第二十三話
投稿します。
混じり物の火の粉と、人々が躍る。手拍子以外合わない踊りを、各々好き勝手に振舞っていた。
恐怖の去った安心と、戻って来た明るい未来に笑顔を浮かべ、飽きもせず回る。
「いやあ見事なもんだった!あのキメラとかいう化物の脳天に一発、是非その腕を見込んで手合わせ願いたい!!」
「彼女が開いた勝利の隙に入り込めたに過ぎません。それでもお褒めの言葉は嬉しく思います、手合わせはこちらこそ頼みたい!あの合成獣を転がした剛腕、胸を借りようかと」
「ヴィブはウチの護衛なのであまり動けなくされると困りますが、鍛えていただくなら願ったりです!貴方もスパイラル商会の正式な護衛ではないとか?どうです、バンハット商会に雇われませんか?」
「お気持ちは嬉しいのですが……」
祝杯の場に酒は付き物だ。酒精が体内に侵入すると、大半の人間の口が躍っている人よりよく回る。いつもは言葉を選ぶ会長も反射で話しをしているし、ヴィブに至っては普段の倍熱い。同時に話し掛けられて嫌な顔一つしない騎士には、感嘆を覚えないことも無かった。
肉を幾つも抱え踊りにも加わる豪狼の行儀悪さに、誰もが気にしない程盛り上がっている。強い酒を断れないまま飲んで倒れた矢背の顔が、上った血異常の赤で照らされていた。
忘れるように、忘れないように。山となった魔物のよく分からない残骸は、煙に紛れて天へと散る。
やり方は違ってもどの世界だろうと、別れの儀式は心を厳かにした。
物語のような戦いを細部まで記憶したディランドルの報によって、村人率いる商隊は村に戻った。喜び感謝する村人らの助けを借り、合成獣の解体・処理を行う。死体となったコレを放置して、どんな影響が現れるか分からない。魔物が寄って来る可能性もある、大人数の助けで早々に済まされた。
六人を除いて涎を垂らし眠りこける敵をしっかり縛り上げ、事件の真相を問い質す。頬を大きく腫らした魔法士は、叫ぶ。
「ほ前達は何も知らはい!!!始いまり終わる聖戦の意いを!!あの竜のほんはいも!!貴様らは知らふい死ぬ!!我わへは神の純真はるしもへえ!!!」
聞き取りにくい。リンリーが口笛を吹いて目を逸らす、仲間からの冷たい目線は続いた。
「神よ!!蛮ひょうを許すあ!!どうか愚かもろに断罪ほお!!!」
発言者と騎士以外真面目に聞けなかった。
内容の分からない言葉しか吐かなかったので、尋問は中断。村の復旧が優先された。建物に被害は少ない、精々合成獣の通った跡と敵が家財を投げた時の破損程度。取られていた物資は無事戻り、やる事が無くなれば流れは自然と祝いに向いた。
女性陣が料理を用意している時、功労者という理由で追い出された空紀とリンリーも、解体された合成獣の周りの群れに交じる。目利きの商人の眉間は険しかった。
「この胸骨は、マウントマンの骨だ!?こっちの背骨はもしや岩錬蛇の!?どちらの魔物も単体で特A認定されている魔物だぞ!!」
「見ろ!!尾の肉は十や二十は下らない魔物の肉の混ぜ物だ。戦った奴らが動かなかったと言ったのも分かる、これはただ竜の尾らしい外見を無理矢理作っただけだ!」
「皮は継ぎ接ぎでも、鱗は一枚づつ加工した鉱石です!加工屋と鍛冶師が何人居れば、これほどの数を用意出来たんでしょう?」
「一体こんな魔物を、何の為に……」
この場の疑問は、そこに帰結する。何の為に。
知ってそうな魔法士は狂ったように断罪がどうと繰り返しているし、他の者は明日まで目が覚めない。今やれる事は、報酬分配くらいだ。
スパイラル商会と名乗った夫婦商人は、騎士を雇っている者として討伐の報酬を何割か貰う権利が有る。お世話になる身だからと控え目に申し出た分配率に、会長が提案した。お得意の利益が出る取引だ。
「このような惨事に見舞われた村を、早々に去るのは心苦しいと考えていました。そこで、合成獣の好きな素材を全体の三割選んで頂き、その分ウチの商会と手を組みましょう!」
「手を、組む?」
