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竜皇と魔王と獣王の話  作者: YY
獣人と戦争と友達の章
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第五十六話

お久しぶりです。

 



 何人目か、何人残っているかなんて、最初から数えていなかった。

 頭を使わなくてもいいこの状況にただ浸っていたいと、豪狼は怯えた表情の敵をまた殴る。汗が前髪を伝い落ちていた。疲労している己の肉体を、激しい息で自覚する。

 汗を焼く熱を見れば、火の手が門近くまで来ていた。熱と煙で、疲労の蓄積を速めている。体力に自信があっても、味方の攻撃まで喰らえばその限りではない。


「くそ、あのビビり考えて火出せよ」


 豪狼は知らないがこの火元、門からしっかり距離があった。しかし豪狼のハイテンション乱闘で、消火員が足りていないのだ。研究所の大きさに比例した人数が居なかった事も含め、双方の不運が続く。


「お前ら火を消してこい」

「ザウコさん!」

「こいつは俺が殺す、所長に誰か報告してこい。侵入者は速やかに排除し、実験台に置いときますってな」


 変な男が出て来た。体中に投げナイフを身に着けていて、攻撃手段が一目で分かる。もしかしたら魔法が得意だったり、暗器を所持していたりするのだろうか。装備で相手を騙そうとしての恰好なら、油断は出来ない。


「テメエ!!ザウコさんが来たからにはもうお終いだぜ!」

「この人の才能(スキル)は〝予知魔法〟!敵対した相手の未来を読む、超凄い魔法なんだぞ!」

「まあ落ち着けお前ら。こいつだっていきなり力の差が分かるなら、こんな馬鹿げた特攻していないだろ」


 味方に魔法をばらされて、咎めるどころかドヤ顔している。

 豪狼はそのやり取りに見覚えがあった。元の世界で喧嘩の日常を送っていると、噂を聞き付けた同年代の奴らがよく喧嘩を売りに来た。中には噂の大半を信じず、己の武力を誇る輩がいる。そいつらの喧嘩の売り方に、今の会話がよく似ていた。


 ほにゃらら君は強いんだぞー、どうのこうのあーだこーだ!

 よせ、ムダに相手をビビらせるな。


 懐かしい、二回目以降は話しが終わる前に殴っていた。改めて聞くと、苛立ちより微笑ましさが勝っている。最後まで聞いてやろうという気になった。


「城一つ単独で落としたんだ、お前に出来るか!?」

「城ではなく金持ちの家だが……まあ同じか」

「組織内の殴り合いでこの人に勝てる人はいないぞ!」

「そんなことも言ったかなあ」


 部下の下っ端精神と、男の満更ではない様子が止まらない。まだ消えない火の熱で豪狼の気が滾る、微笑ましさは長く続かなかった。


「まあまあまあ、そう熱くなることぼっ!!?」

「「「ザウコさんんん!!!?」」」


 不意打ちに〝予知魔法〟は作用しないらしい、なら鉄拳制裁は続行だ。回避・カウンターチートだったら流石に逃げていたが、男の立ち振る舞いに怪しい部分は無い。

 ナイフは気に掛けるが、警戒心を煽る敵ではないと決定した。昔のフルボッコにした不良と似ているが、さっきまでと変わらない。この研究所の関係者は全員制裁を与える。

 外道に開口を許さず、クソ野郎には鉄拳をプレゼント、が豪狼のスタンスだった。

 自称組織内最強は、顔面に良い一発を貰って平衡感覚を手放している。悪党に慈悲を与えない、むしろ持ってない豪狼は喜々として拳を連ねた。


「オラオラオラアアア!!どうした負け無し野郎!?」


 マウント取られ連撃を叩き込まれれば、体力鬼の豪狼を振り解ける猛者はそういない。有利な位置からの一方的展開に、喧嘩好きだった豪狼が悪役面になっていく。

 傍からは完全に、やる側やられる側が逆転していた。

 この場に正義感溢れる異世界の住人が居れば、どちらを救いに来るか一目瞭然である。



「そこまでだ悪党!!」



 急襲時の己も似たセリフを吐いたと、連撃が一時停止する。

 そこには可笑しな奴がいた。異世界人は基本変わり者だが、そいつは今まで見た異世界人とは一味以上違っている。言葉を無くすには十分な、可笑しい点が。


「貴様のような悪を放置しては、主様に言い訳が立たない!主様への誓いに賭けて、貴様を止める!!」


 冬が近い時期に違和感のある薄着、腹出しで防具も必要な分だけだ。腰に巻かれた毛皮が真緑で、森に溶けそうな色である。仁王立ちで太いナイフを構えているが、膝の震えが見えた。出で立ちは戦士のそれで豪狼に怯えながらも目を逸らさない、白髪の少女。

