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竜皇と魔王と獣王の話  作者: YY
獣人と戦争と友達の章
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第五十四話

新章です、頑張ります!

 



 森を抜けた先には、巨大建造物が建っていた。魔法陣が在った場所から『風』を広げて、五感の全てが距離に阻まれる程遠い。

 空が赤く色づき始めると、建物の所々で灯りが点る。怪しいを着ている門番が立っていても、この辺りには魔物が足跡さえ作らない。文明レベルは外観だけなら、元の世界の現代に近かった。最新とは言わないが、こんな工場は有りそうだ。見張りが多々見受けられた、とても普通ではない建物である。

 見回りの様子が伺えるギリギリの距離から空紀、豪狼、矢背は謎の建築物を眺めていた。


「……おい、あれ何だよ。オレら何か、魔力の排水口みたいなもん辿ってたんじゃなかったか?」

「微妙以上に違うけど……建物内調べるから待って」

「き!きっと国の裏で、暗躍して世界、世界征服を目論む闇の組織の本拠地!とかだよコレ!?最終ダンジョンか!?」

「矢背壊れたぞ、馬、どついて正常に戻してやれ」

 ブルルルッ!

「ばはっ!?ぐぅ……角が、肩甲骨に直撃した……!」

「ふっ……!」

「え?今笑ったか?笑ったよなああ゛っ!?なんでオレの肩甲骨まで刺すんだ!?ざけんな!」


 笑いが収まらなくなる、深く呼吸を繰り返しなんとか落ち着いた。全体の把握だけならそこまでかからない、何の意図を持って造られた建物かは知れないが、屋内の様子が分かれば多少は知れる。


「これは……!」

「意味有り気な声出して止めんな、あれ何だよ?」


 正直八割も分からないが、()()()()()()()()()()()()


「建物内の構造を確認する限り、あそこは研究所だ。対象は私達がよく知ってるもの」

「たいしょう、何の研究してるか聞けば分かるってか?」


「魔物と『()()』だ」


「魔物、『勇者』……?まさか、人体実験!?」

「マジかよ。ガチで悪の本拠地じゃねえか!?いったあ!?だからもう刺すな馬コラッ!!」


 研究所内の全容を急ぎ把握する簡易感知では、構造と人の有無それに異様な魔力しか読み取れない。『勇者』はその異様な魔力を垂れ流していて、悲惨な状態の者も多かった。地獄で耐性が付いてなかったら、空紀の精神は一発崩壊していただろう惨状である。その詳細を二人に語るつもりは無いが、更なる調査は必要だ。

 独特の『勇者』の魔力を出していない()()もあったが、全てが最早生きている状態ではなかった。無意識にアキの始まりである地獄の記憶が、研究所内の惨劇と揃えられ吐き気を催す。

 唾液を飲み強引にやり過ごした。より深く、意識を『風』に預ける。

 地下に階段が伸びている、嫌な魔力が渦巻いていて相当集中しなければ確認は出来ない。背中を摩り、勝てない白麟(あいて)に挑む二人の腕を引いた。


「多分だけど前に戦った竜擬きと此処、無関係ではないと思う。魔物をぐちゃまぜにしてるし、材料も豊富だ」

「つーことは、あいつらが村とオレらを襲った連中の仲間か。よし!ぶちのめそう」

「短絡!?ちょ、待って!あの時みたいな、強い〝合成獣(キメラ)〟が出たらどうすんの!?今は三、人しかいないんばあ!!?」

「馬がオレを忘れんなってよ。んでそっちの意見は?」


 意見が合わない事が逆に息ぴったりみたいな仲になっている。白麟は面白そうとしか考えていないようで、豪狼寄りだった。元々豪狼に近い思考年齢だったので、驚きはしないが。この二人と一匹を混ぜて割ったら、丁度良い理性と感情と行動力の有る仲間になるのではないだろうか。

 そんな連中だったら、旅に誘ったりはしていなかっただろうけど。


「私が潜入する、豪狼と矢背と白麟で陽動を頼みたい」

「本気!?それよりお、れの〝爆炎魔法〟で外から建物攻撃した方が!」

「中に居る捕まった人達が生き埋めになる。それに上手くやれば、此処以外の研究所の手掛かりも見つかるかも」

「よっしゃ!別にオレがぶっ壊してもいいだろ?」

「どうぞ。〝爆炎魔法〟で生き埋め作戦は最終手段にしたい、出来るだけ魔法は使わないで。危なければ自己判断、完全に夜が更けてからやる」

「んじゃ飯食おうぜ、馬は草でいいだろぼっ!?」

「昼も同じ会話しただろ……、豪狼から好きに取って。どうせ多目に確保するんだし」

「食えるから取ってんだ!余り食っていいみたいに言ってんじゃねえ!残らねえからな!」


 しっかり閉じられていた魔法鞄から、大きい葉に包まれた肉の塊を出す。実は昼食に一度立ち止まった場所から、既に人の気配は『風』が捉えていた。追われている身としては、念を入れても大袈裟ではない。夕食は火を焚かなくてもいいようにと、余分に作っておいたのだ。

