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身代わりで嫁いだのに今更変わってと言われましても  作者: 柏てん


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03 晩餐会


 結婚式の後は、辺境伯家主催の晩餐会が催されることになっていた。

 贅を凝らした料理がたくさん用意され、使用人たちが忙しそうに動き回っている。

 広間には百人以上の招待客が詰めかけていた。長テーブルに彼らが座るさまは圧巻だ。今日のために練りに練られた席順は、客の地位や人間関係などを慮って決められたものに違いない。

 この地に到着したばかりの私は、残念ながら結婚式の準備にはほとんどといっていいほど関わっていなかった。

 つまりこれらは辺境伯家が総力を挙げて準備したもので、先方のこの結婚にかける本気度が伺える。

 一番目立つ席でぼんやりそんなことを考えていたら、会場がざわめいた。

 何事かと顔を上げると、入り口から長身の影が足早にこちらに近づいてくるのが見えた。

 夏の夜に藍色を混ぜたような黒髪は、先ほど見た騎士のそれだ。

 だが先ほどとは打って変わって、最上級の礼服に身を包んだ彼は思わずため息が漏れるほど凛々しかった。

 実際、会場のあちこちからため息が漏れている。

 がたんと音が鳴る。そちらに目をやると、ヘレナが立ち上がっていた。その視線は食い入るように、ジークヴァルトを見つめている。

 彼は足早に私の前までやってくると、私を見下ろすようにして立ち止まった。よほど急いだのか、少し息が切れている。

 さすがに座ったまま出迎えるわけにはいかないと、慌てて立ち上がる。

 目の前で見ると、白い顔に象嵌された金の目の迫力に息をのむ思いだった。表情は厳しく、思わず背筋が伸びる。

 本当にこの人と結婚したのかと思うが、実感がなかった。やはり何かの手違いじゃないのかと思えてくる。手違いだったらそのうち追い出されるかな。今後の身の振り方について、本気で考えておくべきかもしれない。


「先ほどは失礼した」


 一瞬何を言われているのかわからなかった。謝られていると気づいたのは、たっぷり一呼吸ほど置いた後だ。


「い、いえ」


 何について謝られているのだろう。結婚式を欠席したこと? それとも血まみれで驚かされたこと?

 そもそも辺境伯家の当主であるこの人が、伯爵家の養子にすぎない私に謝罪するなど思ってもみなかった。

 それからジークヴァルトはさらに何事か言いかけていたが、すぐにやめて空席になっていた私の隣に並んだ。


「式に参列いただいた皆様にも、改めて謝罪を。火急の事情により皆様を出迎えることが叶わず申し訳なかった。その分まで、今夜は存分に楽しんでいっていただきたい」


 呆気に取られていた人々は、拍手をし思い出したかのように立ち上がる。その手にはいつの間にか麦酒の注がれた陶製のジョッキが握られていた。

 はっとして私もテーブルからジョッキを手に取る。

 バタバタとあわただしく伯父が前に出てきた。きっと式次第とは異なる進行なのだろう。伯父の顔には、張り付けたような笑みの他に隠し切れない焦りが浮かんでいる。


「えー、改めましてシュトラウス家とコルネリウス家の友好と二人の結婚を祝しまして、乾杯!」


「乾杯!!」


 ジョッキが掲げられ、陶器がぶつかり合う音があちこちから聞こえてくる。

 私も差し出されたジークヴァルトのジョッキに、自らのそれを遠慮がちにぶつけた。麦酒はあまり得意ではないが、出されたからには残すわけにはいかない。

 何とか口に流し込んで席に座ると、今度は次々と料理が運ばれてきた。

 中でも特に目を引いたのは、この日のために用意された巨大な豚のローストだった。まるまる一頭分あるそれを、ジークヴァルトがきれいに切り分けていく。

 古くから肉料理を家の主人が切り分けて供するという話を家庭教師から聞いてはいたが、実際にその様子を目にするのは初めてだった。

 なにせ付け焼刃令嬢なのだから仕方ないと思うのだが、一方でジークヴァルトの態度は堂に入っている。

 そもそも昼間まで剣を携えて魔獣討伐に行っていたくらいなのだから、刃物の扱いに慣れているのだろう。

 招待客は行儀よく自分の席に座り、近くに座る者同士で会話に興じつつ食事を進めていた。

 乾杯の大役を終えた伯父はといえば、隣で言い募るヘレンに何か言い聞かせている様子だ。食べ進める余裕がないのか、手元の皿は料理が乗ったままになっている。

 こうして無事食事をおえると、その場は解散となった。

 ジークヴァルトは男性陣に引き留められ、ジョッキにどんどん酒を注がれている。

 私も付き合った方がいいのだろうかと一瞬迷ったが、上級使用人らしき女性が近づいてきて部屋まで案内してくれた。

 またしても、ジークヴァルトとゆっくり話すことができなかった事を心残りに思いつつ、私は食堂を後にした。



ブックマーク及び評価くださった方ありがとうございます

なんとか続けられるよう頑張ります



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