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竜皇と魔王と獣王の話  作者: YY
地獄と三人と旅立ちの章
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14/71

第十四話

投稿します。

 


「かんぱーーーい!今日は飲むぞーーー!」

「この肉あと三皿くれ!!」

「果実酒おかわり!」

「……かん、ぱい」


 蓋を開ければ、二日未満でE+の依頼を成功させ戻ってきた。陽が高いうちに街へ着き、素材の納品と換金を済ませ早めの夕飯。由華先生絶賛の大戦果で乾杯だ。由華先生は酒を、豪狼は料理を口にしている、かなりの量。


「お?ユウカちゃん久しぶり!最近飲みに来ないと思ったら、新しい生徒さんかぁ?」

「久しぶり!そうなの!優秀な教え子ちゃんで、依頼達成記念に奢ってくれるっていうから来ちゃった!」


 この店は隣の酔っ払いが半端無理やり連れてきた。良い酒場を知っておくのも、冒険者を続けるコツだとか。奢りの件は初耳である。

 豪狼が事実無根だと訴えれば、いつもの喧嘩だ。子供のような悪口を言い合い、周囲の客が笑って見物する。

 食欲魔人が外を向いている内に、無事な料理を食べるだけ確保していく。丸テーブルを並べ酒を棚に陳列した典型の酒場だ、ツマミになる辛い味付けが多かった。長距離を歩いた身体に塩分が染みる。


 報酬はきっちり三等分、誰がどれだけ役に立ったかは考えない。依頼を受けると決めた時から話し合っていた。臨時のパーティで金の問題を大きくしても、禍根が残るだけだ。

 最低限の決め事が百足の意外な価値で崩れないか心配で、換金の手続きを買って出た。大金は人を惑わせる、大抵は悪い方に。張りぼての番犬係豪狼をお供にし、由華先生おすすめの問屋へ赴いた。

 まあまあの結果。防具に加工出来ると一部を残し、解体料を引いた百足の素材の売値を交渉。未だ観察期間中で金銭問題が無いとはいえ、今後を考えるならこの類の経験があっても困らない。相場が分からないからこその強気で、向こうの最初の提示額から一.八倍高く売れた。

 かなり渋い顔をさせてしまった、しばらくこの問屋は利用を控えようと思う。もしかしたら二度と来ないかもしれないが。

 “ポネットの店”にも立ち寄った。依頼の素材はギルドから配達されるが、別枠で月光草を売りに来たのだ。元々別の街から注文していた素材、その流れが滞っているなら数が多くても無下にはできない。


「ヒョッヒョッヒョッ!このパケット様に売り付けようとは、肝が座ってるもんだ」

「オレはつっこまねぇぞ」

「いいだろう、色を付けて買ってやる。ただし!折角来たんだ、新商品の一つも買って店を出るんだね。バジィ!」

「はいポポッポ師匠!」

「舌噛んだのか?わざとなのか?」


 効能を聞き、新商品は月光草の売値から引かれた。依頼の報酬と月光草の臨時収入、更に穴掘り百足の素材と全体で見ればアマチュア冒険者とは思えない稼ぎ。打ち上げの一つもしたくなるものだ。だから誰も由華先生の酒場行きを止めなかった。

 指導期間は今日を抜いて後五日。明日の朝からセチュアム外交官は出張で、懸念は減る。まだ時間はあると思われている内に決行すべきだ。


 呑み続けた由華先生は、顔を真っ赤にして机に突っ伏した。その体勢でボソボソ喋っていたが、やがて静かになる。眠っていた。他の酔っ払い客は、ここからが本番とばかりに騒いでいる。あれだけ呑んでいれば誰より早く潰れてもおかしくない。間違いなく潰れたフリではないだろう。


「昨晩の話しの続きをしよう」


 控え目に飲食を済ませ暇そうな矢背、食べてばかりで大して飲んでないのにほろ酔いの豪狼。もう少しまともな状態で話したかったが、由華先生が聞いておらず怪しい人がいない時が今しかない。


「私は勇者の街(ここ)を出て首都に行き、竜について知りたい。一応二人に言っとこうと思った」


 百足の件で身に染みた。空紀はやはりこの世界では新参者の異邦人で、人間一人の力などたかが知れているということを。手を借りられる可能性があるなら、話しをした方が賢明だ。


