表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜皇と魔王と獣王の話  作者: YY
道中と唯一と合成獣の章
PR
21/71

第二十一話

投稿します。

 



 騎士は腰回りの鎧と籠手だけを着け直し、夜の森を走っていた。泣き崩れて懇願する少女を想いながら、歯を食いしばって村を目指す。


 身近な人間を失う恐怖。見ないふりは出来ない、この世界に実在する不可避の痛みだ。自分一人では決して消し尽くせない。

 手が届く範囲だけでも守る、自分が騎士として在る為にも。


 加速する足は、地面を削るように止まった。


「誰だ!?」


 自分が走って来た方向からの魔力反応。偵察に行ったという冒険者を探している敵なら、倒さねばならない。災厄の撲滅が、あの少女の不安を溶かすただ一つの方法だ。

 騎士の剣が半裸になる。魔力は濃さを増した。


「これには気付くんだ。その感知が働く条件、なんとなく分かってきた」

「きっ君は!?」


 山賊が拾って返してくれた鉈を持ち、空紀は木から降りる。どうせなら兜も被ってほしいと思いながら。


「もしかして、村を救う手助けをして」

「そんな訳あるか」
















「少しいいですか?」


 移動の準備を終え、手の空いた従業員が集まってくる。会議の流れを知る者が小声で情報を共有しつつ、会長の命令を待っていた。


「もう一度偵察に出させて下さい、今度は私が行きます」

「なっ!?無茶だ!!敵の中にはルフェグ程じゃないにしろ、魔法士が五人は居た!魔法士には魔力の感知に長けた者がいる可能性が高い。もし見つかれば、ここの存在が露呈する事もあり得るぞ!?」

「俺も多少魔力を感知出来るが、その危険があるから()()()()使()()()()()()()()()?」


 やはりルフェグも感知の才能があったらしい。『風』を展開した際のルフェグの反応を知っていたので、驚きはしなかった。まさか優れた魔法士でもないのに、その能力に長けた者がいようとは考えなかったが。


「……ミュナさん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()直してもらってもいいですか?」

「へ?はい!」


 会長の後ろにある馬車を指し、女性従業員に頼む。横向きになっているので視覚では確認出来ないが、完全に閉じられた幕を潜り、ミュナは毛布を掛け直した。

 この旅で幾度も活躍した魔法を、現在使用中だと証明されルフェグは目を丸くする。


「馬鹿な!?確かに魔力は体内から放出されていない、どうやって!?」


 魔力の使い方を変えて色々試しながら、状況を理解したうえで詳細を求む者へ向く。

 筋肉自慢のヴィブや馬鹿の豪狼のような、理解の追いつかない者は放っておいた。


「この魔法は使用者の感覚を広げるのではなく、目に見えない()()()と魔力で繋がり情報を得る。ナニカはどの空間にも存在している、魔力を持った情報体。あるいは精神体。その存在と繋がる事で一時的に魔力の波長が同期、感知が出来なくなった、と思う」

「それは……!?まさか、空論とされていた魔力情報子!?いやない!!魔力そのものに情報を保有する力は無いと、先生が十年以上前に発表した!在り得るとすれば……。生命や肉体の情報に酷似した魔力が重複し融合!動いていると物理法則を誤認させて命とする、疑似魔力生命体?そんな!!その現象が自然に発生する確率など……」


