第13話 実家からの手紙
「奥様、お手紙が届いております。」
朝食の席で、セバスチャンが一通の封筒を差し出した。
見慣れた紋章。
男爵家。
私の実家だった。
「父からですね。」
封を切る。
中には見慣れた父の字が並んでいた。
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リリアーナへ。
公爵閣下に迷惑をかけていないか。
粗相はしていないか。
困ったことがあれば遠慮せずに帰ってこい。
父より。
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「父らしいですね。」
私は思わず笑う。
「心配しているのだろう。」
アルベルト様がコーヒーを置いた。
「はい。父は昔から心配性なんです。」
「男爵家からすれば当然だろう。」
「そうでしょうか?」
「公爵家だ。」
アルベルト様は淡々と言う。
「普通なら緊張する。」
なるほど。
それはそうかもしれない。
私は少し考える。
「父は公爵家というより、公爵様を心配していましたね。」
「私を?」
「はい。」
アルベルト様がこちらを見る。
珍しい。
今日は視線を逸らさない。
「『怖い人ではないか』と言っていました。」
「……。」
「あと、『怒らせるな』とも。」
「……。」
「それと――」
私は手紙を見返す。
「『もし辛かったら帰ってこい』だそうです。」
静かだった。
少しだけ。
本当に少しだけ。
空気が変わった気がした。
「公爵様?」
「……帰りたいと思ったことはあるか?」
私は首を傾げた。
「ありませんよ?」
即答だった。
今度はアルベルト様が止まる。
「ないのか。」
「観察対象がいますので。」
「理由がおかしい。」
「重要ですよ?」
私は頷く。
「最近は笑う回数も増えましたし。」
「……。」
「猫さんもいますし。」
「そちらの比重が大きくないか?」
「同じくらいです。」
「そうか。」
なぜだろう。
少しだけ安心したように見えた。
気のせいかもしれない。
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「そういえば。」
私はふと思い出す。
「父が一度お会いしたいそうです。」
アルベルト様の動きが止まった。
「私に?」
「はい。」
「なぜ。」
「娘を預けている相手ですから。」
「……。」
「たぶん緊張しています。」
「それは分かる。」
「父が。」
「……そうか。」
少し間が空く。
「公爵様?」
「いや。」
アルベルト様は視線を逸らした。
「私も少し緊張している。」
私は瞬きをした。
「公爵様がですか?」
「ああ。」
驚いた。
非常に驚いた。
私は慌ててノートを開く。
「待て。」
「重要事項です。」
「何を書く。」
「観察対象、初対面の相手には警戒心が強い可能性。」
「違う。」
否定が早い。
「大型猫は縄張りの外では――」
「違う。」
「なるほど。」
「その『なるほど』はやめろ。」
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その日の観察記録。
・実家からの手紙に反応あり。
・観察対象は『帰る』という言葉を気にした。
・初対面の義父との面会に緊張している。
考察:
大型猫は家族認定した相手が離れることを嫌う可能性がある。
追加観察を要する。
非常に要する。
「書くな。」
「もう書きました。」
「最近諦めるのが早くなっていないか?」
「観察対象の学習能力が向上していますね。」
「違う。」
「なるほど。」
「本当にやめろ、その返事は。」
私は少し笑った。
アルベルト様も少し笑った。
最近、この笑顔を見る機会が増えている。
観察は順調。
非常に順調である。