「だからよぉ、何でセンセーに言ったらダメなんだ?つーか行きたいなら行きゃいいじゃん」

「講習で言ってたでしょ、『勇者』は自己の確実な防衛力を上げる為、半年間の拠点移動を国監視下の元固く禁じるって」

「えーと、つまり?」

「この街から、依頼以が、いで。半年……以内に、出たらはん、犯罪」

「はあああ!?ここから勝手に動くなってかぁ?オレらは犬かよ!」


 自分の身は自分で守れる事を証明すれば解除される法律だが、かなり難しい。普通に考えれば半年我慢するのが一番楽な方法だ。


「つまり脱獄のお誘いか?何でそこまで行きたいんだよ?」


 脱獄、言い得て妙だ。生き残る為の行為が正しく反映された結果、一括管理の理由になっている。

 元の世界に帰らない人が居る原因の一つだろう。危険人物(ゆうしゃ)の機嫌を損ねないように作った檻の中(らくえん)は、帰らなくても良いと思ってしまう程度に快適だ。偶然手にした力を使えば、生活に苦労しない賃金が容易く手に入る。異世界(ファンタジー)に憧れる人間はどんな時代でも一定数存在するものだ。

 豪狼も住みやすさを早々に感じたのだろう。恐らく高校生らしい生活の不満が、この世界では適度に発散されるから。苛立ちをぶつける相手、縛られない社会方針、煩わしくない細かな義務。

 そこから危険を犯してまで脱却を望む理由が、分からないのだ。


「何でと言われても、竜を近くで見たいから、会いたいから」

「それ自殺か?」

「まあ今のままじゃ死ぬかもしれないから、鍛えないと。それに他人に束縛されるのは、嫌」

「束縛……」


 憶えていない事ばかりだが、元の世界の方が縛りは多い。法律や文化道徳個性の否定、家族を枷だと思う人もいる。

 しかし同じだけ選択肢も多かった。がんじがらめの法の上に、選択の自由があった。記憶が無くても、民主主義の精神は深く根付いたままだ。その心のままに行動したい。

 ウインナーの最後の一本をかじる。冷めていて大分味が落ちていた。


「いいぜ、首都。つながれるのも気に食わねぇし」

「正確には首都に着くまでの協力関係。着いてからはまた別」

「分かったって」


 不良は分かりやすい縛りを嫌う、束縛と言えば反抗心を刺激出来ると思ったが、単純で助かった。


「矢背は?」

「……えっ、と……アキ、さんと。一緒にい、いたい、です……」

「ん?首都まで同行する、てことでいいの?」

「ははいっ!」


 臨時パーティ結成。不安は多々あるが、ゼロからの人間関係よりマシか。


「オッケー、明日中に作戦を決めて三日以内に脱獄する。その位ならバレずに待てるでしょ」

「早っ!?」

「おいおい大丈夫なのかよ」

「作戦聴いて無理そうなら参加しなくていい、でも告げ口はやめてね」


 酒瓶を掲げる。酒精の混じった思考が、恥ずかしい行動を容認した。


「勇者の街脱獄作戦の成功を祈って」


 品のない瓶の激突音、酒場では珍しくない曲だった。
















 片手で包める大きさの水晶玉、触り心地は石のようだ。これが映像通信を可能とするのだから、異世界は凄い。距離に比例して魔力を馬鹿食いし、お値段も結構する。もちろん魔信球は空紀達の物ではなく、目の前の人気商会からの借り物だ。

 濁った球中に映る美希子の笑顔は、やはり肉眼で見るよりやや劣っていた。


「ご無事でなによりです!バンハット様とは会えましたか?」

「会えた、もう外で馬車の準備してると思う。色々ありがとう」

「いえ!アキさんの実力あっての事ですから!お連れの方々もそちらに?」


 頼りない星の光しか無い夜では、『風』の方がよく分かる。街を囲う壁の向こう、五台の馬車と十数人の社員や冒険者。その近くで落ち着きのない気配が二つ。


「外が楽しみ過ぎて小躍りしてる」


 実際は新調した防具が嬉しくてせわしないだけだろうが、知らなくてもいいことだ。


「うふふふっ!アキさんは楽しみではないんですか?」

「完全に追手が無いと確信するまでは、楽しめないかも」

「では確信したら、お楽しみ下さい。折角の旅なのですから、楽しまないと勿体ないですよ?」

「……そうだね。次話す時は、一日じゃ語れない冒険譚を用意しておくよ」

「はい、お気をつけて。一路平安を祈っております」


 指導期間残り三日、脱獄当日。






 空の色が微かに白んできた。


「よく分かんねえんだけど」


 頭の後ろで手を組み、豪狼が合流した首謀者を見る。彼からすれば、指示通りに動いただけ。作戦が成功するか、その進行状況の目安すら少ない。

 首都まで護衛する商会の準備はまだ時間が掛かる。


「座って話そうか」


 壁の付近は雑草も無い固められた砂地。地べたは汚れると文句を言う、冒険者になれなさそうな者はいなかった。

 商隊から離れて近づく人影は気にしない。


「脱獄を成功させる為に、クリアしないといけない事は?」

「あ?ユウカセンセーだろ?」

「国の、監視。外の知識……実、力」

「まあ一番はやっぱり監視だね。問題は監視の数と種類、どれだけの人間が監視をしていて、その体制はどんなものか」

「発信器か盗聴器か?」

「肉眼か魔法か。この世界の文明レベルを考えると、発信器とかがあっても原理は魔法でしょ。肉眼の監視で心当たりがあるとすれば、由華先生と屋敷を提供した外交官。実際はルゥルに任せてただろうけど」