 これも魔法鞄内の時間が現実より遅い事で可能となる、痛まない作り置き。現実との接触を断つ事で、魔法で出来た鞄内の空間の時は独自の法則を持つ。蓋を開けば現実の流れに沿うので、開けっ放しは厳禁だ。

 包丁も取り出し、肉を切り分ける用意をする。豪狼が皿を持ち、空紀は肉を下から支えて持った。包丁をユラリと構え、矢背が漂う緊張感に息を呑む。


「いくよ!」

「こい!!」


 豪狼との呼吸が重なった瞬間、空紀は肉を宙に投げた。


「ふっ!」


 肉の端を切った、悪くない厚さだ。切った衝撃で切り落とした箇所と、切られた塊が宙に留まり僅かに回転する。


「はっ!」


 更に塊の切った部分に包丁を振り下ろす。また一枚肉の切り落としが出来ると同時、最初の肉の切り落としが勢いを無くして落下。その流れを見極めた豪狼が、優しく皿で受け止めた。二枚目と塊が切った衝撃で宙を浮かび制止した様子に、矢背は安堵しつつ気を緩めない。

 三枚目・四枚目と続き、安定したテンポで肉の切り落としが量産されていった。


 食べ物で遊ぶなと大人なら起こる光景だが、本人達は至って真剣であり理に適った分け方なのだ。

 初めは空紀が、剣の使い方を模索していた十数日前に遡る。剣の太刀筋は矯正してくれる者が居ないので、強弱の調整と斬撃の慣れを重視した訓練方法を考えていた。

 素振りは切っ先が揺れなくなると最低限の数を毎朝熟し、次に魔物や木々の伐採で感覚を得ようと目論む。しかしどちらにも良い点と悪い点があった。魔物が相手だと緊張感を持てても、調整が出来ているか判別が難しい。木では命の感覚が鈍り、温い鍛錬となってしまう。

 そこで大雑把で切り分ける事をしない、豪狼の肉に目を付けた。空紀達も食べるので失敗は飯抜きか作り直しとなり、豪狼は未だ魔物との戦い方が下手なのか肉を確保出来ない為提案を断れない。脅してないよ。

 いくら豪狼より小食とはいえ、一食抜くのが辛い事に変わりない。歩き続ける旅路に肉が欲しいのは、三人の共通欲求なのだ。握る手に力が籠る。

 切り上げ切り下ろしを交互に繰り返し、肉を食べ易い厚さに切っていく。切る際その衝撃を調整し、肉が宙に留まるよう斬撃に神経を尖らせた。上段から切る時、肉に下方向の力を伝えない様に素早く、美しい直線を描く。下段から切る時、肉が吹っ飛ばない様にする事も重要だが、宙に留まり続ける為僅かに上方への衝撃を伝えなければならない。肉を浮かせながら緩い回転で滞空時間を延ばす、ただ素早く切るだけでは塊がその重さに耐えきれず落下するだろう。

 暫く同じ大きさの木材で練習し、肉で始めた時の緊張感の差は一目瞭然だった。初めて数回は半分で一度止まったが、疲労感が素振りと比べ物にならない。

 豪狼も皿で肉をキャッチする作業を、かなり真剣に行っている。矢背がどんくさくて五枚中三枚落としてから、代わりに皿を持ち反射神経と衝撃の殺し方を学んでいた。ウィンウィンである、行儀は良くないが。


 切口が斜めになった。見守る矢背が気にならない程度だが、残り二割で気が緩んだのかと包丁に力が入る。


「あ!」


 包丁が肉に触れる寸前で分かった、これは駄目だ。

 力んだ衝撃が狙い通りに分散されず、肉は左右に飛ぶ。切り落とした方の肉は日頃の訓練の賜物か、豪狼が見事皿で救った。もう拳大にまで切られた元塊は逆方向に飛び、矢背がカバー出来る訳もない。


 バクッ!


 木に当たる直前、白麟が元塊を口でキャッチした。素晴らしいタイミングで捕まった肉は、拍手物の華麗さで白麟の夕食となったのだ。


「……って、ざけんな!オレの肉返せこらあああ!!」


 突っ込む豪狼から肉の皿を救出し、スープの残りも取り出す。まだ暖かいスープを飲みながら懲りずに転がされる豪狼を、空紀と矢背は笑って見ていた。






 肩に付く位の長さだった髪が肩を超え、仕方なく適当な紐で縛った。体は成長期を謳歌し、若さゆえの無茶振りに寛容だ。時間の流れと世界の秩序を守る自身の体が、正常である安心をくれた。

 星が綺麗だ、灯りらしい灯りが研究所の控え目な光しかないからだろう。隠れているからではなく、この世界の灯りの動力は魔力だ。研究でも使う魔力を、必要な場所以外で無駄に使いたくないからである。プラネタリウム顔負けの夜空はこの世界では珍しくないが、異世界人には飽きない美しさだった。


