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竜皇と魔王と獣王の話  作者: YY
獣人と戦争と友達の章
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第五十七話

 



 僅かな抵抗を示す研究員達は、実験体を押さえつける用の鎖を引きちぎる空紀に、完全屈服した。

 無事被害者と加害者の住み分けを済ませ、被害者達の治療を執り行う。これにはどうしても研究員の協力は必要で、念の為鉄製の手術台を折り畳んで見せれば、反抗心の問題は解決した。

 順調に行われる治療に脅し、追い込みを掛けて空紀は会議室に向かう。そこに事態の収拾人員や、問題の主役を呼んでいる。警戒が必要な連中は厳重に縛って牢屋に入れたので、暫くは時間が取れるだろう。


 会議室の扉を開ければ、空紀以外の全員が揃っている。今研究所内で空紀より忙しい人間はいないので、当然ではあった。

 全員がゆったりとスペース確保出来る机を四方から囲み、こちらに気付く。


「お疲れ様です……、お昼、持ってきてあるよ」

「ありがと、矢背」


 研究所の外壁を半分以上焦がした矢背、現在は白麟の世話係である。建物周りの地面は九割が焼けていて、良い畑の土になるかもしれない。白麟は門番として、今も角で焼けた土を掘り返しているだろう。

 爆風重視の〝爆炎魔法〟で火を吹っ飛ばした矢背は、立派に研究員達の恐怖対象の一人だった。


「しょうがねえなあ、オレの肉ちょっと分けてやろう!」

「豪狼の料理の腕は信用してるけど、手掴みで渡された物はいらない」


 主に戦闘員だった奴らの監視・見回りをしている豪狼、メンチの切り方が堂に入っているが背の低さで迫力がいまいち足りていない。研究所内の食事の中核を担っていた。

 しかし急襲時の暴れっぷりを知る者からは、すれ違うだけで敬礼されている。監視員として元警備員掌握を、問題無くクリアしていた。


「アキ様!負傷者の今後の状態と、後遺症が心配される者の詳細を纏めました!」

「……どうも」


 特に何も言ってないのに床に正座待機している元所長、仕事が出来るしこいつしか分からない情報があるので牢屋に入れられないでいる。

 頼んだ事は当然、頼んでない事までこなす社畜と化した。奴隷ではない断じて、雇ってもいない。


 資料を机に置き、昼食に手を伸ばす。贅沢に使われた食材と現代の味付けに、舌が満足だと唸った。

 同じようにスープを啜る者達を、一人用ソファーから伺う。空紀から右斜め前には、ピクピクと動く獣耳が二組。



「本当に美味しい……。こちらの方々のスープは繊細な味付けで、とても美味です。体の弱い僕でも、これならお替りしてしまいたいです」

「直ぐお持ちします!おいそこの大喰らい、主様の為にお替りをお持ちしろ!大至急だ!」

「こちとら飯時だ!給仕ならテメエでやれ犬女!」

「また!誰が犬だ!?狼だと何度言えば分かる!無礼者!」

「ふふっ、このお肉も柔らかくて美味しい。上に掛かっているものは何でしょう?」



 茶色い毛並みの狼族と言った少女は、豪狼の扉正拳破りでちびっていた獣人だ。二日で慣れたのか、豪狼に臆さなくなり元気に喧嘩している。豪狼も流石に少女相手に暴力は振るわないし、互いの相手を任せていた。

 もう一人の獣人、実は例の廃棄処分とか言われていた元実験体の少年だ。

 茶色掛かった金髪は絹のように美しく、整った顔立ちが中性の印象を受けさせる。真っ暗の鉄格子の向こう側に居たので、あの時は全く気付かなかった。耳は少女のそれより輪郭が丸く、猫科の獣を思わせる。

 儚い印象に物腰柔らかい性格だが、衰弱していた体調は獣人の特性か、食べて寝たら元気になった。他の被害者達に比べれば捕まったのは最近だと、悲しそうに語っている。急ぎの事案が多く大まかな事情しか聴いていなかったので、今日まで事態の把握を後回しにされていたのだ。


