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竜皇と魔王と獣王の話  作者: YY
道中と唯一と合成獣の章
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18/71

第十八話

投稿します。

 


 太い根の天井を抜け、木々に紛れた。狙われている。

『風』が反応した方角を切る為、体勢を低くし身を潜めた。感知に全神経を使う。

 対象は人間、数は一。何らかの手段で空紀を監視、もしくは捕捉している。心臓を貫かれたと思った理由は、その気配が突然濃くなった感覚を、『風』が空紀に直接伝えたからだ。

 今までの気配とは格が違う。少し、ほんの少しだけゴブリンと似ていた。が、強さは恐らく段違いだろう。経験が薄い頭で捻り出せた例えは、戦場の兵士が近い。他人の血肉を知っている、命の消し方を知っている、そんな気配だ。

 人相や敵意を確かめたいが、いかんせん遠過ぎる。魔力の使い方が分かれば、もっと詳細を掴めるかもしれないが。


「やってみるか……?」


 方角は分かっている、大きい木でその気配を遮り座り込んだ。正座は足が痛い、あぐらをかいて目を閉じた。

 もし魔法か何かを撃たれれば、逃げられないだろう。しかしその行動の予兆をいち早く察知出来れば、座っていても避けられるはずだ。

 魔力の流れを、思考の伴った動作を。実体の無い『風』に、常識は存在しない。

 感覚を掴めると信じたら掴める。

 空紀が広がる、否、繋がる。

 不可思議なモノと全身の神経が、無数の糸で繋がっていた。体内の魔力が、その糸をより強くする。


 感覚の糸が()()()()()()()と繋がっている?


 ナニカは小さく儚い、だが星の数に劣らない。魔力を意識する事で、不可視の存在を捉えた。

 その存在が気配の正体に迫る。


 〈北東より急速接近体、諜報開始〉


 術者の意識外で、魔法範囲内の異変を『風』が自動対処しだした。その感覚が頭の中で勝手に言語翻訳される。

 不快ではない。むしろ安心すらしている。頼り、命を預けられると、抱擁感が『風』を加速させた。

 接近体は周囲を警戒し、一定の速度でこちらを目指している。

 姿の見えない敵を捉えるか、近づく敵を迎えるか。あまり迷っていられる時間は無い。

 どちらにも敵意がある。となれば、目先の問題を先に取り組むべきだ。

 戦闘行為可能な場所を探す。接近してくる敵は、移動する空紀に矛先を合わせていた。完全に位置がばれている。逃走は困難。

 山の頂上を目指す道とは垂直に、中腹を回るようなゆったりとした道。そこで止まる。

 姿の見えない敵は相変わらず、不可解な視線だけを寄こし攻撃はしてこない。しかし接近体と戦闘になれば、その敵意に便乗する可能性はある。少しも油断できない。

 自然と『風』は二つの敵を優先度に沿って調査、接近体の情報を追記する。

 人間の男が一人、金属の全身鎧を装備した両刃剣持ち。魔力の反応が信じられないほど薄く、魔法の使用は無いと断定出来た。身体能力が高く、かなりの健脚。

 視認距離への到達まで、後四秒。

 ザッ!

 大股なら五・六歩の距離で、そいつは止まった。近い、接近戦しか考えていない距離だ。

 この魔法(ちから)を持ってから初めての未知の敵、運命の出会いを匂わせる占いの言葉。複数の要素が胸を締め付けた。心臓は体を大きく揺らし、血管は血を捲くし立てる。

 空紀は()()していた。

 もう一つの目(まほう)では見なかった姿が、目に映る。


 それはこの世の者とは思えない、山嶺の存在だった。


 神が作っても、ここまではいかないだろう。

 完璧な造形を飾る漆黒の錦糸、それは星光瞬く夜の髪。透けそうな純白の肌に、僅かな薄桃が乗る頬と唇。

 なによりも、相手を離さない灰色の瞳。

 存在が数多の性を魅了する、完成された人の美。

 興奮と好機心が限界を超えようとしていた空紀は、想像を軽々と超越した美貌を前に数度瞬くと


 吐き気を耐えるようにそっぽ向いた。



 これが『嫌悪』か。



 理由は無い、ただあれを拒絶したかった。あの存在がこの世にあるという事が、信じられなかった。

 強いて言えば、()()()()()()

 記憶は相変わらず戻らないが、昔美形になにかされたのだろうか。トラウマのような衝動が、全身を離さない。


「……この魔法はお前か?」


 話しかけられたーーー!!?


 当然ではあるが、全然心の準備が出来ていない。自然と返答は無言になる。


「隠しても無駄だ。魔力の感知には、少々自信がある」


 美形の言葉が本当なら、他人の魔力を感知できる者が一定数居る事になる。おそらく感覚器官の才能は魔法と同様、潜在能力に依存しているのだろう。

 もしそうなら、『風』は諸刃の剣だ。感知能力は高いが、こちらの存在を相手に知らせてしまう。考えて使用するか、対策を講じねば。

 相変わらず口を開かない空紀に何を思ったのか、美形が話し始める。


「なるほど、この範囲内の人や魔物の動きを把握出来るのか。珍しい魔法だ。それを悪事に利用せず、軍やギルドで活用しようと何故考えられなかったのか、理解出来ない」


 内容が空紀との齟齬(そご)を感じさせる。釦の掛け間違いのような、互いの持ち情報がずれているような。

 しかし心の準備がまだ終わっていない。話しはどんどん底に落ちていく。


「薄汚い盗賊に同情の余地は無い。盗品を返してから斬られるか、斬られてから返すか、選べ」


 この美形、堂々と私刑宣言しやがった。


 国に所属していないなら特に責める理由は無いが、鎧の左胸に国章が描かれている。軍かそれに類する組織に所属していると見て良いはずだ。もしかして法律で犯罪者の命は保証されないのだろうか。


