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竜皇と魔王と獣王の話  作者: YY
ギルドと仲間と逃亡の章
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28/71

第二十七話

連投します。

 



 首都四日目。

 セチュアムなんとか外交官の屋敷で世話になったが、此処はそれ以上である。一月以上前だが外交官屋敷が清楚なら、こちらは華美と表現できた。

 首都の華やかさにマッチした外観、美しくも過ぎる事は無い。正に頂点に座る貴族の屋敷だった。


「アキ様でいらっしゃいますか?私こちらの邸宅管理を任されております、執事のセバスチャンと申します。旦那様がお待ちです、どうぞお入り下さい」


 鉄柵の門の前で豪華さに慄いていたら、これぞ、という執事に案内され始めた。目的は合っているのだが、初っ端から住む世界の差に着いていけない。

 豪邸訪問に宝石付きの指輪は逆に恥ずかしいと思い、指貫グローブだけの手を握った。汗を吸い取ってくれると期待して。

 心が落ちく間もなく、フーベルトゥス・スカリゲルが待つ部屋へ足を動かした。



 冒険者組合に多大な影響を与えた貴族フーベルトゥス・スカリゲルは、名実共に文句無しの伯爵家御当主だ。魔法国家に不可欠な魔法の歴史や未知に精通し、魔法古典による思考から国王に進言を許可されている。

 そんな大貴族様の家に御呼ばれしたのには、理由がある。無いとおかしい。

 昨日見付けた依頼書の内容を確認した後、店主に耳打ちするまでの距離である事が分かった。いくら『風』が高性能でも、人となりや腹黒さを短時間で知る事は不可能だ。しかし今回に至っては、少なくとも伯爵の心境を早々に取得する事に成功。

 恐らく偶然だが、伯爵はあの瞬間強烈な悲愴を抱いていた。

 おおよそ今の空紀では理解出来ない、心が持ちうる最大の悲しみ。消失の感情だ。


 心が軋む音、亀裂が走り破片が落ちる。


 この心の声に手を差し伸べたいと、思ってしまった。そして鎌をかけたのだ。

 スカリゲル伯爵にお目通り願いたいのですが、と。

 伯爵の情報が欲しいと書かれた依頼書を持ってだ。店主は疑問を持ちながら、どこか納得した。そしてアポイントを取る事が出来たのだ。まさか次の日にとは思わなかったが。

 店主は賢しい人間だ。あの依頼の主が貴族でも被害者でも、大貴族を嵌めようとする者の依頼書を貼り出すリスクに気付いたはず。やり方を間違えれば、双方から報復対象にされかねない。その危険を避ける為情報を流す渡りの役を買い、その内容によってどちらの側にも付けるようにした。

 甘い汁が大好きな人間だと、ナニカが肩から魔力を吸いながら教えてくれていたのだ。それが場合に拠りけりだと分かっていても、今回は利用する事にした。



 ギルドの監視が屋敷から遠ざかるのを感知し、『風』の意識を弱めた。新入会員候補が冒険者組合に力を持つ貴族に招かれたのだ、一冒険者では扱えない案件である。

 本部に入る所まで感知し、それどころではなくなった。


「こちらで御座います」


 ブラウンの重い扉、どう見ても応接室ではない。中を『風』で調べると、開閉不可の窓に伯爵と付き人が二人。滅茶苦茶警戒されている。ついでに天井裏に一人、忍者かと言いたい。

 あの店主からどう伝えられたのか知らないが、覚えてろ強欲店主。

 開けられた扉の隙間から、フーベルトゥス伯爵の感情の残滓が漏れる。防音にもなっているこの部屋は、思いの丈を叫ぶには良いのかもしれない。

 昨夜の心の音が鼓膜で響く。


「座ってくれ」


 偉そうではないが立ち位置は明確に、そんな一言だ。否は無い、正面のソファーに座る。注目の気配、汗が首筋に現れた。

 TPOを弁えない魔力の吸収に、緊張も吸われた気がした。


「……お初にお目にかかります、アキと申します。お忙しい所こちらの希望に応じていただき、感謝します。学が浅いもので、伯爵との対話に相応しい挨拶ではない事、これからの会話の無礼、先んじて謝罪します」

