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第5回「寝起きドッキリ大成功!!!」⑶

「ねえ、壮介君」


 

 現実世界でも、夢の世界でも、壮介の世界の登場人物は常にのいのいただ一人だった。


 脳髄のうずいの奥の奥までのいのいが侵食している。



 場面は学校の教室だった。

 大きな黒板に規則正しく並んだ机と椅子。座ってる生徒は誰もおらず、カーテンからは夕陽が差し込んでいる。さしずめ、放課後の誰もいない教室、といったところか。



「ねえ、壮介君、こっち向いてよ」


 壮介が振り向くと、そこには制服姿ののいのいがいた。


 紺色のブレザーに薄ピンク色のYシャツ。茶色のチェックのスカートに紺色のロングソックス。そして、ローファーの靴。完璧だ。

 完璧にして最強なJKファッションである。



「壮介君、用事って何?壮介君が呼んだから、私、わざわざ部活を抜けてここに来たんだからね」


 のいのいは壮介に封筒を見せた。

 文脈からすると、これは壮介がのいのいに差し出したものということだろう。無論、壮介には心当たりはないが、夢の中の壮介がのいのいを呼び出すために下駄箱かどこかに入れたに違いない。



「のいのい、大事な話があるんだ」


 夢の中の壮介が言う。この夢においては、夢を見ている壮介は、夢の中の壮介の言動をコントロールできないようだ。



「何?大事な話って?」


「のいのい、お…俺と……つ、つ…」


 夢の中の壮介がどもる。頑張れ。壮介は心の中でエールを送る。



「お、俺と……つ、つつつ……付き合ってみたりしてくれたりしたりしませんか?」


「壮介君、もっとハッキリ言って」


 お、のいのいの反応はまんざらでもなさそうだ。夢の中の壮介、あと一押しだ。頑張れ。



「のいのい」


「何?壮介君」


 夢の中の壮介が、今度は大きな声で、ハッキリと言う。



「俺と付き合ってください!」


「嫌だ」


 のいのいはシンキングタイムなしで即答した。夢の世界においても、現実はそう甘くなかったのである。



「じゃあ、試しに一度だけデートしてください!」


「嫌だ」


「じゃあ、せめて友達から」


「嫌だ」


 夢の中の壮介は往生際が悪かった。



「せめて1回だけヤラせてく…」


「嫌だ」


「せめてパンツだけでも見せ…」


「嫌だ」


「せめてブラジャーの上から…」


「嫌だ」



 キモい。キモ過ぎる。壮介は、夢の中の壮介を応援することを辞めた。



「じゃあ、せめて足の匂いを嗅がせてください」


「いいよ」



 キモ……って、ええええええ!!!!????