「そうです!予定では早くて五日後に、我が商会の本隊が村に着きます。紹介状を書きますので、それまで村を護衛し本隊と素材の運搬も頼みたいのです。素材は全てを運ぶのが困難なので、本隊と別けて運搬しますが、竜すら恐れない護衛が就いて下さるなら安心です!」
豪狼は忘れているが、あの騎士は護衛(仮)なのだ。他の人に聞かれないように相談すれば、五日くらいならと引き受けた。スパイラル商会としても、大手バンハット商会と繋がりが持てれば商売に光明刺す。
後者の理由を分かっていて提案したバンハット商会長は、満面の笑顔で三人と握手した。
後から聞いた話しだが、商会長にはもちろん裏の考えが在った。特別な素材が使われていた合成獣、上手く売るには合成獣の存在を広める前でなければならない。噂という体で合成獣の危険性は知らせるが、既に色々使われた後の素材と知られては価値にケチが付きかねないのである。危険を知る者が多い方が噂は早く広まるので、夫婦に口止めは出来ない。なら首都に入るのを後ろにずらそうとしたのだ。
あんな出鱈目な魔物が複数作られているとは考えにくいが、これからも作られないとは断言出来ない。
儲けを出した後、噂が二つの商会と有名な冒険者組から首都の耳敏い連中に伝わる。少しでも見回りをする軍や、外に出る商人・冒険者達の助けになれば良し。
そこまで考えた会長の取引に空紀達は引き、〝ディフェリーブ〟は慣れろと苦笑した。
黒い腹に酒を流す商会長。奥さんが居る本社では飲み過ぎると怒られるそうで、この場の誰より嬉しそうに飲んでいる。もしや外に出て直接取引するのはそれも理由の一つなのか。家庭事情に首を突っ込むのは止めた方がいいだろう。折角親子仲も深まったのだ、無粋である。
良い子のゼルキンは商会従業員の、あまり飲まない人の近くで寝ていた。父に敵を倒す力は無い、しかし敵に怯まない強さと生き残る術を持っている。それは紛れもなく尊敬に値すると、目を輝かせて空紀に語った。ゼルキンの現時点での将来設計は、髪一筋の揺らぎも無いだろう。
雨降って地固まる。そっちの問題は大団円だが、まだ固まらない地面もあった。
ルフェグは地面に何かを書き独り言を呟いているし、ディランドルは見張りをしているがリンリーも居るので警戒態勢は全く維持されていない。
仕方なく果実酒をチビチビ飲みながら『風』を広げていると、真っ直ぐ近付く見たくない美形が。
「横、良いだろうか?」
「駄目」
「では失れ、えっ!?いや、その……話したい事があるんだが!」
「知らん」
甘くても酒は酒、言葉が審議の場を素通りして排出される。投げやりに対応していたら、二歩離れて勝手に喋りだした。
「もう一度君達を誤解していた事、謝罪したい。本当にすまなかった」
話す気は無いと言ってあるので無視。騎士も学習したのか、返事を待たない。
「お……私はある貴族に身を立て、恩義に報いる為騎士となった。その責任感に追い詰められ、冷静な判断もやるべき事も見失ってしまった。正しくあろうとする、その難しさを根本からはき違えていたんだ」
「…………は?」
こいつは今「恩義に報いる為」と言った。正しくあろうとしているとも。
つまり正義ある行動は、ただの真似事だというのか。自分の意志では無い、というのか。
胸中に巣くっていた嫌悪が、違う何かと溶け合っていく。
一目見て覚えた衝動は、自己嫌悪だったのだ。
記憶が無く、感情も夢も手探りの空紀。
居場所を得て、存在理由を求めた騎士。
「……騎士になったのは、不可抗力だった?」
「え?いや?自分で決めた道だ、後悔は無い。養父母も喜んでくれたし、私は運が良いと思う」
「運が良い?」
「拾われたから死なずに済んだ。これほど幸運な事は無いだろう?」
思いだす、今の己の最初の記憶。
命の赤が散り、地獄の色が頭を染める。
あの惨劇に空紀が巻き込まれなかったのは、幸運と言わざる負えない。
目覚めるのがあと少し遅ければ、才能がゴブリンに有効ではなかったら。
夢にまで現れた、最悪の結末。
生きている事に、この幸運に感謝を。
半分は有った酒を一気に呷る。心配の声を聴き流し、一息ついた。
謝ろうとは思わないけど。
