表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜皇と魔王と獣王の話  作者: YY
ギルドと仲間と逃亡の章
PR
38/71

第三十七話

投稿します。

 



【お帰りなさい】


 寄り道して、宿に朝帰り。日の出に透けた冷たい空気が、首都の全てを彩って光る。

 静かに扉を潜ったが、真面目な従業員の正面に出ていた。受付に置いたままにしている出迎え用の板を持ち、安心を与える笑みを浮かべる。

 眩しい姿に、一呼吸分目を閉じた。


「―――朝食を、一緒に食べれないかな?アペンサーも入れて」


 長い二日間になりそうだ。






 時刻の確認が一般的ではない国民にとって、日の出が一日の始まりだ。太陽が昇れば昼、沈めば夜。

 朝食の時間も早い。飲食店も兼業している〝春の貴婦人〟は、朝食の忙しい時間を終えてからようやく自分の番になる。昼食の時間帯も考えて腹を満たす。

 クリーミーなシチューと黒麦パンの相性に舌鼓を打ちながら、二人の今日の予定を聞いた。


「実は俺達も正式なギルド会員になった。先日の事件への貢献度が評価されてな。襲われた三人組は一から鍛え直すと言って、試験を辞退したらしい。あれ程の苦境にも心折れない精神は称賛に値する!是非とも諦めず再挑戦してほしい」

「依頼受けに行くの?」

「ああ!早く独り立ちできるよう依頼を請けて、この民宿に恩を返そうと思う!貴族としての責ではない、人として忘恩は恥ずべき行為だ。この美味い料理は最早我が血肉に等しいのだから!」


 あんまり質問に答えていないが、女将さんらへの恩返しを邪魔する事はしない。


「私はしばらく首都から離れると思う」

「なに!?何故だ!?あれほど努力して得た地位を投げ捨て、何故離れる!?もしや長期依頼?」

【どうかしたんですか?】


 食事中は手を飲食に集中させ会話に入れないクロデアも、空紀の奇行に疑問を記す。アペンサーの言う長期依頼は、成り立てのギルド会員には請けられないランクが大半だ。他に可能性が思いつかなかったのだろうが、()()()()()()()()()()()


「半分当たってる。理由があって、()()()()()()()()()()
















 ギルド〝ジョクラトル〟本部、来賓用応接室。彩虎獣の討伐報酬の話しの後に、空紀の本題が語られた。


「―――そして豪狼は連行されました。まあ、馬鹿だったとは思ってます」


 現場に居た加害者被害者王族、さらに関係者の話しをオークション中に盗み聞きしまくって得た、処刑の真実。

 首都で有数の冒険者ギルド副会長は、久し振りに表情筋を働かせていた。スクートンの反応も鈍い、どちらも悪い方に調子が乱れる。

 二人は衝撃的な冒頭の言葉に判断力を奪われ、真実の裏を読み逃したのだ。

 それは知った者は逃げられないという、魔法にも似た事実。


「…………あー、国の未来は暗雲だな」

「口を慎め、城に投げ込まれたいか」

「門前払いがいいとこだろう。〝ジョクラトル〟の副ギルド長となれば、無関係とも言ってられないな」

「無関係な人間はこの場にいない。彩虎獣にお手されて足怪我したって言い触らすよ」

「だから!その俺に対する陰険さの押し出し何!?」


 軽口が余裕の一助となって、考える時間を作る。この場を用意した一応責任者のフィルドクが、整理を買って出た。


「つまり今朝発表された処刑は、アウルム王子のサフィラス王女暗殺未遂を隠す為だと?場に居合わせた騎士や国王を騙す為の」

「王子の意図はそうでしょう」

「けど王女様はなんで静観してんだ?その男の証言を盾に王子の悪行を晒せば、大々的な制裁が可能だろうに」

「あの王子の背後には甘い汁を舐める貴族が存在するから。内乱が起きればまだ学生で私的団体を保有出来ない王女は、どうしても先手を取られる。それだと最も守りたい人を守れない」

