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竜皇と魔王と獣王の話  作者: YY
ギルドと仲間と逃亡の章
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第二十九話

連投します。

 




「お待たせしました、鑑定が終了しました」


 ようやく見終わったらしい。

 肌に張りが出てきた年配鑑定士は、満面の笑顔で宝の山から物を取り出した。


「こちらはあの建築家クゥトゥフが作成した木造食器です、一部欠けた箇所が有りますが達人の手に委ね修復をする価値が十分にあるかと。こちらは作者不明で名高い絵本〝慷慨(こうがい)〟第七章です、作者の心中を独特の描写で綴ったこの本は貴族に根強いマニアがおります。こちらは海賊エイフリーモが愛用していたとされる片目当て、存在すら疑われた義賊の品の出典は次回オークションの目玉の一つとなり得るでしょう。こちらは―――」

「もういい。実用品と娯楽品その他に分別、実用品は持って帰る他は出展」

「はっはい、申し訳ございません!あの、こちらはいかがいたしますか?魔力を体外へ漏れないようにする代わりに、五感を閉じてしまう魔法道具なんですが……」

「……一応持って帰る」

「ではこちらもお持ちになりますか?女性専用の首輪型魔法道具なんですが、着用すると興奮して発情した状態が魔力の限り続―――」

「出展します!」


 舌の根を力ませ低くしていたが、後半は素の声だった。首輪型の魔法道具にいくらの価値が付くかは、考えたくもない。

 手続きをし計三十一点の商品を、〝リーブラ〟に預ける。時間が掛かった、監視が異常に気付く前に戻らなければ。コートの裾をひるがえさない様に、早歩きでランジェリーショップへ向かう。


 残りの用事は特に急がない。裏口から逃がしてくれた店員はいなかったので、違う店員に伝言を頼んだ。ストーカーの件は片が着いたと伝えてもらう。優しい店員にいつまでも心配の種を持たせていては、こちらの心労も積もってしまうだろう。試着室で来店時の服に戻す。

 店を出て予想通り飛んでくる監視を背負ったまま、誰もいない路地に入る。一目を気にしながら、下着は見せないと割り切って着替えた。

 薄い半袖肌着の上に、初心者『勇者』に支給された七分袖シャツを被る。それだけでは凍え死ぬので、〝ネクサス・ダスカン〟で防具と一緒に買った腰まである上着を羽織った。体と服の隙間を消すために、わざと一サイズ小さい服。

 基本北方の北国なので、衣服は厚さがあり防寒が標準なのだ。『勇者』の出生を思えば、きっとどこかにコタツがあると信じている。

 胸当てと手甲付き指貫グローブを着用、ブーツの位置を考え脛当てを着けられれば冒険装備完了。

 外出用にギルドから貰った身分証明書(仮)を門番に見せる。

 おやつの時間までには首都に帰り、美味しいお昼が食べられそうだ。






 どうしてこうなった。

 持ち合わせがないと言った口一杯に、クリームソースのパスタを詰めている。長い前髪の間から、潤んだ瞳が見え隠れしていた。求めていた食料を摂取する手が、拾った時の三倍速くパスタを掬う。

 反対の席を見れば、上品に食べているつもりで机に零しまくっている一文無しその二。下品かどうかの境界ほど大口で頬張る様子は、幸せで仕方ないと顔に書かれていた。造りが良いと絵になって腹が立つ。

 嚥下が間に合わないほどの咀嚼速度。早食いと怒られても、かき込みたくて堪らないのだろう。なにせ話しが本当なら、二人はここ三日まともに食事をしていない。違う種類のパスタを食べだした女に至っては、その前二日を水とパンの耳で凌いだという。

 熱々の腸詰めをかじりながら、会話が可能になるまで待つしかなかった。



 薬草を依頼分確保し、余裕が出来たので自分用も採取していた。乱獲には気を付けて取り、安全を第一に『風』を使う。最初から使ってはいたが、意識するのとしないのでは取得情報の質が大きく異なるのだ。その効果は一瞬で現れた。


「ん?」


 一キロも離れていない二時の方向、魔物と人が戦闘中である。戦闘をしていたのは採取する前から気付いていた。

 問題は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 もし戦っている人、冒険者が弱ければとっくに死んでいる。強いなら倒れているのは魔物で、解体されていてもいいはずだ。戦力が拮抗しているのか、それにしては違和感が在った。


 冒険者の数は二人、一人は前線で魔物の攻撃を凌ぐ鎧の男。盾は無いが大振りの剣で魔物の爪や牙を、上手く躱し弾いている。調子を崩さなければ、後一時間は耐えられそうだ。

 男の後方で魔法を駆使している、もう一人の冒険者はどうやら魔法士らしい。魔力量は中々だ。『風』を通してだが、ルフェグと矢背の間位の魔力を感じる。魔力量の話しになると、むっつりした顔で矢背を凝視するルフェグを思い出した。