 物凄く喋りだした〝ディフェリーブ〟の頭脳担当。メンバーは慣れているのか、苦笑いで目を背けた。


「えーっと、つまり。俺の時より遠くから偵察して、安全に情報を取ってこれるってこと?」

「はい。それに早くしないとあのバ、護衛が竜に斬りかかって騒ぎを大きくします」

「そうか!ただでさえコレが偵察失敗してるんだ。あの美人がどうなっても、襲撃者なんて来たら奴らも本格的に捜索を始めちまう。ここに留まってちゃ危ないよ!」

「コレ、はないぜリンリーちゃん」

「ちゃんは止めろ!」


 リーダーの予想ではこの二人、デキてるらしい。信憑性が出て来た。


「行くにしても戻るにしても、情報は必要です。安全の確保には十分気を使います」


 組んでいた指を解き、会長は皆を見回した。腹の座った表情に、従業員は傾注する。


「ここにいる人達の、命と未来を犠牲には出来ない。しかし……!」


 顔を上げた少女の瞳から、涙が零れた。


「これまでの我々の命と未来が守られてきた事実の裏に、我々の努力と彼らの尽力が在った事を、忘れた日は無い」


 会長の背後にある馬車内側から、幕が捲られた。空紀とミュナだけが気付く。


「やれる事はあるはずだ!何もしないなんてことだけは、あってはならない!これは情報と決断の速さが生死を分かつ、なら商人の出番だ!」


 傷を抱えた狩人が笑い、重戦士と魔法士が頷く。女戦士は少女の肩に手を置き、置かれた少女は嗚咽を抑えられなかった。

 感謝の言葉を呟きながら、地面に感涙が啜られる。

 少女はやっと安心したのだ。


「さあ!みんな仕事だ!我々の未来を助けに行くぞ!!」


 拳を手の平に叩く豪狼と、震えが激しくなる矢背。

 空紀は終ぞ、感情で心臓が高鳴る事は無かった。

















 美形に合わせ地面を走る。陽が昇る気配は無い、この速度なら村まで約十分。


「アンタを助ける計画は立ててない、危なくなっても助けに行かない。そんな余裕無いから」

「それはいい、作戦はあるのか?」


 自己犠牲精神、ここまでくると吐き気も通り過ぎた。


「……村への襲撃は昼間だった、つまり竜も人間と同じで夜目が利きにくいのかもしれない。なら夜が明けるまでに村人を連れ出せれば、逃げ切れる」

「消耗した村人を連れて逃げられるのか!?襲撃から半日近く経過してるんだぞ!」

「馬車の積荷を隠して、何人か乗せられるようにする。村の人数は大体把握してるし、逆走していれば本体の商隊と合流して、もっと速度を上げられる。アンタがやられに行くのは止めないから、出来るだけ竜を村人から遠ざけてほしい」

「二十人を超えていると聞いた、大丈夫か?」

「玄人冒険者がいる、村人の脱出がどうなるか」


 不謹慎だが、村人の数が減っていれば成功する確率は上がる。迅速な行動と情報の精密さが、救われる人の数を決めるだろう。


 敵と村人の状態、竜の情報を確認出来る距離まで近付けた。身を潜めながら集中する。

 美形、もう十歩ぐらい離れてくれないか。


「敵は十五人、竜は全長……三階建てくらい。鎖の付いた首輪をしていて、端を持ってる男、杖がある魔法士か?村人が二か所に分けられている、敵に連れられた女五名を含めて……人数は聞いた数と一致」

「連れていかれた女性は無事か!?」


 豪狼と違って一応小声を意識している、流石に馬鹿にし過ぎだろうか。


「食事の世話や接待だけ。苛ついてはいるけど、奴らに乱暴する考えは無さそう」

「そんな事まで感知出来るのか?」

「表面的な様子で判断してるから、過信はしないで。私は商隊が位置に着くまで、ここで監視する。あんたは村が肉眼で見える所まで行った方が良い」

「了解した。作戦開始時には連絡をくれ、互いに武運を……」


 走ろうとした動きが不自然に止まった。


「……聞き忘れていたが、君の名を教えてもらえないか」

「は?」


 大分厳つい表情で聞き返してしまった。悪意の無い言葉だと分かっていても、この理不尽な怒りが口から垂れてしまう。

 相手には悪いと思ってはいるが、ここで言わなければ()()()()()()()()()