 国章は勇者の街で三無瀬(みなせ)由華(ゆうか)先生に教えてもらった。魔法の本に描かれた王冠、取り囲むは戦争と文明の歴史を絵柄にしたもの。とてもじゃないが見ながらでも綺麗に描けそうにない。複雑な過去をそのまま形にしたような、凝り過ぎている国章だった。


 犯罪者扱いされている事にも遺憾であるが、犯罪者に見えると言外に言われていることも憤慨である。

 否定したいが吐き気が中々収まらない。それに盗品という物が、魔法鞄の中に今入っている可能性が高い。つまり物証という話しになると、空紀は犯罪者に認定されてしまう。

 複数の気配を感じる、『風』に頼る必要も無い。

 痛感した、事態が転がり落ちていく。

 何故か美形は兜を取り出し被る。何故今更、むしろ何故脱いでいたのか。顔が見えなければ、吐き気も起きなかったかもしれないのに。


「頭領!どうしたんですかい!?」

「ああぁん!?てめえナニモンだこらぁ!?」

「ウチの頭領に何しやがったんだごらぁ!?」

「変な恰好してんじゃねぇぞこらぁ!!?」


 最後、なに当然のように山賊の仲間入りしてるんだ豪狼。それと誰が頭領だ。


 胸中で本音が止まり、現実に関わる機会が失われていく。誰もここで吐きそうになっている人に気付かないでいた。


「盗賊共が、悔い改めないならこの剣の錆にしてくれる!」

「舐めんなよてめぇ!こちとら信念ある盗賊だこらぁ!!」


 説得力が無い。服装も態度も品性も、彼らを凶悪な犯罪者たらしめている。

 一触即発を飛ばして、戦線は開かれた。顔を隠した美形が、月光を反射させながら剣を抜く。山賊と豪狼が、得物を構える。

 吐き気と苛立ちと不安とその他諸々、心労が重なって人生最大の力強い拳が作られた。

 上空に跳び勢いを付ける。





 ドオオオオオオォォォン――――――!!!!!!!!!!






「静まれ」


 双方の足先で挟まれた、拳墜落の跡。山を越え森を超え、衝撃音が鳴り響いた。

 “重覚魔法”も魔力操作の賜物か、効果が上がっている。拳が対象と接触する際に生じる抵抗力を『重さ』とし、魔法効果領域に取り入れた。武器の重量に頼らなくても、今後は戦闘を行えそうである。

 左右で得物を掲げ聞く耳を持たなかった男達に、話し合いの場を提供出来そうだ。

 地面に八つ当たりしたおかげで、吐き気は大分治まった。顔が見えないのも大きい。


「まず。私は盗賊じゃない。こいつらに襲われてちょっと反撃はしたけど、それだけ」

「オレもちげぇよ!!」

「聞いた話しだと、こいつらは襲う相手を選んでるらしい。嘘か本当かは分からないけど。それを確かめる為にも、一度そちらの話しを聞かせてほしい」

「信じて下さい頭領!」

「頭領呼ばわりされる内は絶対信じない」


 警戒は解かなかった。相手は剣を握ったままで、しかも美形(コレ)なのだ。

 ファンタジー世界の定番、美形(イコール)強いの方程式。登場は劇的で活躍は派手で、死亡時の演出も感動必須の美形なのだ。

 否、その式でいくと空紀はゴブリンに殺されているので訂正。

 但し、努力は実を結ぶ。一気にスポ根に優しい世界になった。

 味方した訳ではないが、山賊側であるこちらがやられ役みたいになる事もありえる。

 仮正義側の剣はまだ下がらない。


「……二時間程前、一台の馬車とそれに項垂れる夫婦に会った。顔は青ざめ酷く憔悴した様子に、たまらずこちらから声を掛けた」


 対抗心を煽ろうとする背後の馬鹿達を牽制、話しを続けてもらう。


「聞くと経営難で関所に通行料を払えず、危険を承知でこの辺りの山中から首都を目指していたらしい。だが道中山賊らしき奴らに遭遇し、なけなしの商品を全て奪われたそうだ。命からがら逃げ延びはしたが、売る物を取られた商人夫婦に帰る先は無く、絶望に打ちひしがれていた」


 そして未来を閉ざした夫婦の前に、この男が現れた。


「商才など無い私は、たかが一騎士に過ぎない。ならば出来る事は一つだ。元凶を打ち、彼らの希望を取り戻す!山賊や盗賊はあまり狩場を変えない。商人と周辺の人の話しを聞き狙いを絞っていた最中、奇妙な魔力を感知した、ということだ」


 絵に描いたような物語だった。美形は己の信念に従い、それが正義と信じている。ここまで真っ直ぐでは、馬鹿らしいと馬鹿にすることも出来まい。

 しかもその馬鹿らしいを通せる力が備わっている事も、もはや拍手物の現実(ファンタジー)


「確かに、この辺で盗賊と言やーオレたちだけよ。けど断じて!堅気からは盗らねー!絶対だ!!」

「まだ誤魔化すか、外道め!!」


 どちらが()()()のか、どちらが()()()()()()のか。外面だけで決めるなら、迷う余地も無いのだが。


「盗ってねぇーって言ってんだろ!!話し聞けやこらぁ!!」

「貴様らの性根が人相に出ている!決して騙されないぞ!」


 山賊のような人相とはなんだろうか。足先で地面を数度叩く。


「お前達のような連中は、死んで当然なんだ!!!」


 糸が切れる音がした。

 素早く鉈を鞄から抜くと、誰も反応出来ない速度で、投擲した。




閲覧有難う御座いました。

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