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竜皇と魔王と獣王の話  作者: YY
ギルドと仲間と逃亡の章
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41/71

第四十話

投稿しました。

 



 一度()()()、何故気付かなかったのか分からない。存在感のある騎士だった。


「避けたか……罪人にしておくのは惜しい身のこなし」


 年齢からも今が最盛期だろう。限界まで鍛えた筋肉と、その鍛錬の末培った精神。傷を知らない無二の鎧が、男の硬い肉体を更に強固に包む。

 堅牢な城塞を連想させる、不敗の異名を持つ騎士が剣に残る布切れを払った。


「投降しろ。そうすれば、お前だけは助かる」


 予定の場所まで後数分の距離で、まさかこの男に捕まるとは。空紀は考えもしなかった。処刑台(あそこ)で自分達を見逃した男の出現。

 魔法の力を過信していた。どれだけ魔法が優秀でも、使い手がヘボでは宝の持ち腐れだ。事実、『風』は仕事を続けている。しかし保有魔力を敵脅威度の目安にした結果、この事態を招いた。

 身を起こした豪狼の、息を呑む音がする。数日で見慣れ過ぎていたのだろう。


 城装軍所属、ダスィラノ・ダスカン大隊長。単騎最強と名高い騎士だ。

 その家名を店の名前にして大儲けしている商家がいれば、その知名度も推し量れた。

 豪狼を捕らえ、処刑台に引きずった男である。


 右耳の上を浅く切られた。仮面とフードの一部を削られ、髪が切れている。

 流れる血の煩わしさに気をやってはいけない。問いに応じる気が無いのだ、一寸の緩みが命取りとなる。


「豪狼、ゆっくりでいいから壁まで行って」

「ふざけんな!俺も!」

「邪魔、足手まとい、お荷物、他に何て言われたい?」

「うっ!?」


 砂を踏む、踏み込みの前準備を双方がとった。


「……そうか……残念だ」


 左手の大剣が空気を退かす。


「―――行け!!」


 全力を出せば、そう思っていた空紀はもういない。最初の一歩は速さもそうだが、重要なのはタイミング。自分の速さと相手の行動予測、回避が不可能なタイミングは誰にでもある。

 背中に仕舞ったままの二本目を抜かれる前に、突破口を開く。

 大剣を構えようとする初動で、跳び出した。構えが完成する手前には、こちらの攻撃が始まっている。確実な初撃(ファーストアタック)を。


 〈危険〉


 集中させていた『風』が耳朶の傍を泳ぐ。咄嗟に身を回せば、そこを騎士の手が空ぶった。囁きが無ければ顔面を掴まれていただろう。

 力が幾らか乗らないが、空紀の剣が届いた。駆動域を確保された鎧の隙間、脇を裂けば腕が死ぬ。

 大剣が間に合わない事を計算してのコース、甲高い防御の音が路地に響いた。


「っ!?」


 布に覆われているが、大物の剣が完全に防がれた。騎士も剣が間に合わないと読んだのだろう、それでも剣を捨てて腕で受けるとは思わなかった。

 勢いは殺せず、体が剣と腕の接点を支柱に飛ばされる。突っ込んだ力と受け止めた力、後者が勝って空紀は意図せず騎士と離れた。

 空中に居ながらも、騎士の動きを見逃さない。

 滑らかな動き。重心を下げ体の正面を空紀に向けながら、落とした左手とは逆の手で地面を跳ねた剣を取った。

 勢いは加速する。


「がああ!!」


 ガンッ!!

 ドゴオオオーーーン!!!