 ここまではいい、細かい所は無視するがいい。

 問題は少女の頭から生えている、()だった。


「……犬の耳生えてね?」

「ぶ、無礼者!!犬ではない!私は立派な狼族の一人だぞ!!」


 どうやら飾りではないらしい。驚いた、この異世界には獣人がいるのか。

 豪狼の心境は悪滅殺から、冒険者らしい自由な好奇心に戻った。少しやり過ぎたと反省する程、平静を取り戻したのだ。

 足の震えが止まらない幼気な少女に涙目で見られれば、豪狼も毒気を保てない。マウントポジションを解除すれば、男がとっくに気を失っていたと気付いた。視界が驚くほど狭まっていたと、十数秒前の豪狼に呆れる。落ち着いて周囲を見渡せば、妙にビクビクする生き残り達。


「おい……獣人が」

「ど、どうすんだよ!?ザウコさん無しで、獣人なんて……捕まえられる訳ないだろ!!」

「報告だ!所長に報告を……!?」


 零れかけた涙を拭く犬耳少女に、周囲の異常な緊張。獣人とはこの世界でそれほど特別なのか。

 戦意を消失させた連中相手に、囮をやる意味は無い。しかし当初の予定では、豪狼は研究所に入らず外で囮に徹するのだ。扉くらいはいいかと、建物で一番大きい扉の前に立つ。


「聞いて、いるのか悪党!」

「うっせ犬女、どっちが悪か正義か分からないなら隅で震えてろ!」

「なんて無礼な!?」


 籠手の着け心地を確認し、腰を落とす。ゲームセンターで飽きる程試した、豪狼なりのパンチングマシーンぶっ壊す拳。構えも何もない、ただの正拳突きだ。


「くたばれえああああああ!!!」


 両開きの扉の片方が凹み、音を立てて倒れた。走り寄ろうとしていた犬女は風圧で尻を着く、明らかにここ数日で筋力が増えている。旅の道中でアキや馬を相手取った経験は無駄じゃなかったのだ。

 目に見える成果に、拳を掲げる。ここ何日で重なった、女にも馬にも勝てないストレスが一気に消えた。


「うっしゃあああああああああ!!!」

「ひいいいっ!!?撤退いいいいいい!!!」

「馬鹿!?任務放棄は首斬りだぞ!?」


 背後で何か盛り上がっているが、全く気にならない爽快感が豪狼の胸を満たしている。

 これからどうするか考えていると不快なハウリングが頭上より響き、逃げようとしていた男達の足を縫い付けた。犬女は腰を抜かしたらしい、半泣きを超えたほぼ泣きである。


 〈……研究所内・外に配備された戦闘員を含めた、全研究員に告ぐ―――〉


「所長だ!所長の声だ!!」

「もしかして本部から応援が!?おい侵入者、お前らの強運もここまでだ!!」

「運良くザウコさんを倒したからって調子に乗るなよ!!本部にはウーヌスさんとかユベオー様とか凄いお人が山ほどいるからな!!」

「泣いて謝るなら今の内だごぼっ!?」

「おっ!?」

「ぶふっ!?」


 放送が聞こえにくいので殴って黙らせる。しかし放送側も取り込み中なのか、ぼそぼそとしていて聞こえにくかった。


 〈―――へー、―――で?〉

 〈ひっ!?―――して―――い!〉


 〈―――あーあーあー、マイクテストマイクテスト〉


 豪狼から戦意を吸う声に、笑って地面に座り込む。いきなり目線に入った豪狼から、犬女は尻を引きずって離れた。茶色いふさふさの尻尾が土で汚れる。あの啖呵は一過性だったのだろう、声の主と比べれば可愛いものである。