 ドン引かれる以外のオチがないと思われたオーダーに対し、のいのいからオーケーが出た。


 よっしゃああ!と夢の中の壮介が快哉を上げる。


 なんだこの展開。こんな夢を見るということは、壮介には潜在意識下にゆがんだ性的嗜好せいてきしこうがあるのかもしれない。



「はい。嗅いでいいよ」


 のいのいは近くにあった机の上に腰掛けると、靴を脱ぎ、長い脚を組み、上に重ねた脚の方のつま先を伸ばし、夢の中の壮介の方へ向けた。


 壮介的には、足よりも太ももに心惹かれた。しかも、ご存知のとおりJKのスカートの丈は超短い。おそらく9割強の男子が太ももに目が行く。



 しかし、夢の中の壮介は違った。



 一心不乱に足の方へと顔から突っ込んでいったのである。まさに変態そのものだ。



 壮介には信仰に近い確信があった。



 のいのいの足は臭くないはずだ、と。



 別にフローラルの香りまでは求めていない。

 しかし、絶対に臭いはずはない。それだけは絶対にない。おそらくは無臭である。



 夢の中の壮介の鼻先が足に近付くにつれ、壮介の中で恐怖心が芽生え始めた。



 もし、のいのいの足が臭かったらどうしよう。



 絶対にそんなことはないとは思いつつも、万が一臭かったらどうすればよいのか。

 もちろん、その一事をもってのいのいを嫌いになることありえない。

 しかし、かといってのいのいの足が臭くてもよいのかといえば、それは違う気がする。



 夢の中の壮介の鼻がローファーの足裏と接する。


 怖い。


 嗅ぎたくない。


 しかし、壮介の想いとは裏腹に、夢の中の壮介は、口から大きく息を吐き、スーっと鼻から吸い込む。





「臭っっ!!!!!!!!!!!」


 壮介は覚醒した。布団を掛けたまま上体を起こし、乱れた息を整える。


 そんな。そんなはずはない。

 のいのいの靴が臭いだなんて!!!



「壮介君、何が臭いの??」


 のいのいが壮介の布団の近くまで歩いてきた。


 偶然だが、夢の場面と同じように、紺色のロングソックスを履いている。


 どうするべきか。現実ののいのいの足の匂いを嗅いで確かめるべきか。

 いや、やはり怖い。絶対臭くないはずだが、先ほどの夢のように……




ーいや、待てよ。


 先ほど夢で嗅いだ匂いが、まだ香っている。


 のいのいの足から放たれているのではない。

 部屋全体から異臭がするのである。



「ねえ、壮介君、何が臭いの??」


 薄ら笑いを浮かべながら、のいのいが再度尋ねてくる。



-怪しい。



 壮介は匂いの正体を突き止めるべく、嗅覚に全神経を注ぐ。




ー分かった。



 これはガスの匂いである。



 壮介は布団をはねのけ飛び上がると、シンク下のガスの元栓がある部分を確認した。


 案の定、チューブが外れており、そこからガスが漏れていた。



「てってれー」


 のいのいが背後から壮介の肩を繰り返し叩く。

 どうせ例の「寝起きドッキリ大成功!!」のボードを持ちながら、満面の笑みで突っ立ってるのであろう。振り返って確認する価値もない。



 壮介はチューブを付け直すと、のいのいを視界に入れないまま、まっすぐ布団へと向かった。



「壮介君、無視しないでよ!!!!!」


 のいのいの抗議に耳を傾ける価値はない。



「いつもみたいにツッコんでよ!!!! 『殺す気か!!!!』って!!」



 やはりこの子は救いようもなくあたおかなのだろうか。

 『殺す気か!!!!!』どころの騒ぎではない。壮介がガスによって殺されるのだとすれば、同じ部屋にいるのいのい自身も死ぬではないか。無理心中だ。この子はそれほどの覚悟を持ってこのネタを仕掛けてきているのだろうか。



 壮介は布団に入り、目をつぶった。



「だから、寝ないでよ!!!!!起きてよ!!!!!起こしてるんだから!!!!」


 のいのいが金切り声を上げる。


 壮介は、この睡眠妨害の騒音を、鈴虫の鳴く声であると思い込むことにした。

 そう考えれば安眠に誘ってくれそうである。



「ねえ、起きてよ!!!! 冷めちゃうよ!!!」



 ん? 冷めちゃう? 


 のいのいが朝食を用意してくれたとでもいうのか?

 

 それは大変有り難い。


 ただ、大変申し訳ないが、今日だけは睡眠を優先させて欲しい。



「ねえ、冷めたら捨てちゃうよ!!」


 別に捨てなくてもいいじゃないか。

 のいのいの手作り料理であれば、冷めても美味しくいただけるし、レンジでチンもできる。



「お風呂の残り湯」



 壮介は布団をはねのけ飛び上がった。



 そして、風呂場へと全力ダッシュした。



「なんで起きるのよ!!!!!???? 私の入ったお風呂の残り湯への執念異常でしょ!!!!????」

「ダイヤモンド・プリ◯セス号の殺人」というクローズドサークルミステリーを書いたら読んでくれますか?

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