「空紀」
「……あ、き?」
「私の名前、運が良かったね。お互い生き残って」
「……ユーストス!俺は!ユーストス・ミュゼルバルギィ!!」
「そう、宜しく」
ユーストスとはこの村で別れる。寂しいとも惜しいとも思わない、縁が切れぬ限り再会はあるのだ。
忘れなければ、忘れたいと思わなければ。
「あ、良い事考えた」
翌朝、早くに村を出て向かったのは山賊達の住処だ。ヴィブとリンリー、ユーストスに付いて来てもらい昨晩の思い付きを話した。
「山賊達に村を守らせる!?正気!?」
「うむ、俺もどうかと思うのだが……」
住処の出入り口前で、山賊もヴィブ達も渋い顔だ。ユーストスは静観の構え。
「山賊達の言う危ない商人だけ標的、て話しを私は信用してます。でも学の無いこいつらの判断基準には不安を感じてるので、村の防衛強化を兼ねて村人と協力出来たら良いなと」
「うおおおおおお姉貴が信用してるってよお前ら!!」
「「「「「おおおおおおっ!!!」」」」」
「学が無いって言われたのはいいんかい!!?」
リンリーの言葉が届いているかは怪しい。
数日は戦力が村に残るので、どうしても上手くいかなければ始末は任せられる。ここまで気にするのは合成獣の件だけが原因ではない。嫌な気配をさせる山を見た。
「『風』の情報しかありませんが、あの化物山は危ないので常駐戦力は必須かと」
「危険という意見には私も同意する。可能なら村を移動するべきと進言したいが、あの事件の後にそれは酷だと思う」
予想だが、あの山で竜擬きが作られた。禍々しい気は材料に狩られた魔物の怨念、無念の魂が土地に深く染みついたからだろう。濃過ぎて判別は難しいが、魔物以外の材料も混じっていたかもしれない。
他にも何か作られた可能性がある。村の強化は必要だ。そこまで山賊の戦力に期待はしてないが、村人だけよりはずっと良い。定期的にバンハット商会が通るなら、悪さをしていても長くは続くまい。
お試し期間が有り会長が許すならとヴィブ達は了承、褒められたと思い込んでる山賊は諸手を挙げて賛同した。村人にも話さなければ。
「その前にお前ら、恰好を直せ。一目で山賊と思われないようにしろ、それから……」
「それから……?」
「姉貴って誰だ殴るぞ」
「「「「「コギエ・ルゴーム!!」」」」」
ユーストス曰く、この世界の最上級の了解の意。軍人から貴族まで使用する、意見の同意に使用する事もあるらしい。
陥没した地面は残っているので、『殴る』は殺すとほぼ同じ意味になっている。別に殺すつもりは無いが、分かってくれればいい。
空紀とリンリーのファッション審査に山賊が合格し、下山出来たのは昼直前だった。苦労したおかげで、村の炊き出しに元山賊達は自然と溶け込んでいる。
化物山は話題には上がるも、誰も近寄らないという結論で終わった。異論は無い。
あそこは命を捻じ曲げる、黄泉の入り口。
二度とあの合成獣のような命が生み出されない事を願う。
村の防衛は強化され、憂いは無くなった。
旅の再開である。
「またなああああああヤロウ共おおおおおおおおお!!!」
「またなあああーーー!!!」
「ぼすうーーーーーー!!!」
「「「「「ボスーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」
「………………おい誰だ、ボスなんて呼び方アイツらに教えたの」
「……豪、豪狼、君です」
聞いといてなんだけど知ってた。
豪狼と山賊達による、大声大会のような別れ。似た者同士で気が合うのだろう。村人が引いているので、豪狼は魔物の群れを見つけたら投げ入れよう。
青筋が浮いているリンリーとルフェグも、多分手を貸してくれる。大声に同調しそうなヴィブは、仲間二人の様子に気付いたディランドルが体を張って止めていた。
締まらないお別れだが、涙が要らないのに変わりはない。
首都まで後僅か。商人夫婦の手を振り返し、ユーストスの視線を切る。
待っているのは何か、期待に胸を躍らせて。
千里の道を、走り、跳ねた。
閲覧有難う御座いました。