「いや、私の知る冒険者の中では上等な部類だ。しかし、察しの通り忙しい身でね。本題に入ってほしい……。私を殺そうとしている者の名は?」


 白髪に消えそうな茶色の頭髪に違和感を覚えながらも、考える余裕は無い。答え合わせだ。


「実行は元冒険者、後ろ盾にアルベルトゥス伯爵が」

「うむ、動機は?」

「怨恨です、お心辺りがあるかと。アルベルトゥス伯爵に関しては、口を挟むのも失礼と思います」


 一発屋を出たのが夕方頃、夜は秘め事を語る時間だ。怨恨と断言するだけの会話を昨晩聞けていた。伯爵にも『風』は広げているので、推察は出来る。


「此処には私達しかいない、貴方の意見を聞きたい」

「……失脚の目論見かと、邪推いたします……」


 内情を知り過ぎていると、貴族事情に巻き込まれかねない。上手く運ばなければ、有益な情報をさも偶然手に入れたように装う。

 実行犯の集合場所、アルベルトゥス伯爵との会合予定時刻。かなり有力な情報のはずだ、それが真実なら。


「うむ、悪くない内容だった。セバスチャン」


 指を三本立て、執事に何かの合図を出す。情報の報酬だろう。こちらから請求する前に用意させる所が、立場の境界を濃くしている。三本という事は金貨三枚か。十分だった。

 手渡された袋からは数枚の硬貨がぶつかる音、を明らかに超えている。どう持ち方を変えても、五十枚を上回っていた。

 口止め料か。そう考えなければ、裏付けも取れてないない情報にここまで払うとは思えない。

 それとも別の依頼料が足されている。


「実行犯達の更なる調査、偵察をお願いしたい。やってくれるね?」


 ナニカの囁きが聞こえる。フーベルトゥス・スカリゲルという人間の腹の底。

 憤怒、嫌悪、焦燥。冷や汗の数まで、ハッキリと。

 犯人達への怒りが存在しながら、同類である冒険者の協力を求めようとする理性への嫌悪。そして事態の先手を受け続けている焦り、危険は何時来てもおかしくないのだ。

 この部屋に来るまで、使用人と一人もすれ違わなかった。屋敷に直接乗り込まれる可能性も考えて、暇を出したのだろう。使用人の命まで守ろうとする姿勢には好感が持てる。

 それがこの男に入れ込む理由にはならない。例え()()()()()()()()()()()()

 袋から金貨を一掴みしポケットに入れると、残りを机に置いた。


「私如きには背負い切れぬ大役、謹んで辞退申し上げます」

「…………そうか。話しは終わりだ、退出してくれ」

「お時間頂き有難う御座いました、失礼します」


 付き人と天井に隠れた忍者の睨みが怖い、即刻の退場を試みる。

 静かな豪邸の廊下、執事は行きと違う通路を渡った。態々指摘はしない、伯爵夫人と旦那の合瀬を邪魔をする趣味も無い。

 帰りの廊下には貴族らしい、名画家に描かせた自画像が並ぶ。映像通信は出来るのに、写真は無いのだろうか。家族写真の代わりなら、廊下に飾らなくても。



 並ぶ絵の最後の一枚、空紀の心が初めて悲鳴を上げた。








 胸の内を燻ぶらせながら、外壁の外に出る。二つ目の依頼をこなす為だ。

 リストにある薬草の採取、なのに武器を取っていた。抜き身の刃物を自慢したがる、子供のように。


 〈魔力保有生命体、条件を満たす個体数十二、誘導開始〉


 内臓を引っ張る感覚に従い、木々の隙間を走る。突然の急発進にストーカーらの実力が割れた。

 可笑しな魔法でこちらの『風』範囲外から、視線を固定する視姦魔は変わらず。この変態とも悲しい事に長い付き合いだ、そろそろプライバシーを善処してほしい。

 ギルドの監視は人が変わっている、この速さになんとか付いて来ていた。大貴族との面倒事の種から一瞬も目を離してたまるかと、ストーカーに力が籠っている。

 屋敷から付きまとっている忍者は、隠密特化と思えない足の遅さ。十秒と保たず標的(こちら)を見失うだろう。

 勇者の街から脱出して首都に入りようやく一人になれたと思ったのに、気付けば時間と共に変態が増える始末。苛立ちに身を委ねたいと考えても、被った視線の量から見れば正常な行動だ。

 相手は選んでいるので、滅多な事は無いだろう。八つ当たり先がいた。


 シャアアアーーーーーー!!!


