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第3回「のいのいの箱の中身はなんだろな?」⑴

 やはりのいのいはみがけば光る逸材いつざいなのだ。


 結局昨日アップされた「美少女YouTuberといきなり同棲生活」は、丸一日経って4000PVに届こうとしていた。のいのい配信史上最大のPV数である。


 のいのいはそんじょそこらの「自称YouTuber」たちとは格が違うのだ。ルックスという絶対的な武器がある。まともな配信さえ続けられれば、どんどん上を狙っていける。



 まともな配信者になるために、まず着手すべきなのは、チャンネル名の変更だろう。言うまでもなく、チャンネル名は配信の顔であるし、視聴者の第一印象を大幅に左右する。


 

 その大事なタイトルが「美少女YouTuberのいのいのワクワクコブラパーク」なのである。



 自分で自分のことを「美少女」と名乗っているのは正直痛い。しかし、これはまだ許容範囲である。動かしがたい事実でもある。



 問題は「コブラ」である



 壮介は、初めてのいのい配信を見たときから最初の1ヶ月くらいは、ずっと「コブラ」ではなく「コアラ」だと勘違いしていた。


 可愛い女の子がアイコンに使う動物は、犬か猫かウサギかコアラかパンダと相場が決まっている。

 きっとのいのいはコアラ党で、コアラが好き過ぎてチャンネル名につけてしまったのだろうと思っていた。



 約1ヶ月が経ったあたりで、壮介は「コアラ」ではなく「コブラ」だと気付いた。

 それ以降は、これは誤字に違いないと思い込むようにした。のいのいはタイトルコールでハッキリと「コブラ」と発音しているが、滑舌の問題に落とし込もうとした。


 単なる視聴者であれば、そのように自分なりの解釈をし、都合よく事実を歪曲わいきょくできる。


 しかし、のいのいと同棲し、配信に参加する立場になった以上、この「コブラ問題」に正面から向き合わねばならない。



 たしか昔の配信で、のいのいは「ワクワクコブラパーク」の名前の由来について、「私の存在が甘い系だから、かっこいい系もテイストも出したかった」と説明していた。自分のことを「存在が甘い系」と称することの痛さはいておくとして、要するに、大した理由はないのである。



 今日はかろうじて終電で帰れたため、のいのいと話す時間もありそうだ。チャンネル名の変更を打診しよう。




「ただいま」


「おかえり」


 昨日のように、のいのいが「浮気してたでしょ」と詰め寄ってくることはなく、ワンルームから声だけが届いた。面倒な絡みがなくホッとする一方で、玄関まで迎えに来てくれないことは少し寂しく感じた。



 

 部屋に入ると、大きなクエスチョンマークが書かれた箱が目に飛び込んできた。



「のいのいの〜箱の中身はなんだろな? イエーイ!!」


 企画内容が発表され、のいのいがパチパチと手を叩く。


 配信のネタとするために壮介が帰ってくるのを待ち構えていたことは昨日同様らしい。


 確認すると、やはり戸棚の上には撮影用の小型カメラが置かれている。



「えらい古典的な企画だな」


 壮介は愚痴ぐちっぽく述べたが、内心はのいのいを褒めたい気分だった。独創性が迷走しているいつもの企画よりも幾分いくぶんもマシである。



「古典的だからとくにルール説明は要らないよね? さあ、手を突っ込んで当ててみて!」


 

 今日ののいのいのファンションはグレーのニットに千鳥格子ちどりこうし柄のロングスカート。

 だいぶ落ち着いた服装と裏腹に、のいのいは子どものような無邪気な笑顔である。

 何か邪悪じゃあくなことを企んでるに違いない。



 クエスチョンマークの書かれた箱は、よく見ると長さ50センチほどの水槽が、クエスチョンマークが印刷された紙におおわれているものだった。壮介でなくとも、誰でもピンとくるだろう。



「のいのい、中に危険生物入ってるだろ?」


「さあね。とりあえず手を入れてみれば?」


「その『とりあえず』によって取り返しがつかなくなったらどうするんだ?」


「分かんない。とりあえず試してみれば?」



 壮介の知る限りでは「箱の中身はなんだろな?」ゲームで過去に死者が出たという話は聞いたことがない。

 しかし、油断してはならない。

 のいのいに演者を生かすか殺すかの加減が上手くできるとは思えない。



「中身を当てればいいんだな?」


「そうだよ」


「ヘビ」


「ブーッ」


 のいのいが両手でバッテンを作る。



「サソリ」


「ブーッ」


「カミツキガメ」


「ブーッ」


「ハリネズミ」


「ブーッ……て、ちょっと、当てずっぽうで答えないでよ。箱の中に手を入れて、触ってから答えてよ」



 のいのいから的確な指摘が入った。とはいえ、手を入れる前に、予想がつく危険生物については可能性を潰しておきたい。



「ムカデ」


「ブーッ」


「ハチ」


「ブーッ」


「ゴキブリ」


「ブーッ」



 そろそろ出尽くしただろう。今まで挙げたものが該当しないとすれば、壮介の身の安全は確保されているといえる。


 壮介は、腕まくりをすると、右手を水槽の中に突っ込んだ。


 指先に触れたのは、冷たいうろこのようなものであった。一瞬魚かと思ったが、水槽は水に満たされてるわけではない。

 とすると、やはり-



「のいのい、やっぱりヘビじゃないのか?」


「ブーッ。違うよ」


「じゃあ、トカゲ」


「ブーッ」


「ヤモリ」


「ブーッ」


「のいのい、ヒントちょうだい」


「この配信のタイトルは、のいのいのワクワク……?」



 壮介は光よりも速い速度で手を水槽から引き抜いた。



「おい!!!!! 超危険生物じゃねえかよ!!!!!!!」


 心臓のバクバクが止まらない。



「もしも噛まれたらどうするんだよ!!!????」


「病院に連れてく」


「死んだらどうすんだよ!!!???」


「お葬式する」


「淡々と答えるな!!!!!」



 壮介は、大好きな「女神様」に対して、はじめて殺意を抱いた。悪びれる様子もなく笑いをこらえるのいのいを、壮介は睨みつける。



「だいたい、俺は最初に『ヘビ』って答えたよな?」


「うん」


「『ヘビ』は正解だよな?」


「ううん。ヘビとコブラは別の生き物だよ」


「一緒だ。コブラもヘビのうちだろ」


「そんなこと言ったら、徳川家康も豊臣秀吉も人間のうちだから、歴史のテストで解答欄全部に『人間』って書けば満点っていうことになっちゃうよ?」



 欠陥だらけの論理のようでいて、なかなか反論が難しい。壮介は唇を噛みしめる。



「まあまあ、くだらないことで言い争うのはよそうよ」


 のいのいは壮介の肩をポンポンと叩くと、水槽に近づき、覆っていた紙を全て剥がした。


 水槽には、まぎれもなくコブラが入っていた。体長70センチほどの真っ白いコブラが。




 ブックマークや評価を下さる方がいて本当にありがたいです。

 今作は、とにかく字数をたくさん書きたいという思いで書き進めていますが、やはりptがもらえると張り切れますね。今後とも精進します。

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