに」

「はあ、はあ、がっ!……はああ、ぁああああああ!!!」


 剣を握ってこのかた力負けの経験が薄いダスィラノは、振り被った大剣が手を離れたと気付かない。まるで腕が斬り飛ばされた重みの消失、鳩尾を抉る攻撃にもう片方は意地でも手放さなかった。

 罪悪感を感じながらも、片手に収まってくれている相棒の相方は行方不明。探す余裕は無く、気力も下がっている。

 世界は広い。どこか他人事の想いで、ダスィラノの顔は緩む。

 最強ともてはやされ調子に乗った報い、自制したつもりで重ねていた地力は幻だった。まだ上が在る証明を突き出され、戦士としての喜びと後悔が身を食む。


 国の盾としての責務を果たせないダスィラノのに、容赦なく死の影が空を隠した。家屋を焼き灰にする炎が、数秒後己の行くであろう先を表している。


「……さらば……!」




「にはまだ早いだろうがああああああ!!!」

 ヒヒイイイイイイィィィン―――――――――!!!




 鬱蒼(うっそう)と昇る煙と火の壁を切り裂いて、純白の馬が跳び出した。

 手綱を握るどころか装着していない、信じられない騎乗方法で乗り込んだ叫び声。馬に存在しない長身の角を上回る大剣が、馬上を超えて円を描く。膝を着いたダスィラノの頭上で発生したぶつかり合いは、とても一個人の膂力で生まれたとは考えられなかった。


「ぶっっっとべえええええええええ!!!」

「――――――ぉ!!?」


 飛ばされた衝撃と飛ばした犯人の圧で、燃えていた家屋が二・三軒消火される。敵の巨体は崩壊した建物に潰され、安否を確認できない。

 死んでいない事は、馬から降りた犯人も分かっているらしい。


「急いでくれて有難う、少し離れてて」


 目深に被ったフードが正体を隠しているが、声は女。しかも見える範囲はどう控え目に言っても小柄で、あの巨体を飛ばした犯人には見えなかった。目の前で一部始終を目撃していて例えその技が才能(スキル)によるものでも、その程度でどうにかなる相手ではない。

 軍の関係者とも考えにくい女の恩人を死なせまいと声を張る、つもりが引っ込んでしまう。女が手の中で遊ぶように回す大剣が、ダスィラノの脳裏を刺激したからだ。

 既に治り切っている古傷が、首都で味わった恥に疼く。不甲斐無く相棒に活を入れられたあの時、目が覚めるような浮遊感を貰った。

 そう、丁度今女が敵に与えたような。


「お前……まさか、ゴウロウ・ジゼンを救出した……?」

「私の正体が重要か?立ちなよ、それとも手が要るか?」


 丸まった背を叩く上からの挑発は、ダスィラノの屈辱を程よく蹴った。

 去る馬の上にもう一人フードを深く被った誰かが居た事は、轟音と共に脳内から弾ける。攻撃した側の女の手が痺れる一撃を喰らっても、そいつは笑って元建物を払い飛ばした。



「がっはははあああ!!援軍増援大いに結構!!!この渇きは百年を経ても求め止まない!貴様ら幾千の屍を嚥下し落命の時まで叫ぼう!!我が宿敵よ、俺様は此処だ!!!」



 状況が好転したとは言えないが、渡された相方を含め三振りの大剣が熱風を斬る。


「後四十分で日が昇る、それまでコイツを行かせない!」

「了解した!!深くは問うまい、この戦場で貴殿と修交を誓おう!!」

「来い小童共!!!やっと前菜にありつける!!」


 命同士が当たる振動は、山を越え騎士の鼓膜を揺すった。




閲覧有難う御座いました。

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