 〈研究所は私が乗っ取った、無駄な抵抗は辞めて大人しく投降しろ。豪狼矢背達呼んできて、逃げようとする奴いたら殴って連れてきて。抵抗しなければ三食寝床は保証します、ほら所長さんも一言〉

 〈ぐえ!……みな、皆さん!落ち着いて下さい!落ち着いてこの女のがっ!?……こ、この方の言う通りにして下さい!早くしないと私の腰が手遅れに!!ぎゃあああ!!?止めてえええ腰痛が持病になるううう!?それ以上踏まないで―――ああああああ!!!?〉

 〈裏口から逃げようとしてる二人、見えてるぞ。火炙りか串刺しにされたくなければ戻れ、二度は無い。豪狼早く、矢背が居るとこまで届かないんだよこの放送機〉


 殴った奴らからは、抵抗する気力が消えた。近辺に村や町が無いので、丸腰で逃げても飢えて死ぬ。

 矢背を迎えに立ちながら、大勝利に口元の緩みが抑えられなかった。


「……あなた達は、一体……」


 背を向けて森に向かい、大きな声で返答する。


「決まってんだろ……正義の味方だ!!!」







 所長と呼ばれている悪党を椅子にする空紀は、いかにもラスボスである。偉そうにして顔面が腫れるまで威張っていた男の机を漁り、情報と『風』を整理した。

 所長室へ来るまでに、粗方の研究員と警備員は動けない様にした。他に動ける者で危険な奴はいないようだ。引き出しに仕舞われていた研究所内の働いている人間リストと照らし合わせれば、通常警備員最強は豪狼にマウント取られた男。〝予知魔法〟で未来が分かる男、名はザコ、ではなくザウコ。魔法の詳細を見れば名前程警戒は必要なさそうだ。

 時々逃げようとする者を放送機で口にすれば、こちらの厳重さに抵抗心を殺される。侵入して情報を抜き取るだけのつもりが、占領までしてしまった。相変わらず無計画である、自省。


「自省しろ」

「すみませんすみません痛、すみませんすみませんすみません痛い!」


 口からポロッと落ちた心の声に、椅子が震えて喋り出した。怖いので蹴っておく。

 続々と投降し研究所内に集まる悪党達、本部と言われる()()に期待している者が多い。机を漁ると上の情報が幾つか出て来た。まとめて理解してから、二人に話そう。

 早急に当たるべきは、捕虜の対応や実験体にされていた者達の救助だ。

 牢屋から危険な状態の者を運び、清潔な寝台に寝かせる。()()()()()()()()()()、寝台は足りるだろう。

 戦闘員や研究員にやらせるが見張りが要るし、心がバキバキの抵抗心ゼロの者を使いたい。全員固めた後、選別しよう。使えない奴は牢屋にぶち込む、灯り一つない悪臭の空間で多少なりとも悔い改めさせる。


「悔い改めろ」

「申し訳ございません申し訳いた!申し訳ございません申し訳ございませ痛い!」


 また外に出た心の声に、椅子が頭を下げた。悔い改めている感じでは無いので、蹴っておく。

 豪狼が一人と一匹を連れて門を超えた。取り敢えず合流しようと腰を上げ、椅子に足を降ろす。勢い良く。


「逃げようとしても放送機で変な事喋っても、例え本部とやらが助けに来てもだ。私がお前の首を刎ねる方が断然早い事、忘れるなよ?」

「はいいいい!!勿論で御座います!誠心誠意御命令を遂行させていただきます!」


 とても信用出来ない単語を使われたが、こちらの言葉に嘘は欠片も無いと伝われればいい。

 足を退け、伸びてきた髪を翻した。


「あ……あの……」

「なに」

「もしよろしければ、一つ希望を聞いてもらえないかと……」


 実に図々しいが、椅子代わりにした負い目が無くは無いので聞く姿勢は作る。


「もし、もしよろしければ!」

「……」

「……今踏まれた所、もう一回強く蹴ってもらえないでへえぐっ!!?」


 殴った空紀を悪いと思う者は、きっと研究所内に一人もいないだろう。




近々別作品投稿予定です、どちらも書き切りたいです。

閲覧有難う御座いました。

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