 心中で和んでいる時も戦闘は続く。魔法士は確かに目を見張る魔力量だが、全く使えていない。魔物に当てているのは水属性の初級魔法だけで、決定打には遠く及ばなかった。

 男剣士も凌ぐ動きが一丁前で分からなかったが、斬り込もうとする様子が皆無。魔法士に攻撃させようとしているのか、やり方を知らないのか。


 これでは日が暮れても終わらない。風下から身を潜め、冒険者を襲う魔物の姿を肉眼で捉えた。

 ロン毛の熊だった。


「ブフォ!?」


 全身ではなく後頭部の毛だけ長身を超え、地面を擦る程長い。爪と牙も空紀が知っている熊の何倍も長いが、頭髪のインパクトが強すぎた。

 腹を抱えて動けないうちに、詳細を『風』が調べてくれた。ありがとう。

 戦っている冒険者は、入会試験の酒場で空紀を誘った男と誘われ済みだった女魔法士だ。

 男は自信有り気に守ると言っていただけあって、後方の女に攻撃を一度も通していない。攻撃も相手に全く届けようとしていないが。

 女魔法士は無詠唱で魔法を行使している。勇者の街で空紀達の教師役だった三無瀬(みなせ)由華(ゆうか)の講義で、魔法は起こす現象の規模によって詠唱が必要となる、と教えられた。初級とはいえ無詠唱による魔法を使える事は凄い。だが前衛があれだけ魔物の進行を防いでくれているのに、急いで弱い魔法を連発する意味があるのだろうか。

 助けが要るのか要らないのか。悩んでいると剣士の剣が弾き飛ばされた。動揺した男は立て直しが間に合わず、ロン毛熊の爪を腹に受ける。魔法士が倒れそうな所を支えたが、熊の敵意は高まったままだ。

 判り易い危機に、空紀の足が反応した。太い爪が迫る前に、顔面を蹴り潰す。脳を揺らせられたらしい、距離が数歩分開いた。


「助けられたと思ったならもっと下がって、平気なら手伝って!」


 全力の蹴りは、ロン毛熊には時間稼ぎが精々だった。血と唾液を垂らしながら、野生の目で襲い掛かる。前髪を何センチか持って行かれた。この猛攻を体験すれば、笑いが沸く気力も失せる。

 速度は負けないが、力も体力も負けている。生木を抉り倒す力を、長時間振り続ける体力。基本ポテンシャルが人間のそれを上回っているから、魔物は恐ろしいのだ。

 百足の時と同じ緊張感と死の香りが、逃げる度強くなっていく。ジリ貧だ。

 木々に跳んで移動し、声を上げた。


「こいつの弱点とか有る?!!」

「ぐぅ!……獣型の魔物は、総じて火に弱い!!」

「無い!!」

「なっ!?う、頭髪の下、の、うなじが柔いと聞いた、気がする……!!」

「分かった!!」


 ある物を取り出し魔法鞄を放り投げる。地獄で学んだ化物の倒し方その一、図体がデカい奴は腕の中も広い。懐は隙だらけだ、体を回り背後から頭へ登る。

 その二、好きにやらせない。鞄から出した野営用品点火装置を、熊の目に当てた。点火。


 ガァグワアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーー!!!!!!


 登られている事も忘れて悶える。払われる前に重いロン毛の束を掴み、うなじに突き刺した。剣先しか埋まらない。当たりそうな熊の腕を跳んで避けた。ロン毛を掴んだ状態では、跳躍距離がロン毛で縛られる。それで十分だった。

 魔法を解除して戻った本来の自重とロン毛を引く強さを合わせて、うなじに浅く刺さった剣に着地。

 勢いに押された剣はロン毛熊の首の骨を両断し、喉を破る。支えきれなくなった上体が倒れていき、剣は地面にまで及んだ。

 もう立つ事も出来ない熊は、なんとか空紀を排除しようと腕を上げる。

 その三、動けなくなってもぶっ殺す。踏み込みでより深く剣が刺さった。腕は落ち、痙攣する。さらに踏む、念の為もう三回踏んで熊から降りた。


 手強い相手だった。冒険者の苦戦も納得だが、やはりこの二人なら倒せなくもないと思う。何故知っていた弱点を突かなかったのだろう。

 近寄ると魔法士は座った状態で離れようとした、怖がられている。男が体を起こす、損傷個所には砕けた防具しか残っていない。傷は塞げたらしい。大丈夫そうだが顔色は悪かった。