 口論が子供染みてきた豪狼と獣人少女、慌てふためくだけで仲裁には役立たずな矢背、ニコニコと食事をする元実験体の獣人少年、どこか期待を込めた眼差しで床正座を続ける元所長。

 スープを飲み切り、柏手を打つ。獣人少女が一番驚いていた。鎖を引きちぎってから、空紀に最も恐怖しているのはこの子である。


「会議を始めよう」


 顔を見合わせたり背けたりしながらも、全員が席に着いた。元所長の席は床らしい。


「ここはある組織の魔物・人体研究所。何か凄い魔物を作って使役する為に作られた、法律も人権も無い犯罪現場。私達は謎の魔法陣から伸びた魔力の流れを追って、この研究所に辿り着きました。そんで乗っ取りました、ここまでで質問は?」

「凄い魔物って何だよ?」

「ここの奴らもそいつの部品しか見た事ないって、適当だよな犯罪組織なんて」


 部品の場所は分かっているが、まだ見に行っていない。動かない素材の見物より、生存者の確認と治療が最優先だった。かなり固い鍵があるので、盗難の恐れも無い。


「こ!これからどうしよう!?」

「それは本題、まだ待って。〈牢屋警備!奥から右四つ手前の奴、穴掘ろうとしてる!食器の回収は徹底させろ!〉失礼。ここで行われる研究に、魔物だけでなく人間が使われていた。人間の調達手段は二つ。一、適当に冒険者や村を襲う、足が付くから慎重に。二、召喚される『勇者』を拉致。正しく余所者だから誰も心配しないし探さない、ほとんどがこっち」

「ふざけやがって!!あれ?でもオレらは無事だぞ?」

「毎回じゃないよ、『勇者』が全く出てこなくなると国が不審がる。監視は付いてたけど。〈負傷者部屋二十番の患者が一人急変!即待機研究員が対処しろ!〉」

「素晴らしい精度の監視です、どのような絡繰りなのでしょう?」

「こちらの事を話す前に、そちらの事情を聞きたい」

「お前!主様に無礼な―――」

「雪、落ち着いて。名乗っていない此方こそ失礼でしょう」

「う、はい……」


 会話の途中で『風』が囁くそれを、放送機前に置いた魔信球と繋がった魔信球に喋る。警戒態勢を緩めない為にも、放送機は常に点けておき魔信球を持ち歩いて使用した。矢背の魔力で稼働する放送機の前に魔信球をセットし、研究所全体を見れる空紀が魔信球を使えば犯人は即お縄、異常も決して見逃さない。傍からは確かに厳重で不思議な様子だろう。

 飲み干せないスープの椀を机に戻し、獣人少年は背筋を整える。一応言い返そうとしたが空紀への恐怖が残っているのだろう、獣人少女は直ぐに引き下がり主の真似をした。


「この度は我が身をお救い下さり、誠に感謝いたします。我ら牙も爪も、〝顕花(けんか)狂桜陣(きょうおうじん)〟より賜った神の臣。刻みし名を(みどり)、父母に風」

「同じく神の臣、刻まれた名を紗雪(さゆき)

「皆様に救われた神涙に誓い、偽りなき恩礼で未来を捧げる事、約束いたします」


 指の関節だけを折り、両手のそれと交互に組ませて爪を中に隠す、不思議な手の合わせ方。獣人文化特有の作法だろうが、真摯な思いはよく伝わって来た。正直言っている意味は名前以外分からないが、誠心誠意とか言ってる床の男より億倍信用出来る。


「……門前で暴れている時に声かけられたんだっけ?」

「おう!流石異世界、居るもんだな獣人」


 紗雪いう少女との接し方で察していたが、やはり不良の脳に歴史の授業は素通りされるらしい。矢背と目が合えば、嫌そうな顔で豪狼を見る。大分思いが通じ合うようになり嬉しい限りだ。


