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竜皇と魔王と獣王の話  作者: YY
ギルドと仲間と逃亡の章
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29/71

第二十八話

投稿します。

 



 試着室の仕切りを開く。


「よくお似合いですお客様!」


 お世辞でも嬉しかった、手が無意識に金貨を一枚摘まむ。


「コレに似た系統の服と肌着、長期の外出もあるから冒険者視点で考えてくれると助かります。他に気付いた入用の物も入れて、この金額内で頼めますか?」

「よっしゃ!アンタたち仕事だよ!上客を常連客に仕立てるわよ!」

「「「はいっ社長!!」」」


 元気な女性店員である。やる気に満ち溢れているので、全面的に任せた。


 首都五日目、自主休暇日。

 買い物に出掛けようと決めたまでは良かったが、冒険者用の衣服しか持ってなかった事に、仮にも女として頭を抱えた。

 宿屋の女将がオススメしてくれた服屋は、高価ではないがそこそこするデザインにも拘った店だ。女性だけの店で、やはり女性客が多い。メンズの服も有るが、内装や雰囲気が男を寄せ付け難くしている。

 買い物を始めた最初の店で服を大雑把なお任せ払い、計画性が無い自分に呆れた。次は冒険に役立つ物を見に行こう。

 机の上に広げられた服の数々。金貨一枚とは思えない量とおもてなしに、今度は銀貨一枚を摘まんでいた。チップが常識として存在する世界か知らないくせに、無理矢理納めてもらった。賄賂でも渡した気分だ。

 丁寧に魔法鞄へ詰めていく。重量が軽減されない(タイプ)の魔法鞄は、内容量が結構在った。

 実はその型の鞄をもう一つ購入している、旅の途中でバンハット会長からだ。魔物の素材を入れる用と、日用品は分けた方が良いと思ったからである。〝ディフェリーブ〟からは勿体ないと言われた。しかし魔空間領域で内容物同士の接触は無いと分かっていても、折角買った綺麗な衣服を血塗れの蜥蜴が入っていた鞄に入れるのは気が引けたのだ。

 昨日の蜥蜴や蛇は、宿を出て直ぐに売りに行った。傷は多いが幸いにも肉が食用だったらしく、片手で蜥蜴の頭を持って見せると値段を盛ってくれたのだ。妙にビクつかれたが、冒険者なら馴染みの卸先が在っていいはず。これからも宜しくと言えば、何度も頷いてくれた。

 情報の報酬と魔物の換金で、懐は過去最高にホットである。衣服だけで金貨一枚に銀貨一枚消費しようと問題は無かった。


 女社長の笑顔付き見送りで店を去る。今日の首都も通りの人が多かった、これで例の戴冠十周年記念祭りが始まればどうなるか、少々考えものだ。

 首都の外の依頼だった薬草採取は、昨日の帰り道に拾った分で七割程度。防具を身に着けていなくても三割を探すのは容易である。

 試験中に休みを取っている方が間違っているのかもしれないが、買い物の後サッと済ませに行こう。

 首都初日に買った肉団子を二本食べて、混みそうな昼時の食事を遅らせる。豪狼ほどではないが、最近腹の空き具合の把握が難しい。思ったより食べ過ぎてしまうのだ。前の世界からそうだったのか、冒険者になって動くようになったからなのか。

 薄いパンに葉物と肉を挟んだ物を食べながら、食事の制限を考えた。新鮮な野菜とタレがしっかり絡まった肉のハーモニーに陥落、動いて消費しようと食事量の検討は脳内で却下される。体重計が無い事が女子の食べ過ぎを促進しているのだと、責任を転嫁させ次の目的地を目指した。


 鞄に差し込もうとする手の主へ、近づく前に視線を叩く。一瞬だけ震え早々に離れた。首都に来てからあの手の輩は十人に及ぶ、そんなに襲い易そうに見えるのか。特に今は服屋で試着した格好のままなので、一般国民にしか見られない。

 分厚いグレーのブラウスとダークブラウンのコートには、機能にもデザインにも細かな気遣いがある。膝まである長い丈の裾に派手過ぎない刺繍がされており、分かる人には分かるお洒落。内側に冷え性の為の起毛が施された、明るい青のスキニーパンツ。勇者の街で唯一購入したブーツをファッションの一部に溶け込ませた、素晴らしいコーディネートである。