「だ、だから、いつもはまだね、寝てる。時間に、街を出る、の?」

「いや、本当は昼食に先生誘って一服盛ろうと思ってた。眠らせたら友達に頼んだ馬車借りて、逃げようかと。陽が落ちるまで先生が起きなければ、最短でも明日まで捜索の時間が稼げるから」


 街を振り返る、小さな人影が慌てて視線から逃げた。


「まさか金持ち御用達で年中無休の門があったとは、タイミングも良かった。丁度首都まで行く商会が見つかった。それを見つけて紹介までしてくれた、私の友達には本当に感謝してる。お陰で危険の少ない方法をとれた」


 急いで出発する商会の存在を知り、その時間に合わせて計画を練り直した。

 昨日の午前中、配達の手伝いをしている時に連絡がきて、午後の依頼を最速で済ませた。旅の道具や新しい防具を購入し、美希子に借りた魔法鞄(マジックバック)の中へ隠す。屋敷まで空紀達を送る由華先生との会話でわざと、実力を確かめたい、強い魔物に挑みたい、とこぼした。夕食を済ませそれぞれの部屋に行き、夜明け前に街を出る計画を話す。

 防具と荷物を渡して、屋敷を出た。部屋に書き置きを残して。


「書き置き?」

「三人だけで討伐依頼に挑戦します、二・三日で戻る予定です、て」

「しょ、商会に着いた、後。別行動、したのは……」

「屋敷で貰ったステータスカードと、支給された防具を処分するため。森の中適当に捨てた」


 出来るだけ怪しい物は手元に置かない。居場所を知られるような魔法が掛かっているか、調べる手段も無いのだ。

 勇者の街のどの建物よりも高い壁を越えるのは、それほど難しくなかった。見廻りの兵士の目を盗み、外では森に内では街に紛れてしまえば、見つかるはずもない。


「今何か通りませんでしたか?」

「おいおい、魔物でもなきゃ普通この高さを登れる奴はいないって。お前が言ってた女冒険者が飛んで来たってのも、俺からすりゃ眉唾さ」

「ですからアレは……」


 見られてはいないし、通報した様子も無いので大丈夫。念の為、行き帰りで別の道を通る。

 一応発信器等の魔法を警戒し、カードと防具はグレイボアに括り付けた。目標が動いていれば、捜索をより遅らせられるかもしれない。由華先生への言葉、書き置きとグレイボア。騙されてくれたら御の字だ。


「けどよ、ギルドタグまで捨てる事なかったんじゃねぇの?」

「『勇者』は必ず登録されるギルド、用心は必要でしょ。この商人の門を通るのにいる物はお金だけ。それも護衛料から引かれるし、商会の護衛が絶対ギルド会員じゃないと駄目な訳じゃない。友達の紹介で初見にしては信用されてる、二人とも失礼はしないように」

「はーい」

「は、はい」

「ちなみにさっきからそこで話しを聞いている子は、バンハット商会の社長の息子さん。変な事しないでね豪狼」

「名指しかよ。よろしくなガキ」

「がっ、ガキじゃありませんゼルキンです!」


 大人ばかりの商隊で、子供は目立つ。やる事も無いのだろう、こちらに興味を持ち視界の端でうろついていた。

 綺麗に揃えた明るい茶髪、大きい瞳は琥珀色。高そうな清潔感のある服は、これからの長旅には合わないように思う。親の過保護と愛情が伺えた。


「空紀です、しばらく宜しく」


 手を差し出すと、驚いた表情で応じた。小さく柔らかい手だ。それでもこの世界で生きた経験値は、空紀達の何倍も多い。先輩の豊富な知識に期待しよう。

 ゼルキンの目を鏡に、夜明け前の空が見えてきた。


「出発します!!商会の者は馬車へ!!」


 正門が開く前に街を離れられそうだ。ゼルキンの背を押し、気持ちを切り替える。

 脱獄だ。


「首都までよろしく」

「足引っ張んなよ!つーかこのグローブヤバくね?ちょーいかす」

「す、裾が長い。どうや、たら短くで、へぶっ!?」


 防具を自慢したい不良、自己主張が薄いドジ、自分勝手でコミュ障の記憶喪失女。

 ファンタジーだなと思っていたが、こんな登場人物の物語は見たくない。だが他人を楽しませる義理も無い、なら自分の事だけ考えよう。

 わざわざ気にしなくてもこの旅の続きを開く読み手は、こんな主人公に共感する変わり者だろうから。




閲覧有難う御座いました。

辛い状況ですが、体には気を付けてお過ごし下さい。

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