「感謝を申し上げたい。貴方がいなければ、私は彼女を守り切れなかっただろう。本当に、感謝する」

「偶然居合わせただけだから、狙う魔物は考えた方が良い。熊は貰ってくから」

「待ってくれ!……相談が有る」


 縋る様に手を伸ばされたが、こちらには届かなかった。傷は完治しているのに、座り込んだままなのだ。届く訳がないのに、なんで立たないのだろう。

 面倒事の予感。


「街に戻った時、別の形で礼を尽くす!だから!熊の素材を私達に譲ってく―――」


 くぅきゅるるるるるるーーー。


 男の目が丸くなった。見ると、犯人魔法士が土下座のような態勢で腹を抱えている。

 どうして男でイケメンの騎士みたいな奴に会うと、厄介事に巻き込まれるのだろうか。



 ロン毛熊串刺し事件後、お腹が空き過ぎて動けなくなった魔法士を担ぎ首都に帰還。近くて安い飲食店に駆け込み入店したのである。

 元凶らは膨れた腹を摩り、とても満足していた。追加注文分の支払いを苦い顔で済ます恩人に気付かない程幸せらしい。

 本題を半目で要求していると、慌てて口元の食べかすを拭った。


「この度は誠に有難う御座いました!」


 剣士の男―アペンサーが机に髪を乗せて、深々と頭を下げた。女魔法士も続く。


「二度も命を助けていただくという大恩、このアペンサー!今日の事は一生忘れません!!」

「そう。奢ったつもりは無いから、ちゃんと返してね」

「勿論です!……あの、図々しいと理解していますが、可能なら返済期間については相談させていただければと……」

「私が首都に居るまでで良い、利息も付けない、他に何か?」

「おお!なんとお礼申し上げれば……!本当に、本当に!恩に着ます!!」

「分かった分かった」


 金欠なのは聞いたが、それなら装備の一つでも売ればと思うが。これだけは、とまた頭を下げられた。


「この鎧は父より賜った二つと無い至宝!!剣は尊敬する賢兄より頂いた、何にも代えがたい我が誇り!私はギルド〝ジョクラトル〟に入会し、立派になったその時!この装備を纏った姿で門を叩くと決めているのです!!どうかご容赦下さい!」


 別に売れとは言っていないが。その父と兄も自分が贈った物を家族が大事にして、魔物に殺されかけたと知ればどんな思いをするのだろう。

 空腹は戦闘時の動きを制限する。魔物の攻勢を凌ぐだけで攻めなかったのは、固い外皮を貫く力が無かったからだろう。そんな理由で死にかけるのは阿保らしい。


 魔法士は喋れないので、相手の手の平に指で文字を伝える。時間が掛かった。

 女魔法士の名はクロデア、神官見習いで珍しい治療系の才能(スキル)を持っているらしい。神官見習いは教会から神官教育の最終試験として、治世調査を命じられる。調査方法は本人の自由、試験管を担当する神官の合格を貰うまで教会には入れないという。

 先輩神官から聞いた合格方法は金銭の調達、もしかして寄付金の奉納をさせる試験なのか。他所の問題なので深くは聞かない。

 兎に角話せない神官見習いは、金を稼ぐ方法も分からないまま教会から支給された資材で食いつなぎ、偶然ある会話を盗み聞いた。有名ギルドの入会試験内容である。

 冒険者が金銭を対価に体を張る職業である事くらいは知っていたクロデアは、教会に見つかって怒られる可能性を考え全身を隠しあの酒場に行ったのだ。まさか寝る場所にも困っていて、半日早く酒場に来た入会希望者はギルド史上初だろう。

 誰か強い人と組めれば、回復しか出来ない自分でも金銭を稼げると思ったそうで。アペンサーの誘いに一も二も無く頷いた。

 入会試験依頼は達成すれば報酬が入るが、所詮雀の涙。新入会員未満なら当然である。アペンサーも手持ちが無く、途方に暮れていた。

 これでは今日のご飯も買えない、魔物を狩れれば素材が売れると思い辺り実行。結果は知ってた。


 話しが終わっても、クロデアが手を離さない。アペンサーの瞳にも光が瞬く。

 予想はしてた、握られた手が熱い。


「恩人よ。もし同情に等しい心を感じたなら、心ばかりの慈悲を。我が剣と彼女の魔法で、僅かばかりでも恩を返す機会を、貰えないだろうか!?」


 あの攻撃力を長時間凌げる剣士と、珍しい回復魔法持ち。疑問は残るが。

 さて、どうしたものか。




閲覧有難う御座いました。

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