 ブーツは個性が売りの勇者の街で買った、こだわりの一品。摩耗の心配はまだしていないが、不測の事態を想定するのが冒険者。予備で一足は欲しいところだ。

 次の行先でどれだけ消費するかが鍵である。


 学業が義務ではない世界で、看板は基本絵だ。文字も一緒に書かれていたり何の店かにもよるが、判り易さが看板には必要なのである。客が何の店か判らないのは困るだろう。

 表通り側二階窓の殆どを隠す看板の店、人の出入りは眩暈がする多さだった。

 首都で一位をキープする有名武具店、〝ネクサス・ダスカン〟。軍家の名門ダスカン家からの融資を受けた、ただ一つの一般商店なのだ。商店長は近々貴族入りするのではと噂されている。

 性能を下から上まで揃えた超大手、商品の数とサービスの質の高さが人気の理由だ。専用の資材調達と運搬と鍛冶師ギルドを雇い、安定の営業成績を獲得している。取り扱っていない商品の注文があっても、首都の大部分の商店を記録しているので、店までの地図や案内のサービスが可能。

 営業形態がなんとなく、元の世界に似ている。先の服屋もそうだが、やはり従業員の数が営業の幅に大きく関わっているのだろう。


 店内の商品と人の多さに踵を返したくなった。一階は冒険者御用達の武具がずらり、二階は包丁や鍬といった日用品がある。三階は人が少ない、オーダーメイド希望の受付特別相談室だ。本当に幅広い対応をしている。

 応対する従業員が全員忙しそうだ、先ずは一人で防具を見て回った。

 武器は武器愛が往きまくったどっかの鍛冶師に頼んでいる。防具はサイズを気にするだけだが、武器は細かい癖を活かすか殺すかで生死に直結する、と思っている。防具を疎かにはしないが、ヒット&アウェイな戦闘スタイルを考慮するとオーダーメイドにするほどではないのだ。

 懐事情と冷静な自己分析の結果、この店が最も空紀の望む選択肢と価格設定にマッチしていた。壁に貼られた女戦士基本お薦め装備絵を見ながら、胸当てを真剣に選ぶ。ベルトでサイズ調整が出来るのが良い。

 大量生産が主流じゃない世界で圧倒的な品数、色違いまで揃っている。

 一時間経っていたと気付き、慌てて最有力候補の装備一式を持ち試着室の列に並んだ。後ろに並んだ人の待ち時間を思えば、しっかりとした確認は取れない。大手の意外な欠点だ。それでも希望にかなり沿った防具を購入出来た。


 時間帯は昼前、いつもの腹具合なら飲食店を探している。計算通り伸ばされた空腹を利用して、人の減った次の目的地に向かった。歩きやすくなった通りは、監視の目も通りやすくなる。貴族の監視はまだ無い。〝ジョクラトル〟の試験を受けている事は知られているので、ギルドで待ち伏せているのだろう。

 つまり撒くのはギルドの監視のみ。監視員が男と分かっていて、特に買う物が無いランジェリーショップに入る。最初の服屋は下着も置いていたのだ。目的はむしろ店員である。昼時で客がおらず暇そうにした店員に話し掛けた。ランジェリーショップに入った大きな理由は、女性店員の方が成功しそうだからである。


「すいません、あの……」

「はい、何かお探しですか?」


 気の弱さを意識する、見本は矢背だ。


「実は変な人に後を付けられている、みたいなんです」

「え!?大丈夫ですか?」

「それで、恐縮なんですが……裏口を使わせて頂けないでしょうか」

「勿論です!警備員をお呼びしますか?」


 親切心が罪悪感を刺激する。ごめんなさい。


「いえ!えっと心当たりがあるので、後日知り合いと一緒に聞きに行きます。お気遣いありがとうございます」

「とんでもないです、お気を付けて……」


 痛む胸を抱えて案内された裏口を通る。本当の目的地はオークション出展品鑑定の店だ。顧客情報を守ってくれるが、入る所を見られるのも拙い。何故なら出展物が、山賊の拠点で没収したお宝類だからだ。

 持ち主が判らない以上売るのは確定だが、もし持ち主に盗人と冤罪を掛けられたらギルド試験に影響が出る。

 店の様子を窺うと、警備が固い。バレない様に入ろうかと思ったが、変な誤解を受けると売りづらくなる。方法を考えていると、面白い路上販売が在った。

 まず路上である事を差し引いても商品が少ない。それに客を横目に、手元の木材を一心不乱に彫っている。大通りの脇道でざわめきが近くにあろうと気に掛けない、店を営む者としては不向きな集中力だ。

