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冷徹公爵の観察日記をつけていたら、いつの間にか溺愛されていました  作者: 冬眠前


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第6話 観察対象、観察記録が気になる


「セバスチャン。」


「はい、公爵様。」


「……一つ聞きたいことがある。」


執務室。


書類から顔を上げたアルベルトは、できるだけ自然を装って言った。


「観察記録とは、普通は本人に見せるものなのか?」


セバスチャンが瞬きをした。


「いいえ。」


「そうか。」


「そもそも奥様以外で観察記録をつけている方を存じ上げませんが。」


「……そうか。」


アルベルトは視線を書類へ戻す。


だが、文字が頭に入ってこない。


気になる。


非常に気になる。


昨日も、


『大型猫は褒めて育てるのが正解かもしれない。』


と書いていた。


何を育てるつもりなのだ。


「公爵様。」


「何だ。」


「気になるのでしたら、お聞きになっては?」


「気になどなっていない。」


「左様でございますか。」


「……。」


「ちなみに奥様は現在、中庭にいらっしゃいます。」


「そうか。」


「ノートもお持ちでした。」


「そうか。」


「猫もおります。」


アルベルトは立ち上がった。


「少し様子を見てくる。」


「はい。」


「仕事の確認だ。」


「はい。」


「決して観察記録が気になったわけではない。」


「もちろんでございます。」


セバスチャンは微笑んだ。


その顔が少し気に入らなかった。


---


中庭。


リリアーナはベンチに座っていた。


膝の上にはノート。


足元には例の猫。


そして。


「なるほど。」


ペンが走る。


「何を書いている。」


「観察記録です。」


即答だった。


「それは知っている。」


「猫さんの観察です。」


アルベルトは猫を見る。


猫は気持ち良さそうに丸くなっている。


「猫の?」


「はい。」


リリアーナはページを見せた。


---


観察記録。


・本日も当然のように膝に乗る。


・警戒心が薄い。


・日向を見つける能力が高い。


考察:


かなり優秀な猫である。


---


「猫の観察もするのか。」


「面白いですよ。」


「そういうものか。」


「はい。」


リリアーナは笑う。


「観察すると、知らなかったことがたくさん見えてきます。」


アルベルトは少し黙った。


「例えば?」


「猫さんは、公爵様の足音がすると耳が動きます。」


「……。」


「公爵様が来るのを待っているみたいです。」


猫が鳴く。


まるで肯定するように。


「あと。」


「まだあるのか。」


「公爵様も猫さんの足音に気付くのが早いです。」


アルベルトは黙った。


図星だった。


「観察対象が増えているな。」


「公爵様は特別枠です。」


「特別。」


「長期観察対象です。」


「それは嬉しいのか。」


「研究者としては嬉しいです。」


「研究者ではないだろう。」


「自称です。」


---


風が吹く。


庭の木々が揺れる。


しばらく静かな時間が流れた。


すると。


「……見せてもらえないのか。」


アルベルトが小さく言った。


「何をですか?」


「観察記録だ。」


リリアーナは目を丸くした。


「興味があるのですか?」


「参考までにだ。」


「なるほど。」


その『なるほど』は嫌な予感がする。


「参考資料として、一部なら。」


リリアーナはページをめくる。


---


観察記録 No.5


・『君を愛することはない』と言った。


・しかし朝食は一緒に食べる。


・名前呼びを許可。


・困っている人を放っておけない。


考察:


言葉と行動が一致していない。


---


アルベルトが固まった。


「……一致していないか。」


「はい。」


「そう見えるのか。」


「はい。」


リリアーナは首を傾げる。


「嫌いな人と朝食は食べないと思います。」


「……。」


「名前呼びも許可しないと思います。」


「……。」


「だから。」


リリアーナは笑った。


「少なくとも嫌われてはいないと思っています。」


アルベルトは言葉を失った。


嫌っていない。


そんなことは当たり前だった。


最初から嫌ってなどいない。


ただ。


どう接していいか分からなかっただけだ。


「公爵様?」


「……いや。」


アルベルトは空を見る。


そして、小さく息を吐いた。


「君は本当に変わっている。」


「よく言われます。」


「だが。」


言葉を探す。


うまく見つからない。


結局。


「……助かる。」


それだけだった。


リリアーナは少し驚く。


そして。


慌ててノートを開いた。


「待て。」


「重要事項です。」


「書くな。」


「観察対象から感謝を確認。」


「書くな。」


「極めて希少な現象。」


「書くなと言っている。」


猫が「みゃあ」と鳴く。


まるで笑っているようだった。


---


その日の観察記録。


・観察対象、自ら観察記録を要求。


・感謝を口にした。


・最近、否定の勢いが弱くなっている。


考察:


観察対象が観察に慣れ始めている可能性が高い。


追加観察を要する。


非常に要する。


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