第5回「寝起きドッキリ大成功!!!」⑴
「元祖ブラック企業」を無事退職した壮介には、真っ先にやりたい「あること」があった。
週休0日、1日の平均労働時間16時間の会社に勤めている最中では、その「あること」は夢のまた夢であった。
その「あること」とは、昼間まで寝る、ということである。
誰にも邪魔されず、ただ欲望に従っているだけでよい時間を半日も過ごせるのである。
壮介はそのことにどれだけ憧れたことか。
のいのいと同棲し始めてから、その憧れはさらに増した。
なぜなら、のいのいは毎日昼間まで寝ていたからである。要するに嫉妬である。
いや、必ずしも嫉妬だけではない。
狭いワンルームで、のいのいと2人きりで昼間まで寝るという行為に憧れたのである。
別にあんなことやこんなことをしなくたって、同じ空間で眠りにつけるだけで幸せなのである。
いや、もちろん可能ならしたいが。
何はともあれ、会社を無事退職した日の夜、壮介は、携帯のアラームをセットしないまま、布団に潜り込んだ。
これから約半日間、壮介は夢の世界で過ごすのである。
のいのいは日常的に10時間前後の睡眠を要する生き物なので、壮介が床に就いた午後22時頃にはすでにすやすやと寝息を立てて寝ていた。まるで赤ちゃんである。
長年蓄積され、醸造された睡魔は、壮介をただちに眠りの世界へ誘った。
夢の世界で、壮介はのいのいと出会う。
場面は満開の桜の木の下である。少し暖かくはなってきたとは言え、季節は冬であり、桜の季節まではまだだいぶ距離がある。
夢の中の壮介は、これが夢であることにすぐ気付いたが、夢の世界を純粋に楽しむことにした。
「壮介君、私、壮介君とずっとしたかったことがあるの」
純白のレースのワンピースで華奢な身体を覆ったのいのいが、もじもじと身体を揺らす。
「のいのい、どうしたの?俺が協力できることならなんでもするよ?何?」
「……うーん、言うの恥ずかしいよお」
「じゃあ、やめておく?」
「ううん。ダメ。これだけは壮介君にしか頼めないことなの」
「俺にしか頼めないこと?」
「そう」
のいのいは白い頬を桃色に染める。
「よしっ」とのいのいは自分を励ますと、壮介の方に一歩二歩と詰め寄ってきた。
現実のチキンな壮介であれば、それに合わせて後ずさりしてしまったであろう。
しかし、夢の中の壮介は、吐息がかかる距離まで、のいのいが近づいてくることを許容した。
「ねえ、壮介君」
のいのいがささやくような声で言う。
「何?」
「私とキスして」
我が夢ながら何のひねりもない展開である。もっとも、ストレートな展開だからこそ、素直に欲情してしまう。
のいのいのピンク色の唇が徐々に壮介の唇に迫る。
そしてー
壮介は覚醒した。
チッ……。素敵な夢というのは、いつも一番良いシーンで遮られてしまうものである。タイミングが悪過ぎる。あと少しでも目覚めるのが遅ければ……。夢でもいいからのいのいの唇の感触をたしかめたかった。
壮介が瞼を開けると、そこには真っ白なワンピースを着たのいのいではない、真っ白な何かがいた。
その真っ白い何かは、壮介の目と鼻の先にいて、ピンク色の舌を伸ばしている。
「うわあっっ!!!!!!!!」
壮介は布団をはねのけ飛び起きた。
その真っ白い何かはブラ子だったのである。
「あーあ、せっかくチューできそうだったのに!!」
「殺しのキスだわ!!!! 死ぬわ!!!!」
「ちょっと、ブラ子だって女の子なんだから、そんな酷いこと言わないでよ」
「コブラのオスメスなんて知るか!!!! コブラなんだぞ!!?? 猛毒なんだぞ!!??」
クスクスと笑うのいのいの手には、例のアレが握られていた。
「寝起きドッキリ大成功!!!」と書かれたボードである。
「不適切なんだよ!!!! そっと忍び寄って人を殺めるコブラは寝起きドッキリに不適切なんだよ!!!!!」
「でもドキッとしたでしょ?」
「するに決まってんだろ!!!!」
それにしてもギリギリのところで目を覚ませて良かった。最高のタイミングだった。あと少しでも目覚めるのが遅ければ……。
とんだ邪魔が入ったが、過ぎてしまったことを責めても仕方がない。
今壮介に一番必要なのは睡眠である。
窓からまだ日が射していないことから察するに、おそらくまだ明け方だろう。一刻も早く布団に戻らなければ。
壮介はブラ子の首根っこを掴み、水槽の中に戻すと、布団の中へと舞い戻った。
「ええええっ!!!???のいのいがせっかく起こしてあげたのに、二度寝するの!!!???」
のいのいとヤーヤー言い合いをする暇などない。壮介は寝ることで忙しいのである。
目を閉じた壮介は、圧倒的な睡魔によって迎えられた。
創作について語れるコンカフェがあれば通うのに…
今日は久々のオフです。
現在、5話分くらいストックがあるのですが、これ以上ストックを増やしても意味がないので、今日は書いた分だけ投稿していこうと思います。