「そんじゃ、予定通りに」

「テメエこそとちんなよ」

「き、気を付けよう!?」

 ブルルン。


 矢背は自分に言い聞かせているのか。一言号令を告げれば、行動に迷いはなかった。恐怖が歩幅に表れていても、武器を握る力に戸惑いは一筋も無い。


 攻城戦開始だ。







 門番は目端を拭い眠気を誤魔化して、その影を見た。

 この建物の存在を理解している者しか、背後の門には近づかない。魔物すら近寄らない研究所を薄気味悪く思いながら、今日も番の役目を全うしようとする一門番。実態を知らなければ平和で終わった仕事は、頭の可笑しい男に殴られて一転する。

 犯人は金のメッシュが入った黒い短髪、上げていた前髪は長い逃亡生活でとっくに元の方向へ伸びていた。もしくは心境の変化だろうか、消えない首輪の跡も隠そうとしていない。空紀が首都の有名武具店〝ネクサス・ダスカン〟でセット買いした防具を身に着け、拳を保護する籠手が似合う面構えになった。


「ちょっと便所借りるぜええええええ!!!」


 誰であっても無関係者が突然訪問して、便所を要求しながら門番を殴るとは考えなかったろう。二度三度と叩かれる鉄製の門はへこみ、最後の飛び蹴りで留め具は限界を迎える。


 ドガシャアアアアアアーーーーーー!!!


 乱暴なノックの音を拾った者達が、発生源に走った。



 潜入しているはずの空紀から聞いた安全地点で、豪狼の雄叫びを耳に受ける。研究所を覆う壁の向こう目掛け、矢背はそれを投げた。


「〈赤き身が遊び啼く 天地の式に意味は無い その命の輝きごと爆ぜるがいい 燃えろ 〝暴炎花火(ブラスト・ウォークス)〟〉!」


 キャッチボールの球が隣の家に入った程度の軽さで投げられた、炎重視の花火玉。火を広範囲に広げる事が目的で、当たっても軽度の火傷で済むだろう。豪狼(おとり)に目が集中していて、人気が減っている所を狙ったのだ、その心配も不要かもしれない。なにより、人を狙っても当てられるような運動神経は無かった。自慢ではない。

 特別な魔法だとバレない様に、魔法の生成と発火の瞬間は人目を避ける。爆発物か火を投げ入れられたと勘違いさせて、研究所内を混乱させるのが矢背の役目。

 投げ入れる地点は一投毎に移動しろと忠告されている、その足も優秀な新メンバーが居れば容易かった。

 若干の苦しさを我慢しながら、白麟のに移動を任せる。危険度は二人に比べれば格段に劣っている、せめて役割は十全に果たさなければ。


「けっど!何で、ローブを角でえ!引っ掛けっられて、持ち上げられてるう!の!?乗せてえっえ!!」

 ヒヒーン!


 ローブは国運営の首都魔法研究所経費で購入した、耐久度の有る一品。角で男一人引っ掛け垂らしても、余裕で保っている。まだ研究者として本腰を入れるか決め兼ねていた矢背のローブには、国章が刺繍されていない。現状では捨てなくて済んだので、及び腰も悪いばかりではなかったと思う。地獄からずっと連れ添い頼っている杖には、先生の助言で購入した魔法補助道具が巻かれている。


 白麟にとって角は攻撃手段であり相手に触れる手であり、運搬の補助道具なのだ。上下に激しく揺らされ真面に話せない矢背の言葉を、念仏のように流し優雅に走っている。頼りにはなるが、もう少し矢背は待遇の改善を訴えたい。

 結局作戦中に改まってはくれなかった。



 足音は問題なく『風』に溶け、潜入に気付かれた様子は皆無だった。工場見学には不向きな、案内板一つ見当たらない通路。外に見張りは居ても内部に居ないのは、このわざとらしい複雑な構造が侵入者を好きにさせないようにしているからだろう。

 しかも通路や部屋の手前に、魔法の仕掛けが多々見受けられる。重要な場所には複数の解除魔法陣が必要なようだ。逆に言えば魔法が厳重な場所に程、重要な情報が有る。外側から肉眼では判別できなくても、『風』は魔力の式を感覚に伝えてくれた。

 警報か防衛か、通路の見えない箇所にある魔法陣の効果範囲を避けて進む。


「―――!」


 面積に対し人の数が少な過ぎて、やっと初めての研究所関係者を発見。遭わない様に動いていたので当然なのだが、興奮した人間は御しやすい。

 糸付きナイフを握る、元鉈のそれには名前が無かった。打ち直しただけで自分の作品ではないからと、ギィーガンが命名を断ったのだ。落ち着いたら考えよう。

 通路に置かれた積荷の影に身を隠し、声に『風』を伸ばした。


「―――はい、ではアレは始末します。耳の一つでも残しておけば、交渉には十分でしょう」


 物騒な話しを聞いてしまった。




閲覧有難う御座いました。

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