「アキ!!?」


 鉄がぶつかった様な音の直後、豪狼の横に建っていた家が崩れた。戦闘を見てはいないが、騎士の強さは豪狼の心の底に染みついている。吹っ飛んだであろう空紀に寄ろうと、足が止まった。


「馬鹿!!止まるな行け!!」

「!?く、クソ!!」


 最強の一発をくらったとは思えない罵声に、後押しされた背中が進む。


「見事な反応だ。剣の腹を蹴り、反撃を受け止めたか」


 空紀は得物を空中で手放し、その腹を蹴って騎士の一撃とぶつけた。腕力でも勝てないなら、脚力で受け止めようとしたのだ。吹っ飛ばされはしたが、廃屋の壁である木材に体を打ち付けた痛み以外は無傷。

 剣が無事なのも幸運だった。布で巻かれ鞘に入った状態が、本体を守ったのだろう。鍛冶師の腕が良い。

 だが現状、不利なのは覆らない。


『風』が吹き荒れる。


 予想より今の騒ぎは兵士に届いていない。時間が無い事は変わらないが、作れなければ豪狼が殺される。

 もし此処での轟音が兵士達の耳に入り駆け付けるとしても、恐らく一分は来ない。

 空紀は考え得る最高の状態を展開した。


「む?」


 ナニカによる援護を期待して多目に魔力を注いだ『風』は、空紀の半径百メイトに留める。特に騎士の情報は密度と精度を上げた。

 布を解いた大剣の鞘はそのままに。間違っても致命傷を与え、余罪が増えても困る。

 鍛冶師とその弟子が二人で運ぶ重量を片手で振り、自重軽減の魔法制御を命綱にした。思い通りの動きを行えたら、〝重覚魔法〟は素晴らしい恩恵をくれる。


 これが今の私の最大全力。



「―――仕留める―――!」



 騎士が剣を持ち替える、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ふん!」


 一振りで木材を粉にし、剣の範囲に後二歩と迫る空紀に気付く。

 迎撃を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 振り返る、()()()()()()()()()()()()()()


「っ!!?」


 繕う余裕の無い動揺が、騎士の彫の在る面に表れた。動きを読まれている。その結論が出るまで、そう掛からなかっただろう。

 相手の動きを、体が反応する刹那の信号を『風』が盗む。出だしを叩き、動作の悉くを殺した。


 脳が揺れる。






 ― ― ―


 見て見て!小学校のノート!

 はん?ブハッ!何この中二病ノート!?ひっははは!!

 お前も書いてんだろうが、この『宇宙創造(コスモメイク)』とか

 ちぎゃ、違うし!?お前こそなんだよこれ、『戦闘装衣(ヴァルキリードレス)Ver(ツー)』って

 挿絵付き、昔から絵上手かったよね?

 うるせー!なんだよツーて、ワンどこ行った!?

 同じノートが学年別で何冊か有った!

 嫌な予感しかしない!?


 ― ― ―






 変な記憶が出てきた。これは今の形態が正にそうだと、過去の自分に指摘されているのだろうか。

 特に命名していなかったが仮としてその名前を付けておく、心の中で。


 ガァイン!


 先を読んでいたはずの攻撃が、完全に防がれた。

 騎士の先を読み過ぎて、動きが単調になっていた。こう動けばこう動くと、相手にも伝えてしまっている。


 ならば、更に未来(さき)を!


 戦闘中に相手の行動を考えて動けるのは、冷静だからだ。落ち着いて状況を判断し、思考をフル回転させる。()()()()()()()

 溢れ出る感情の聞き方は既に知っている。長い思考の時間を取れない戦闘中ならなおの事、単純で強い感情が放たれる。更に筋肉の流動を読み解けば、最強の騎士が相手でも()()()()()()()()()()()()

