灼熱の群れ
空を覆う二十八体の灼熱ワイバーン。
その咆哮だけで大気が震えた。
次の瞬間。
灼熱のブレスが、一斉に放たれる。
轟音。
炎の濁流。
十八層そのものを焼き払うような火炎が押し寄せた。
「遅え」
霧島が煙草を咥えたまま呟いた。
紫色の煙が吐き出される。
ただそれだけなのに、炎が止まった。
「……は?」
思わず声が漏れる。
巨大な火炎の奔流が、空中で完全に静止していた。
煙に触れた場所から、時間が止まったように動かなくなっている。
「便利だろ」
霧島が笑う。
直後、止められていた炎が一斉に向きを変えた。ワイバーンの群れへ向かって。
轟ッ!!
自分たちの吐いたブレスが、自分たちへ降り注ぐ。
数体のワイバーンが悲鳴を上げた。
そこへ、黒い影が飛び込む。
黒城だ。
地面を蹴った瞬間には、もう一体目の懐へ潜り込んでいた。
一閃。巨大な首が宙を舞う。
二閃。翼が切断される。
三閃。落下してきた別個体の喉を貫く。
あまりにも速い。
ワイバーンたちは黒城を視認できていなかった。
ただ次々と死んでいく。
――パンッ!
乾いた銃声。
天宮の魔力弾が空を裂く。
四百メートル以上離れた個体の眼球を撃ち抜いた。
脳。魔核。
巨体が悲鳴を上げながら墜落する。
「相変わらず化け物だな」
曲湾師が笑った。
そして、右手を軽く振る。
空間が歪む。
グシャリ。
上空を飛んでいた三体のワイバーンが、見えない巨大な手で握り潰されたように圧縮される。
骨が砕ける音。肉が潰れる音。絶叫。
数秒後には巨大な肉塊になって地面へ落下していた。
「お前も十分化け物だろ……」
霧島が呆れたように言う。
「褒め言葉だな」
曲湾師は楽しそうに笑った。
『寝て』
夢喰いが呟く。
上空の一体が、突然羽ばたきを止めた。空中で眠ったのだ。
当然、そのまま墜落する。
轟音。
地面が揺れる。
「反則だろ」
「お前が言うな」
曲湾師が即座に返した。
戦況は一方的だった。
Bランク上位。
本来なら災害指定級。
だが、ここにいるのは、S級二人とA級最上位そして、国家級二人。
数の差など意味を成さない。
十分後。
最後のワイバーンが地面へ落ちた。
十八層に静寂が戻る。周囲には二十八体の死骸。
まるで竜の墓場だった。
黒城は血の付いていない短剣を納める。
「休憩十分」
誰一人息すら乱していない。
「その後、十九層へ向かいます」
その言葉に全員が頷いた。十八層の最奥。
巨大な岩壁の向こうには、十九層へ続く階段がある。
そして、その先に待つ二十層。このBランクダンジョンの王。
私たちは、ついに最深部へ向かおうとしていた。