「私は王国騎士」

「言わなくていい」

「え?」


 本当は見たくもないのだ。存在しないでくれ、平静な会話で終わらせて、いなくなってくれ。


「この件が片付いたら、話す事も無い。精々竜の足を引っ張ってよ」


 村に向かう様子の無い騎士に、空紀が逃げた。嫌悪が原動力の行動は、口の中を酷く苦くした。






 息が白い空紀は、薄いグローブに包まれた両手を摩る。この気温で過ごすには、節約重視の防具では物足りない。そう思ったのは一人だけらしい。魔法使いみたいな長いローブを着た矢背はともかく、他の人は防寒の類をしていなかった。ヴィブなんて捨てるように上着を放り、力こぶまで外気に晒している。

 空の端に色の変化が現れる。魔法薬(ポーション)で動けるようになったディランドルが、最終偵察から戻って来た。リンリーの目尻が上がる。


「村人とその周囲は一時間前と変化無し、竜が北口らへんで寝てる。近くには魔法士一男剣士三、見張りの位置も変わらず。侵入路も脱出路も確認した、何時でも良いぜ会長」

「分かった、作戦を始める。ディランドルは馬車を頼む」

「あー……はい」


 実はまだ安静が必要な負傷兵、近くの馬車へ歩く。肩を落としたその男を、リンリーは追いかけ一分後戻った。敵が目前で『風』を使用中の為バレバレなのだが、細かくは語るまい。言える事は、お幸せに、くらいである。


 作戦が開始、しばらくはハンドサインで合図を送る。会長のゴーサインでこの場の三人、空紀とリンリー、ルフェグが駆け出した。山の多い村には無くてはならない石壁を越え、静かに村へ入る。

 壁越えに手こずるルフェグに手を貸し、無人と分かっている小屋に潜入。


「気を付けな、無茶すんじゃないよ」

「はい、行ってきます」


 この時点で空紀が単独行動、簡単に言えば暗殺だ。しかし流石バンハット商会、良い物を積んでいた。強制睡眠薬〝グッスリン〟、人肌で気化し直接吸っても効果がある。寝ている者に吸わせれば、一日はどんなに煩くても起きないそうだ。人殺しは抵抗があるので助かった。

 見張りを交替して寝ている者を三人、用を足しに席を外した男を一人、後十人。ディランドルが報告した二十人と空紀が報告した十四人の差は、既に調査済みだ。今昏倒させなければならない人数が十四人である事は間違いない。

 残るは外の見張り二人村人に四人、もう一カ所に四人。予想以上に暗殺擬きが上手くいった。小屋に待機している二人に作戦の成功を伝え、ルフェグが窓から杖先を出す。矢背の杖と違い宝玉のような物は付いておらず、五十センチ程度の白い杖。


「始めるぞ」


 磨かれてつるりとした杖から、村の外のある男へ水球が三度放たれた。魔法生成物が向かってくれば必ず気付く、と豪語した男に送る『死ね』の合図だ。

 知覚する。竜へと一直線に向かう、馬鹿の存在を。ついでに近くの敵も相手してくれそうだ。


 ギャアアアアアアアアアァァァーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


 魔物の断末魔にも聞こえるが、実際は竜の雄叫びであり救出行動の鐘でもある。

 次の空紀達の役目は、村人の安全確保だ。作戦通り、見張りは竜の叫びに動揺し持ち場を離れる者や、右往左往するだけの者に別れた。竜の方へ行った敵は、()()()()()に任せておく。

 死んでほしいとまでは思っていないが、嘘だ、少し思っているが人死にを是とするほど、世界に流されてはいない。脳内のゴミ捨て場に行く前に、騎士の無事を祈っておく。

 忘れられない記憶が出来た。思い出したい記憶があるのに、場所のとるモノができてしまった。

 垢のようにこびり付いて、新しい感情と共鳴する。


 私は誰だ。

 アイツはなんだ。




閲覧有難う御座いました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