「……豪狼さん、獣人って聞いて、何も思い出しません、か?」

「あんだよ突然、気持ちわりいな。別に」

「……『勇者』召喚の切っ掛けになった百年前の戦争、その相手が獣人……、戦争しなくなった、理由は覚えてますか……?」

「その微妙な敬語止めろ!戦争おお!?なんか底無し崖みたいなとこでやったっていうアレか?」

「その底無し崖が戦争で大きくなって、お互いが行き来出来なくなった事、が。停戦の主な理由、です」

「へー良かったじゃねえか。……ん?行き来できなくなった?んじゃこいつらは何だよ、置いてけぼりか?」

「いえ、僕達はその崖を超えて来ました。連れられた、と表現した方が近いと思いますけど」

「でっかい崖超えて来られんのか、すげえじゃん!」


 豪狼の頭の回転速度が羨ましいと感じるのは、後にも先にも今だけだろう。

 三無瀬由華先生の戦争講義はそれほど長くない。由華先生も含め国中の誰もが、停戦を終戦と疑っていなかったからだ。

 もう戦争なんてありえない、獣人なんてこの国に現れない。

 あの全容も掴めない崖が自分達を守ってくれると、()()()()()()()()()()()()()


「つまりこのまま獣人がこの国で見付かれば、また戦争が起きる。かもしれない」

「はあああ!?なんでだよ!?そこまで戦争したいのか!?」



「違います!!」



 加害者代表の元所長を前にしても、紗雪を宥め取り乱さなかった碧が声を荒げた。反応し掛けた床の男を足で後ろに転ばせば、暫くもんどりうってビクンビクンさせて静かになる。

 浮いた腰をソファーに戻し、耳と顔が俯く。


「申し訳ございません……。しかし、どうかご理解いただきたい。再戦の鏑矢を携えて、あの死の裂け目を超えたのではないと。天と地を流血で染める事が、我らの総意ではない事を……」


 同情の余地はある。続きを聞く限り、彼らは自国で怪しい一団に襲われて気付いたらこの国に居た。なんとか脱出した紗雪は碧を救出する為、数日研究所付近を行ったり来たりしていたそうだ。

 研究所に目が釘付けだった空紀は紗雪の存在に気付かず、特別扱いされていた碧は薄れゆく意識の中彼女を心配していたという。特別扱いの理由は、碧の家が獣人国を纏める大きな一派の中心だからだ。種族内で保たれた純粋な血筋は、研究対象として大いに期待されていたそうだ。

 腰を何度も跳ねさせながら床男が話す。全員が下衆を見る目から、汚物を見る目になった。


「この国に来る手段を確立はさせたけど、戦争したくて来たんじゃない。碧にいたっては来たこと自体不本意だ、と」

「はい、僕達は戦争を望んでいません。雪、落ち着きなさい」

「主様を呼び捨てにいいい!」

「戦争じゃねえならよくね?」


 豪狼も戦争が良くないと知っている、経験なんて無くても誰もが()()()()()。それが元の世界の常識だ。戦争続けている国は在ったが、人死に確定の国行事に一般国民はただ悲しむのだろう。

 一部分かっていない人の為に、判り易い問答をしよう。


「戦争しに来た訳じゃない、それは貴方の本心?」

「はい!風の御心に誓って!」

「崖を超える手段は全ての人間が使える?」

「専門職の助けは必要ですが、私のような非力な者でも来られます」

「他の獣人は来てる?」

「……来ています」

「総意ではない、そう言ってたね」

「……はい……」



「貴方の国の何人位が、戦争したがってるの?」

「……おおよそで……、百人。戦争肯定派の主張が神議を通ってしまうと、戦争の参加者は我が国民全体の七割に届くでしょう」



 空気が軋むには、十分過ぎる情報である。




閲覧有難う御座いました。

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