 目を飛び出たせた蜥蜴(とかげ)が、舌を使って威嚇する。これが大の大人並の体躯でなければ、微笑ましく見守れたかもしれない。

 威嚇の相手は蜥蜴の二倍はあろう蛇。タイマンなら蛇が勝つだろうが、三対九で数は蜥蜴が有利。縄張り争いか、生存競争に異論は無い。

 事情はあるだろうが、弱肉強食の世界だ。

 それぞれの種族が潰し合い()()()()()()()()()()ので、三つ巴の先陣を切った。噛みつこうと牙を見せた蜥蜴の首を刎ねる。着地付近の蜥蜴を更に一匹斬り殺した所で、冒険者らしい人対魔物の戦いとなった。

 唸る蛇の尾を剣で斬る、落とせなかった。鱗の固さはあの竜擬き程ではなくとも、工夫が要る。

 それでも魔物の斬り方は、ゴブリンで散々試し


「---ぅああああああっ!!!」


 魔物の返り血が髪に跳ねる。目を逸らしていた本当の苛立ちに、自ら嵌ってしまった。

 廊下に飾られていた絵画の最後の一枚。追加で依頼を請けさせようとした伯爵と夫人、そして子供の姿が描かれていた。なんてことない、平和な家族を写している。愕然とした。


 子供の姿はあの地獄で首を落とされた少女によく似ていた。

 今左手の人差し指に指さっている深藍の宝石を、身に着けた絵。


 心臓が早鐘を打ち、動揺を隠せなかった。自覚したあの時の感情に、口が回らない。



 そうか、これが『絶望』だった。



 地獄での出来事が、冒険者空紀を形どっている。その根本を忘れかけていた。忘れたかった。

 あの絶望があったから、冒険や竜と理由を作って自分を見つめ直しているのに。


 蜥蜴の尻尾が踏み込んだ足を掠る。態勢を崩した所へ、蛇の突進で転がされた。一斉に牙を剥く。


 情けない。


 口の名に剣を突っ込む、内側から蛇の脳天に刀身が生えた。痛みと気色悪さを無視して、生の蛇を使った鞭を振り回す。ばらけた、後は早さ勝負だ。

 固まる前に一匹づつ殺していく。あのゴブリン達と同じように、急所だけを全力で。

 二十五秒後には空紀にとって人生二回目の、地獄の中心に立っていた。吐息が血臭に溶ける。


 人形ではないのだ、心が動く事を拒否するなんて。

 記憶が無い事に甘えていた。


 ナニカが足首に纏わりついて、歩行を邪魔した。顎を引くと奇跡的に、踏んでもなければ血痕も無い植物。依頼のリストにあった気がする。偶然の産物に笑いが零れた。

 本当に空紀は運が良かった。生きている事は言わずもがな、出会いも友も魔法も絶望の中にすら、世界から贔屓されているのかと考える程に。神様とやらが存在するのかも、論議の余地が出てきた。


 はい、反省終了。


 結局は空紀がどうしたいかなのだ、決まっていたが改めて。

 冒険者の大先輩〝ディフェリーブ〟に、魔物の解体方法の基本を教えてもらっている。爬虫類系は初めてだが、全ての魔物は血抜きがちゃんとされてさえいれば大失敗にはならないらしい。首を切られて絶命した魔物は逆さに吊るし放置、長いロープが役に立った。

 五メートルはある蛇を持ち上げる。


「あ、いたたたたたあぁ!!」


 突進されたのを痛みで思い出した。アドレナリンの負傷隠蔽スキル高い。

 鞄から出した魔法薬を飲む、草の味をミントで誤魔化したような液体だ。お世辞にも美味しいとは言えなかった。代わりに効果は十分、肋骨の違和感は消えた。

 薬草の採取も順調、残りは帰り道から探して取る。空が赤くなってきた。


 臨時収入も入ったので、明日は休もう。

 この世界で初めてのお休みである。楽しみになってきた。


 軽い足取りで首都に向かう空紀、返り血を忘れてしまう程浮かれていたらしい。門番に止められて慌てて拭いた。




一旦投稿を切ります、閲覧有難う御座いました。

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