「守りたい人……?」


 それが王女が手を出せない理由、豪狼を救う手を伸ばさない最大の要因。王族としてではなく、家族として国王(ちち)の代わりに守ると誓った。幼い宝物。


「まさか……第三王子か次期国王候補の!?あの馬鹿王子、九歳の弟にまで手え出そうとしてんのか!?」

「口を慎め、スクートン。玉座に血痕など無いと、信じていた訳でもあるまい」

「布敷いて寝転べば誰にも見えないってか?赤く染まってから気付いても、国の終わりは変わらねえぞ!」

「国を憂う心は同じだ、何も静観しろとは言っていない」

「ああ!?」

「この話しを私達に伝えた理由を聞いていなかったな、内容次第でここから先が変わってくる」


 この時点で豪狼の救出は、まだ選択肢の域を出なかった。では何故話したのか。


「首都が壊れては困る、国が崩れては困る、それだけです。それに私の魔法は自分で言うのもアレだけど、かなり有用です。将来露見した時のコネも欲しかった」

「こね?」

「えーと、恩を売っときたかった、みたいな。とにかく国家転覆は阻止しなければならない」

「どうすんだ?」

「副ギルド長」

「なんだ」

「長期依頼を請けたいです、許可を頂けませんか?」

「なぜ、いや……証人を逃がすのか?」

「さあ?」

「さあ!?」

「首都に居ても私に出来る事はありません。貴族との繋がりも無く、城に近付く事も不可能。なら外側から情報を集めつつ、国を脅かす影を表に引きずり出す!」

「影?王子が極秘部隊を保有しているというのか?」


 首都までの道中にあった出来事、特に竜擬き〝合成獣(キメラ)〟の事を話す。

 竜擬きを操作していた魔法士とその団体の情報は、話しの途中でも聞き手の疑問をくすぐった。明らかに作られた生命体。それが可能かどうかも問題だが、最大の疑問は()()()()()()()


「金級冒険者が単体でも難しいランクB相当の魔物の素材を、阿保ほどくっ付けて作った竜……。史上最大の犯罪組織が支援してたのか、それとも……」

「権力者の支援があったか、だ」

「おまっ!?俺が優しく言おうとしたってのに!」

「仮説だ。バンハット商会の商品に合成獣の素材が混ざっているなら、先日依頼された内臓器官の解体。あれはその一部だろう。解体屋が嘆いていた。こんな器官を内蔵した生物は生物じゃない、と」

「後続が首都に着いたのかな。()()()みます」

「聞く、とは?」

「―――丁度その相談をしていました。解体した内臓器官の一部に、山興しの肺に酷似した物が発見されたようです」

「山興し!!?ランクAの魔物だぞ!?小山ぐらいの馬鹿デカい亀で、奴のいびきは台風になって村をぶっ壊す!」

「……確かに、恐ろしい魔法だ……。しかも仮説の強烈な後押しになった。影の存在は無視できない規模、あるいは権力を持っている」


 魔物ランクAの素材の売買は、特別な手続きが要る。一匹発見すれば、首都でも軍主力を動員しなければならない力だ。その素材をただ拾ったと言って売る事は出来ない。

 商会は頭を抱えているが、こちらも負けじと頭を悩ませている。


「…………依頼しよう、冒険者アキ」

「本気か!?銅の冒険者が関わって無事に済む訳がない!!」

「示された魔法の有用性、冷静な判断力と国を想う心情。実力は共闘したお前が、私より理解しているだろう。何処かで一手打たねば、ギルドは権力者の抗争に流されるだけとなってしまう」

「前金は貰うけど、影が舞台に足を掛ければ良し、位に考えてくれればいいですよ」

「それじゃ捨て駒じゃねえか!!」


 首都からの出立は確定した。スクートンは根がお人好しなのだろう、一度同じ魔物を倒しただけでこの心配具合だ。良い縁が結べて嬉しい。

 なるほど、()()()()()()()()()()()()()()