 一度も目が合わない、商品は全て手彫り。実に好奇心をくすぐられる。

 良い事思い付いた。


「彫る物指定していいですか?」


 注文すると、その内容に変な顔をされた。



 オークションは月一で開催されるが、戴冠十周年記念で多くの人が集まるこの時期、出展物の質は向上の一途。今こそ売り時と、店のやる気が警備のやる気に影響していた。

 そんなもう少しで昼交代の玄関警備員の前に、あからさまな怪しい人間が現れる。

 安っぽいコートで全身を隠した、木彫りの仮面で額から鼻下まで覆う人。

 空紀だ。頭と体形は近くの安い服屋で買ったフード付きコートを着用、顔は路上販売の木彫師に適当な仮面を作ってもらった。どっかの鍛冶師ほどの凝り性ではなかったのが幸いし、即席で最低限の要望を叶えてくれた。

 警備員は兜の下から訝しげな表情をさらけ出すも、止めはしなかった。正体を誤魔化そうとする客そのものは、営業内容から常連のように訪れる。怪しいというだけでは剣を向ける理由にならないのだ。

 店内にも警備員はいたが、受付まで平然と素通りする。受付嬢はプロもプロ、怪しい仮面野郎にも微塵の違和感を感じさせない笑顔で対応した。


「ようこそ鑑定館〝リーブラ〟へ。こちらは〝アルカノア〟で出展をご希望される方の、相談所となっております。本日はどのような商品を持参頂けましたか?」

「量と種類が多く、真偽も確かめてほしい」

「商品の完全鑑定と出展相談、上級鑑定士による判断が必要と思います。前金として銀貨十五枚頂戴します。よろしいですか?」


 丁度を払い、受付嬢の呼び出しを待った。奥からお帰りの客が二回、出入り口に向かう。一組目は巨体の冒険者集団、二組目は商人に見えた。どちらも複数人だったので、店を出てからの会話が『風』を伝ってくる。

 国が正式に認定しているオークション〝アルカノア〟。最大規模のそれが貴族などの上客を多く招いて行われるのは、周知の事実。商人の話しは出展物の額の予想と、そこからどうやって貴族との繋がりを得るかの予定だった。

 冒険者の話しは少し物騒な方向へ動いた。出展者としてオークションに参加する資格を得られれば、金持ちの顔を確認出来る。懐に困った時は()()()()()()()、と。

 店側への通報も考えたが、このくらいの浅知恵に国公認の店が騙されるとも考えにくい。もう少し情報を聞こうとしたが、時間切れだ。


「お客様、準備が整いました。こちらへどうぞ」


 部屋同士の間隔が広い。防音や盗聴対策だろう、『風』は緩めで良さそうだ。

 案内された部屋は鑑定士と一対一の完全密室。隣の部屋で待機している武装警備員は揉め事対応か、マジックミラーで姿だけは見られている。

 鑑定士は年配の老父、年月の積み重ねがちょっとした動作に表れていた。


「本日はご来店有難う御座います。それで、どのような品でしょうか」


 商品を置く事を前提された机だが、それでも全部を乗せられない。話せば空いた場所に敷物を敷いてくれた。遠慮なく鞄をひっくり返す。


「こ、これは……!」


 高級な店内で見るとどれも本物に思えた。ただの宝物未満が、元気一杯な鑑定士の手で選別されていく。


「行方不明になっていた〝聖母の微笑〟!家に飾れば家庭問題が解決すると、貴族夫婦の夢の絵画とまで言われた幻の!!」


 家族円満の御守りみたいだ。やはり貴族は政略結婚が主流なのか、絵に縋りつきたくなるほどの仲でも嫁ぐのは可哀そうである。


「ああ!?このフォルム!この材質!名匠〝戦育ちのクリッターン〟が戦時中に手掛けた石像、その未発表作品に違いない!!存命中にお目に掛かれるとは!」


 上手い猫の像にしか見えない。特殊な鉱石を使用しているのだろうか。


「なんとっ!?近年発掘され尽くし最早推測でのみ詠われる、〝西虚英知跡〟の特殊魔道具種〝幼玩(ようがん)〟!!保管先で起きた謎の火災で全て焼失したと諦めていたのだが……なんたる奇跡!」


 見た目は水鉄砲、しかも水を入れる穴が無い。玩具としてどころか置き場所も取りたくない、意味不明物だ。確かに燃えなかったのは奇跡かもしれない。


「お客様!鑑定に多大な時間を必要としますがよろしいでしょうか!!?」

「あ、はい。どうぞ」


 かの上級鑑定士様の興奮が収まりそうにないので、全面的に任せた。デジャヴ。




閲覧有難う御座いました。

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