 大剣の影に潜んで一撃を避けた。鼻腔に痛みが走り地面を転がれば、コンマ数秒前の空間に蹴りが通っていく。

 後ろに大きく後退すれば、着地を狙って削れた地面の欠片が迫った。堕ちれば当たる。大剣を地面に突き刺し、静止してやり過ごした。

 地面に足が着く頃には、騎士の上段が太陽光を遮っている。


 太陽が顔を出していた。



「時間だ」



 刺さった大剣を傾けて、柄尻と騎士の刃をわざと衝突させた。半分まで身を埋めた大剣を支えに、膝を着いていた空紀は目前の脛当て(レガース)を掴む。

 重力の軽減、全身鎧の騎士が浮いた。


「ぬお!?」


 大柄な男だ、振り回される経験など早々無いだろう。深く刺さった大剣を中心に、大きく回った。

 方向は反対、着地点に人は居ない。


「よいしょらああああああ!!!」

「ぬおおおおおおおおおーーーーーー!!!?」


 巨体が空を飛ぶ様子は圧巻だ、おかげで腕が痺れた。行き掛けた意識を『風』に直し、走り出す。目視はしないが騎士の着地と行動を感じ、豪狼の位置と周辺の気配を察知した。

 騎士は着地体制の制御に集中し、追撃はしない。遠距離に対応できる術は無いらしい、助かった。あの巨体であの重さ、どれだけ鍛えていても空紀より速いとは考えにくい。

 この世界に()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 豪狼はやはり体力の衰えが著しい、後五歩強く地を踏めば追い付ける。首都内の兵士の数と動きは遅い。多少余裕を持って逃げても大丈夫そうである。



 いざ首都を離れると思うと、寂しさが募る。自己責任ではあるが、豪狼に恨み言の十や百はぼやきたい。

 女将さんと旦那さんにはアペンサーとクロデアにした説明を話した。旦那さんの弁当を貰い、玄関先で女将と従業員二人の見送りを受けたのが、既に懐かしい。

 単騎最強の騎士の一撃にビクともしない大剣を作り上げたギィーガンは、弟子の言葉を無視して代金を受け取らなかった。素材分の料金を引いても、払わなければ申し訳ない出来だ。それでもギィーガンと諦めた弟子は、笑顔で会心の作品を()()託し、空紀を送り出した。

 預けたオークション用の品を光悦と眺めていた鑑定士も、客の職業に理解があるのだろう。冒険の成功を祈ってくれた。

 無事を、ではない。成功を、だ。

 冒険者の真理を知っている言葉だった。


 思い返す程、他者の笑顔が空紀の脳裏を跳ねる。

 本当に運が良かった。他人が記憶の無かった空紀に、自我という器を作ってくれる。

 そんな大事なモノに出会った事を誇る、そうすれば豪狼救出の微かな後悔は消えていった。相性の良い悪いが在っても、空紀を形作る他人の一人なのだ。

 記憶として容量を埋めていく笑顔を真似れば、こんなに心は晴れ渡る。



 一国に追われている者とは思えない表情は、仮面に覆われ誰も分からない。

 危篤患者が病院抜け出して歩いている速度と変わらない豪狼は、それでも壁に手をついて確実に進んでいた。行先を聞いていないのに、空紀が指した方角へ真っ直ぐに。

 今走っている位置と、()()()()の距離を逆算。そこから首都を出る手間を考えると、三分もいらない。

 呑気に名残惜しんでいると、()()()()()()()()()()()


 〈魔力上昇〉


 一瞬何の事か分からず呆け、首が鳴る程速く頭上を仰いだ。



 太陽



 錯覚だと『風』が囁き、また逃げろと突く。

 空紀達とその他大勢を囲う外壁、頂点に並ぶ人影は軍の魔法士。全員が火属性の魔法を行使し、重ねる事で熱量を増している。

 同属性魔力不接融合現象。

 一定の範囲内で発動した同属性の魔法が融合し、重なった状態の魔法が固まる状態。但し魔力そのものが完全に結合した訳ではないので、魔法の操作権は各魔法士が保有したままだ。行使先が異なった場合、魔法の構築制御が崩壊する事もある。

 空紀達の頭上を陣取る魔法士は、そんな凡ミスはしないだろう。


「豪狼!!!」


 炎は太陽の光を上塗り、視界を白く染めた。




 ―――――――――爆ぜろ―――。







閲覧有難う御座いました。

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