「死ぬ気は無い、別に国に命賭けたりはしないから。あっ、そうだ」

「そうかもしれないけどよう……」

「なんだ」



「竜について、知ってる事を教えてほしい」
















 脳裏によぎった昨日の会話は、私情に変わった所で打ち切られる。見つめるアペンサーとクロデア、巻き込まない範囲でどう伝えたものか。


「最近こないだの魔物みたいな、おかしな事件がよく起きてるらしい。その情報収集を個別で貰ったの、組めないのは残念だけどしばらく首都から離れた所を調べる予定」

「そう、なのか……。とても残念だが、アキ嬢の能力が正当に評価された結果の依頼なら、惜しむより祝おう!」

【帰ってきたら、また一緒に仕事出来ますか?】


 決断前なら、胸の奥の無図痒さに悶えていたかもしれない。

 決めてしまうと、その無邪気な未来を語る口が恨めしい。

 酷い八つ当たりだ。何も教えていない人間に知らない事を責めて、心中で愚痴るとは。

 救出が成功する確率は低いし、成功しても首都を出て無事に戻ってくる保証は皆無。国のいざこざに中途半端に首を突っ込んで、面倒事へ心中自殺に等しい。

 それでも、望んでいいのなら。



「そうだね、首都に戻ったらまたここに来るよ。〝春の貴婦人〟が集合場所だから」



 スープは冷めてしまったが、手の熱が移ったパンは温かった。急いで流し込み、食器を返却する。

 台所の旦那さんに頭を下げて、数日分の食事の礼を届けた。口下手な料理長は微かに頷いただけだったが、十分である。

 受付に居た女将さんに、寝込んで延長してしまった宿賃を渡す。明らかに増えている金貨の数に、女将は断りを入れた。


「もしかしてあの二人の分かい?あの子達は宿賃分働いてくれてるよ、これは一ヶ月は食っちゃ寝出来る金額じゃないか。お小遣いにしても多過ぎるよ!」

「迷惑料と、余ったら二人への餞別にでもして下さい。お世話になりました、また首都に来たら利用させてもらいます」

「気にする子だね!いいよ!これは次泊まる時の代金前払いにしとくさ、気を付けてね!」


 宿を出る時は、毎度見送りをしてくれた。笑って手を大きく振るのだ、冒険者にはいつなん時が今生ともしれない。知っているからこそ、見送るのだ。

 出会いと別れを大事にする商売なら、どちらも大切にしたい。


「行ってきます」







 ギルド〝ジョクラトル〟に向かえば、敏腕副ギルド長が準備を万全にしてくれていた。


「こちらが依頼受領手続きの書類だ。内容が内容なので、表の受付係に見せられない。依頼主への配慮で、秘匿依頼として扱う制度を利用し特別措置を取った。署名を」

「なんで俺まで……」

「ギルドが受ける依頼は、依頼主と請負人以外に第三者を必ず立てる。お前しか適任が居ない」

「これは?」

「この書類を持つ者の身辺を保証する証明書だ。冒険者組合に加盟するギルドが相手なら、無下にはされまい。無くせば冒険者人生が永遠に訪れないと思え」

「突然の脅迫、了解しました気を付けます」


 作業を終了させ、空紀は報告した。


「豪狼助ける事にしました」

「ブフォ!!?」


 隣でスクートンが紅茶を吹いた。少々書類に掛かったので、泣く泣く書き直しさせられている。


「特別な情は無い、と言っていなかったか?」

「特別な物が無くても、動く事はありますよ」

「無い。存在しない物に、人は気付けないのだから」


 理由の無い行動は無い。何も無いのに、助けようと考える事はありえない。

 行動には信念と感情が付随する。

 フィルドクの言い分も理解できるが、それは自分を持っている人間の言葉だ。


「何も無いのって、嫌なんですよ」

「……?助ける理由が無い事が嫌なのか?」

「近いです。私は此処で動ける人間だったのか、理由が無いのは私が見つけられなかっただけじゃないのか。それを確かめたいんです」

「理解が出来ない。それは命を投げ出す程の悩みか?」

「その価値はこれから分かりますよ」

「無謀だ!共犯として一緒に首を切られるぞ!?」


 不真面目なのに、他人に対しては真摯だ。こういう人が国を支えてくれれば、こんな無謀は起きなかったのかもしれない。


「心配なら付き合ってくれない?スクートン」

「なにが!?」

「買い物だよ」




閲覧有難う御座いました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